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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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アースヘルム観光

 庭に出ると、僕たちがコーストリナから乗ってきたものと同じくらい大きな馬車が準備されていた。ルーナがコーストリナへ来た時のものとはまた違った、純白の馬車。扉には、やはり、コーストリナの国章の月を象った文様がついている。大きな体と丈夫そうな筋肉のついた二頭の白馬に牽引されている。


「皆様、どうぞお入りください」


 僕たちを案内してくれるリサさんに、馬車の扉を開かれた。僕が動かないと他の皆も動けないだろうと思い、僕は扉の前に置かれた真紅の台に足をかけると、ルーナに手を差し出した。


「お手をどうぞ」


 僕が手を差し出すと、ルーナもその手を取ってくれる。そして、ルーナが馬車の中へと入ると、僕は続けて、サラさんや子どもたちにも手を差し出した。


「そ、そんな、わ、私」


「サラ様。こういう時には、リードされるものですよ」


 リサさんに促されて、サラさんもおずおずと僕の手を取る。僕は続けて、子どもたちにも手を差し出した。子どもたちは、このようにエスコートされた経験がないようで戸惑っているようだったけれど、リサさんに一人ひとり丁寧に手ほどきされて、たどたどしい手つきで、皆、僕の手を取って馬車へと乗り込んだ。


「リサさんもどうぞ」


 僕は、最後まで残られたリサさんにも手を差し出す。しかし、リサさんは、大丈夫です、と手を取られなかった。


「大変申し訳ありません、ルグリオ様。ですが、私は御者台で皆様を案内する役目を仰せつかっておりますので」


 申し訳なさそうに謝罪された。


「いえ、こちらの方こそ失礼致しました」


 僕が馬車の中に入ると、外から扉を閉められた。



 馬車の内部は広く、僕たちは9人も乗っているというのにも関わらず、窮屈さを全く感じられなかった。それどころか、むしろ、広々と感じられる。


「これは、馬車にかけられている魔法のおかげらしいですよ」


 僕が馬車の内側を見回していると、ルーナが説明してくれた。扉をくぐると、空間が自動的に調節される効果があるそうだった。


「こちらへの滞在中に覚えられれば、帰りはゆったりとできそうだね」


「はい」


 ルーナも頷いてくれたので、是非覚えて帰ろうと僕は頭にしっかりとメモをした。



 それでは出発いたします、と外から声がかけられて、馬車が動き出したようで窓から見える景色が馬車の進行に合わせて移り変わる。というのも、発車の振動を全く感じられなかったため、リサさんの声と、移り変わる景色がなければ気づかなかっただろうと思わせるほどだった。子どもたちも、窓から見える景色が動き出したことで、興奮している様子だった。皆、席に膝立ちで外を眺めていたため、サラさんに注意され、レシルに抱えられて向きを直されていた。もっとも、ルーナは気にしていません、と言ってくれてはいたのだが。

 最初に向かったのは、どうやら学生街のようで、ルーナと同じくらいの子供から、僕と同じくらいの少年少女まで、たくさんの学生と思われる子供たちで溢れ返っていた。


「こちらは学院前の学生街になります。もうすぐ始まる学院に備えて、今が一番賑わう時期です」


 外から、リサさんの説明が聞こえる。

 窓から見える学生たちは、珍しそうな顔つきで馬車を眺めていた。新入生が多いらしく、待ちきれずに制服を着ている子供たちがたくさんの荷物を運んでいた。

 そんなにたくさんの荷物を運びながら余所見をしていて、集中が切れたら運んでいる荷物を落としてしまうよ、と言いかけたのだが、馬車の中から声をかけても意味はないだろう、と思い直してハラハラとしながら眺めていたら、まさに、魔法の集中が途切れてたくさんの荷物を崩れさせてしまい、慌てて回収している子が目に入ってしまった。幸い、近くにいた人たちが荷物を拾うのを手伝っていてすぐに集められたようだったので、僕はほっと胸を撫で下ろした。

 僕はあんな風に買い物をしたことはなかったなあ、と学生時代の自分に想いを馳せる。とはいっても、ほんの数年前のことなのだけれど。そして、今なら収納の魔法が使えるから、やっぱりあのような事態は起こらないなあと、ルーナの方を見た。そう言えば、ルーナはもう学院の準備を済ませていると言っていたから、今も荷物を収納して持ち歩いているのだろうか。部屋に出しておくと、かさばるだろうし。


「どうかなさいましたか」


 そう思っていると、僕の視線に気づいたようで、ルーナがこちらへ顔を向けてくる。意識しているのか、それともしていないのか、傾げられた顔が可愛らしい。僕が、何でもないよ、と告げると、そうですか、と言ってまた外の景色へと目を向けた。

 次に案内されたのは、フィリエ通りと呼ばれているらしい長く広い街道だった。通行の邪魔にならない程度に多くの美術作品が立ち並んでいる。大きな人型のオブジェや、立ち並ぶ店に掲げられた独創的な看板。それらのどれもが人目を惹くデザインで、製作者の、自分の作品を見てくれ、と言わんばかりの気持ちが伝わってくる。


「この辺りを上空から見下ろしますと、巨大な絵が出来上がります」


 僕たちは馬車の外へ出て、それぞれ思い思いの作品を眺めていたのだが、リサさんに、一度、馬車にお入りください、と言われたので馬車の中へと戻ると、ふわりと馬車が空へと舞い上がった。

 一体、どうなっているんだ、という疑問も挟む暇もないまま、僕たちが驚いている間に、馬車は空中で停車した。


「これより、馬車の底を透過させて、下をご覧になれるように致しますが、下に落ちるようなことはございませんのでご安心ください」


 それならば、先に透過させておけば良かったのではと聞くと、驚かせるためです、とお茶目にウインクされた。




「すごーい」


 床下に見える景色に、子どもたちは歓声を上げた。僕も感心して見入っていた。すごいな、こんなことを考えて、街を作っているのか。街全体で、巨大な絵が出来上がっていた。大地をキャンバスに見立てると、さながら絵具は建物や街道そのものだった。そのスケールの大きさに、僕たちは唯々圧倒されていた。馬車が地上に降りても、興奮は冷めることはなかった。確かに、上空で透過させた方が効果的だな。きっと、狙い通りだったのだろう。リサさんも、そんな僕たちの様子を見て満足している様子だった。

 その他にも、国内随一と呼ばれるマシュルーク学院、ここで式を挙げると必ず円満が保証されるというマリヴェーラ教会、荘厳な噴水が中央に設置されている花園リーフェル園など、日が傾くまで、僕たちは観光を満喫した。子供たちも、ここは空から見えたあの場所だ、などと言い合って、観光を心から楽しんでいる様子だった。


 


 辺りがすっかり夕日に染められるころには、僕たちは城へと戻って来ていた。


「ルグリオ様。楽しんでいただけましたか」


 馬車から降りると、ルーナに尋ねられた。


「うん。とっても楽しかったよ。ありがとう」


 それから僕はリサさんの方を向いて、改めてお礼を述べた。


「今日はありがとうございました。特に、上空からの景色は圧巻でした」


 敬語は使わなくていいと言われていたけれど、しっかりと感謝を伝えたかった。


「楽しんでいただけたようで何よりです」


 リサさんも微笑みとお辞儀を返してくれた。

 部屋まで案内されると、湯浴みの準備は整っております、と言われて、なぜかぞろぞろと増えたメイドさんたちに僕は、あれよあれよという間に浴場まで連れていかれてしまった。


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