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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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孤児院の子供たち

 サラさんが、子供たちを呼びに行っている間にも僕は考える。

 現状をどうにかするだけならば簡単だ。僕が名乗り出るか、父様と母様に話をして、ここの孤児院を買い取ってしまえばいいのだ。王族だからと言って、無限に財があるわけではないけれど、おそらく、そのくらいならば大丈夫だろう。もっとも、財務大臣には泣きつかれそうではあるけれど。

 しかし、それでは根本的な解決にはならないだろう。なぜなら、おそらく、彼らの目的は金銭などではなく、この土地そのものだと推測されるからだ。

 理由としてはいくつか考えられる。

 まず、このような孤児院にそのような大金があるはずがないだろうということは、彼らのような者たちにわからないはずがないからだ。支払い能力のないところから、わざわざ、財を巻き上げようとは思わないだろう。彼らがサラさんや子供たちの身柄を欲しているようには思えなかったし、孤児院そのものを手に入れたい様子でもない。取り壊すとか言っていたくらいだし。ここで手に入れられるものと言えば、この土地くらいのものだろう。もっとも、カイの話では、既に金目の物は奪われてしまっているということだったが。

 確かに、この場所はコーストリナ王国からも程よい距離にあり、ここに別荘でも建てて売り出せば、金を持て余した貴族などには良い値で売ることができるだろう。もしくは、詳しく調べてみないことにはわからないが、ここに地下資源が埋まっているなどということも考えられる。

 次に、こんなことを言ってはいけないのだろうが、彼らのやり口だ。

 先程のやり取りを聞いていた限りでは、暴力で脅しつけて、無理やりにでも追い出そうという感じではなかった。本当のところはわからないが、彼らとしては、サラさん達が暴力で脅されてここを追われたという噂が立つことを恐れたのではないかと思う。すぐに暴力に訴えかけるような人が管理する土地を欲しがる人がいるとは思えない。だから、見かけ上は穏便に、サラさん達が自主的に出ていったという体裁をとりたいのではないかと思う。借用書の件も、自分たちには正当な理由がありました、という理由づけに必要だったのかもしれない。

 いや、こんな一方向からの穿った考え方ではだめだ。心情的には、サラさんに肩入れをしたいところだけれど、それでは真実は見えてこない。やはり、彼らの本音も知りたいところだ。彼らが話すとはとても思えないが。

 現状、僕にできることは多くない。

 例えば、ここの孤児たちを救いたいのなら、王都に戻って新しく孤児院を建てればいいだろうか。おそらく、土地はあるだろうが、建設までの時間を待っているわけにもいかない。そのくらいならば城で匿っていることも可能かもしれないが、彼女たちが恐縮してしまって、休まらないだろう。しかし、彼女たちの安全は保障できる。おそらく、移ってはくれるだろうが、その場合、愛着もあるだろうこの土地は捨てることになるだろう。

 

 しかし、背に腹は代えられない。現状ではおそらく、最も可能性があるといえるだろう。

 

 そんな風に考えていると、サラさんが子供たちを連れて戻ってきた。


「お待たせしてしまって申し訳ありません。ルグリオ様」


 恐縮した様子で、謝られる。


「いえ、それほど待ってもいませんし、謝られるようなことではありませんよ」


 連れてこられた子供たちは、カイを含めて、男の子が三人と女の子が二人、全部で五人だった。メルを含めると、男の子と女の子が三人ずつここで暮らしていたことになる。サラさんも入れると、総勢七名だ。


「ほら、皆。自分の名前は言えるでしょう」


 サラさんに促されて、子供たちが僕を見つめて、自分の名前を告げる。


「初めまして、ルグリオ様。僕はレシルです」


 最も年長と思われる、一番身長の高い緑の髪の男の子が丁寧にお辞儀をしてから名乗ってくれた。


「ニ、ニコルです」


 レシルの足にしがみ付いている、くすんだ金髪の小さな男の子が、おずおずといった様子で名乗ってくれた。僕が、顔を向けると、レシルの足に隠れてしまったけれど。


「は、はじ、初めまして。私は、メアリスと申します」


 どうやら、照れているらしい、ルーナやメルと同じか、少し幼く見える亜麻色の髪の女の子がつっかえながら、ぺこりと頭を下げた。


「……ルノ……です……」


 枕を持ったままの、眠そうな薄い青色の髪の女の子が、くしくしと目をこすりながら挨拶してくれる。他の子達が元気なので、忘れかけていたが、今は夜中だ。子供たちはとっくに寝ているはずだった。


