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婚前旅行 3

 艶やかな金髪をひとまとめにして、頭の上に束ねた姉様は、相変わらず均整の取れた引き締まった綺麗な身体をしていて、僕たちの前に回り込むと、先頭を切って温泉に浸かると、気持ちよさそうに手足を伸ばした。


「気持ちいいわね」


 姉様が肩を回しながらそう溜息を漏らすと、ミリエス様とカレン様も同意とばかりに頷きを返された。

 ルーナはそんな姉様達の様子を食い入るように見つめていて、自分の胸がある辺りを気にしていた。

 別に僕は、断じて、決して、故意に覗き込んでいたつもりではないのだけれど、その、ルーナと僕とでは身長差があるというか、視線が違うというか、つまりルーナを上から見下ろしている感じになってしまうわけで、タオルを巻き付けているとはいっても、その辺りを気にしたルーナが自分の手で揉んでいたりすると、どうしても、そのときできた隙間からちらちらと、見えそうになって、でもやっぱり見えなくて、もう少しで見えそう、けれどどうしても見えないという、ジレンマに陥っていた。


「どうかなさいましたか、ルグリオ様?」


 そんな僕の奇行を気にしたのか、ルーナが心配そうな顔で僕の顔を覗き込んでくるものだから、ルーナの大きくて綺麗な宝石のような紫の瞳や、綺麗な薄いピンク色の唇から洩れる白い息や、上気した肌が目の前に押し寄せてきて、余計に目のやりどころに困ってしまった。

 いや、僕としても、もちろんルーナともっと深い関係になるのだけれど、それはずっと待ち望んでいたことなのだけれど、まだ挙式前だし、今ここでというのはよろしくない。

 僕の頭は沸騰してしまいそうなほど熱かったし、心臓の鼓動ははっきりなんてものじゃなく、爆発してしまいそうなほどに脈打っている。

 ああ、そんなに押し当てないで!

 ルーナは、ミリエス様やカレン様がそうしているように、僕の身体にぴったりと身体を寄せると、僕の方に頭を倒して寄りかかってきた。

 右腕に感じる、ふくよかとはいかないまでも、確実に存在していることを主張している二つのふくらみの感触が、僕の理性をごりごりと削る。

 ああ、なんか朦朧としてきた。

 鼻血を吹くわけにはいかないので、治癒の魔法をかけると、いくらか頭が冴え始め、血流も元に戻ってきた。

 しかしそうすると、また余計にルーナの柔らかいものの存在を意識してしまうという、天国と地獄の無限ループを体験していた。

 温泉とは疲れをとるためのものだと説明されていたし、お風呂とはそういうものだと理解していたけれど。


「ルーナ、あんまりルグリオ様を困らせてはダメよ」


 幸いなのか、残念なのか、カレン様が手を差し伸べてくれた。

 ルーナは不思議そうな顔をしながらも、腕を離して、再び僕の隣に腰を下ろした。

 姉様は嬉しそうな、寂しそうな、楽しそうな表情を浮かべながら微笑んでいて、僕と目が合うと、目を閉じて、お湯につかり直していた。

 あんまり近すぎても困ってしまうのだけれど、ルーナから目を離すこともまた出来なかった。

 アルヴァン様やミリエス様、ローゼス様やカレン様、それから姉様と話していても、どうしても視線はルーナの方へと動いてしまうし、その度に柔らかな感触を思い出してしまう。

 

「ルーナ、身体を洗いに行きましょう。私が洗ってあげるわ」


 カレン様がルーナと連れ立ってお湯から出られると、姉様とミリエス様も、それじゃあ、と微笑み合いながら同じ方へと歩いて行った。


「大丈夫かい」


 心配したような顔をされたアルヴァン様が声を掛けてくれた。


「ええ。ご心配をおかけしました。カレン様にも感謝いたします」


 ルーナの前でみっともない姿を晒すことにならずに済んで、結局助かったのかもしれない。


「ルーナは可愛いだろう、それに綺麗だ。僕の自慢の妹だからね。もちろんカレンもそうだけど。世界中でミリーの次くらいには美しいだろう?」


「それには賛同できかねますね、義兄さん。世界一素敵なのはカレンに決まっているじゃないですか」


 お二人がそんなことをおっしゃるのなら、僕だって引き下がるわけにはいかない。


「この世界のどこを探したってルーナより素敵な女の子を探すことは不可能ですよ。出会った頃から特別な女の子でしたけれど、今ではまさに女神といっても差し支えはないでしょう」


 精巧な銀細工のようにきらきらさらさらの髪も、僕のことは何でも分かっていますよと言わんばかりの宝石のような紫の瞳も、花さえ恥じらうような可憐なピンクの唇も、甘く優しい綺麗な声も、ほっそりとした、本人に言ったら拗ねてしまいそうな華奢な身体も―—もっとも体力は学院にいる間にとても鍛錬していたようだけれど―—なにより、僕のことを想ってくれているその気持ちが。


「ルーナは最高に可愛い女の子ですよ」


 学院とお城、離れていても心の距離はずっと近いままだった。むしろ、前より近付いている。

 僕はそう思っているし、ルーナもきっと同じ気持ちだろうと確信を持っている。


「そうだね。そんな僕たちはとっても幸せ者だね」


 アルヴァン様は微笑まれると、ルーナ達が歩いて行った方を優しげな瞳で見つめていた。



 

 

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