母様に説明
僕は、サラさんとの話を終えると、許可をもらうために、一度城まで戻ることにした。
ルーナが戻ってこないところをみると、おそらく子供たちとは上手くやれているんだろうなと思って、嬉しい気持ちになった。
「サラさん。大変恐縮ですが、しばらく、ルーナ達のことを見ていてもらってもよろしいですか」
僕は城に戻っている間のことを、サラさんに任せることにした。
「はい。お任せください、ルグリオ様」
サラさんに一礼すると、馬車まで戻り、騎士の人たちに事情を説明した。
「そういう訳で、僕は一度城まで戻るから、ルーナと、それから孤児院の人たちのことは頼んだよ」
「お任せください」
事情も、手段も聞かず、僕に任せてくれている。とてもいい人たちだ。僕は、馬車の中に入ると、自分の部屋へと転移した。
城の自分の部屋へと戻った僕は、とりあえず母様の部屋へと向かった。
僕が転移できるのを知っているのは、今、この城では母様と姉様だけだと思ったし、母様といえど、まさか、いきなり女性の前に転移するわけにもいかない。よっぽどの事情がない限りは。母様の部屋の前まで辿り着くと、扉を軽くノックする。
「母様、いらっしゃいますか? ルグリオです」
朝食を摂られていたら、この部屋にはいないかな、と思っていたのだが、タイミングが良かったのか、母様は部屋にいらして、しばらくすると慎重に扉が開かれた。
姿をみせた母様は、朝食を終えて、着替える前だったのか、まだ、寝るときのローブのままだった。
「ルグリオ。あなた、どうしたの?」
母様は、僕が城に一人でいることに驚かれた様子だった。アースヘルムへ向かったはずの僕が、一人で城にいるのだから、それは驚くだろう。母様は、僕に訝し気な視線を向けてくる。
「実は、お話しておきたいことが出来まして、戻って参りました」
母様は、何かを感じ取ってくれたのか、特に何も聞かれなかった。
「とりあえず、中に入りなさい」
「ありがとうございます」
部屋の中へと招かれたので、僕は母様に続いて中へと入った。
母様の部屋は、全体的に白を基調としてデザインされていて、中に入ると、まず大きなベッドが目に入ってくる。天蓋のついた大きな白いベッドが、部屋の真ん中に置かれていて、ベッドの両脇には、小さな、引き出しのついた棚が置かれている。
入り口の扉のすぐ隣には、これも大きな衣装ダンスが置かれていて、これから着替えるところだったのだろう、若干、扉が開いていた。隙間からは、沢山のドレスが掛けられているのが見えている。衣装ダンスの隣には、大きな姿鏡が設置されている。
部屋の奥のテラスに出る窓の前には、化粧台が置いてあり、こちらも綺麗に整えられていた。
母様は、ベッドの前に置かれている椅子に座ると、ティーポットとカップを取り出し、テーブルの上に乗せた。
「紅茶でも飲む時間はあるかしら」
母様は僕の様子をチラリと見てから尋ねられた。
「そうですね。では、一杯だけいただきます」
僕は勧められた椅子に座ると、差し出されたカップに口をつける。
「おいしいです」
「ふふっ。ありがとう」
母様は口につけたカップを離すと、目をつぶったまま微笑んだ。僕がカップを置くのと同時に、母様もカップをテーブルに戻された。それから、僕の目を正面から見据えた。
「それでは、話を聞かせてもらおうかしら」
僕も、顔をしっかりと母様の正面に向ける。
「はい。実は—―—」
僕が話し終えると、母様はカップを手に取って、紅茶を一口、口に含んだ。目を瞑り、僕の話を吟味している様子だったので、僕も母様が口を開くのを黙って待っていた。母様が考え込んでいた時間はそれほど長くはなかった。
「わかったわ。この件は、私から国王様に話しておきます」
父様でもあの人でもなく、国王様。そこに込められた意味を、僕は誤解したりはしなかった。
「はい。ありがとうございます」
「実際にお城に連れてきてからでなければ、正確にはわからないけれど、大丈夫でしょう」
「感謝いたします」
僕は改めて感謝を告げた。
「いいのよ。親の役割は子供の願いを叶えることだもの。それに、私もそうしたいと思ったからするのよ」
母様は、立ち上がると、僕を抱きしめてくれた。
「しっかりやりなさい。私も、あの人も、セレンもあなた達の味方ですからね」
「ありがとうございます。母様」
僕は感謝を告げると、父様と姉様には何も告げずに、馬車へと戻った。
僕が馬車へと戻って、外に出ると、護衛の人たちは馬車の前で整列していた。
「ご苦労様。僕がいない間は、何もなかったかな?」
「はっ。ルーナ様も、孤児院の皆様も、全員無事であります」
「ルグリオ様がいらっしゃらない間に、不審な出来事は起こっておりません」
「不審者もいませんでした」
「ありがとう。引き続きよろしく頼みます」
「はっ。お任せください」
僕は、孤児院の中へと戻っていった。
僕が孤児院の中へ戻って、ルーナ達の様子を見に行くと、ルーナも子供たちやサラさんと一緒にいるようで安心した。まだ若干、表情は硬そうだったけれど、そんなにすぐになじめるものでもないだろう。あと数日もすれば、きっと、いい関係になれるのではないかと思う。
僕に気がつくと、ルーナが嬉しそうに、パタパタと駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ。ルグリオ様」
「うん。今戻ったよ、ルーナ」
僕は、ルーナの頭を撫でた。サラサラの銀髪が気持ちよかった。ルーナも、気持ちよさそうに目を瞑っていた。
僕は、ルーナを離すと、サラさんにお礼を述べる。
「ルーナのことを見ていてくださって、ありがとうございました」
「いえ、とんでもありません。こちらこそ、子供たちと遊んでいただいて」
サラさんにもお礼を言われる。
「今、コーストリナの王妃様に確認をとってまいりました。問題なく、この子たちは受け入れられそうです」
「そうですか」
サラさんはとても安心したような表情をした。
「サラー、何の話ー」
「だいじょうぶー」
子供たちは、サラさんの周りで輪になるようにして囲んでいる。
「ええ、大丈夫ですよ」
そう言いながら、サラさんは子供たちの頭を撫でていた。年上らしいレシルは離れていたし、お姉さんぶりたい年頃なのか、メアリスは一緒になって輪になろうとしていたのだが、ハッとしたようにその場にとどまると、ツンっと違う方を見ていた。