「お、俺のことは知っているだろう」


 最後まで残っていたカイは、むすっとした様子だった。


「カイ」


 それでも、サラさんに名前を呼ばれ、うっ、と息を詰まらせると、気の乗らなさそうな声で、それでも、挨拶をしてくれた。


「カイです」


 全員の名前を聞き終えたので、僕も名前を告げることにした。


「初めまして。僕はルグリオ・レジュール。皆眠そうだから、細かい説明は省かせてもらうけれど、僕も、それから、僕を待ってくれている人たちがいるんだけれど、皆、君たちの味方になることは、僕の名に懸けて誓おう」


 理解してくれるかはわからなかったけれど、しっかりと、伝えることは伝えられたと思う。僕はサラさんの顔を見つめて問いかける。


「今晩はどうされますか? メルは今のところルーナや、僕の大切な女の子なのですが、付いてきてくださっている騎士の方たちがいてくれるので大丈夫だと思います。一緒にいたいと言われるのであれば、すぐに連れて来ることはできますが」


 サラさんは少し考えているような顔をした。


「ですが、ルーナ様ももうお休みになられるころでしょう。ご迷惑ではありませんか?」


 やはり、一緒にいたいようだった。メルの方はわからないが、きっと、ルーナのことだから、眠たい目を擦って起きているに違いない。できるだけ、はやく確認した方がいいな。


「少し、お待ちいただけますか? 今、確認してきますので」


 ここから馬車までの距離を知っているカイは、眉をひそめたようだったが、何も言ってはこなかった。僕は、失礼しますと断って部屋を出ると、馬車の近くまで転移した。


 

 別に、見られても構わないのだけれど、なんとなく癖で、馬車の目の前ではなく近くの草むらに転移してしまった。


「ルグリオ様。ご無事で何よりです」


 顔を見せてすぐに、御者や騎士の人たちに声を掛けられる。


「ルーナはもう寝ちゃったかな?」


 辺りも暗いし、一応確認してみる。


「はっ。先程確認した際にはまだ起きておられて、メル殿とご歓談なさっている様子でした」


「ありがとう」


 あんまり、夜遅くまで起きているのは感心しないと思うと同時に、遅くなってしまったのにも関わらず、起きて待っていてくれようとしてくれたことに嬉しさを覚える。


「ルーナ。僕だけど、今、戻ったよ。まだ、起きているのかな」


 とりあえず、馬車の外から扉を叩いてみる。すぐに扉が開かれた。


「お帰りなさいませ、ルグリオ様」


「随分と待たせてしまって、悪かったね。寝ていてくれて構わなかったんだよ」


「いえ、私ふわぁあ失礼いたしました」


 何か言おうとしたところで、可愛らしい欠伸が漏れていた。恥ずかしかったようで、ルーナの白い肌は朱に染まっていた。失礼になると思ったので、僕は、顔がにやけそうになるのをこらえなくてはならなかった。


「メルはまだ起きているかな」


「いえ。彼女は今しがた寝てしまいました」


 疲れていたのでしょう、とルーナは付け加えた。


「そうか。じゃあ、とりあえず、今日は孤児院の前まで馬車で移動するだけにしておこうか」


「はい」


「ルーナも、もうお休み」


「はい、ルグリオ様」


 おやすみのキスをして、ルーナが横になったのを確認すると、僕は御者と騎士の人たちに声を掛ける。


「今日のところはこの先の孤児院の前まで馬車を進めるだけにしてもらえるかな。挨拶とかは明日に回してしまって構わないから。それが済んだら、君たちも休んでくれて構わないよ」


 騎士の人たちや、御者の人の心からのお辞儀を受け、僕は再び孤児院の前に転移した。




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