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婚前旅行の行先は

 結婚式と同時に行われる戴冠式。僕が王位を継いでしまったら、おいそれと国外へ出かけることは、もっと言えば、今のように気軽に城から出ることも難しくなる。

 一国の国王がやって来て、観光だけです、などというわけにはいかないだろうし、ルーナと二人でゆっくりと過ごすことは出来ないだろう。

 それに、ルーナだって安静にしていなければならなくなる時が来る。僕たちの子ども、世継ぎが生まれれば、父様や母様を安心させることは出来るだろうけれど、それまではやっぱりお城でゆっくりとしていてもらいたいというのが本音だ。僕は男だからその辺の事情はよく分からないのだけれど。

 そんなわけで、父様と母様に許可を貰い、ルーナの確認を取ろうと、僕はルーナのところへ向かった。




 ルーナは自分の部屋にいて、姉様とアルヴァン様、ミリエス様、カレン様、ローゼス様と一緒にベッドに半分腰かけて、楽し気に地図を広げていた。隣りには小さなベッドが設置されていて、赤ん坊が二人仲良く眠っている。

 傍らの机の上にはヴァイオリンが綺麗に立てかけられていて、一緒にフルートなんかも並んでいることから、今まで一緒に演奏していたのかもしれない。ベッドの上には例の恋愛双六やカードが散乱していた。


「ルグリオ」


 真っ先に気付いたルーナが座っていた場所から少しずれて、僕が座ることのできる場所を空けてくれる。


「もうお仕事はよろしいのですか?」


「うん。とりあえず、緊急の用件がなければ、結婚式前に必要と思われる書類は全部片づけたよ」


 ユニコーンの皆さんとの交易、それを基にした貿易収支の決算、今期のお城への勤務希望者のリスト、各孤児院からの報告書など、どれも順調で、僕の仕事は印鑑を押すだけだった。


「それで、結婚してから、王位を継いでからは気軽に城を離れられなくなるだろう」


 姉様とルーナを除いた御4方のお顔が明後日の方向を向いていたけれど、構わず先を続けた。


「だから、婚前旅行にどこか遠出にいかないかな? もちろん、こうしてアルヴァン様、カレン様と一緒にいたいと言うのなら、無理強いしたりはしないけれど」


 一応、疑問形で聞いてはみたものの、ルーナが断るはずはないだろうと思っていた。

 そして事実、ルーナは嬉しそうな顔でこくりと頷いた。


「ええ、もちろんついて行きます、何処へでも」


「それなら、おすすめはリヴェリアね」


 ルーナを除いた女性陣の声がハモる。

 姉様達は顔を見合わせると、年長者に譲られたのか、ミリエス様が代表して口を開かれた。


「ご存知とも思いますけれど、都市国家群の一角であるリヴェリアは、恋とロマンスの街とも呼ばれております。結婚前のお二人にはうってつけの場所かと存じます」


 視線が一斉にベッドの上の双六へと移る。


「これも、リヴェリアのお土産ということでしたよね?」


 ミリエス様が確認するように姉様の方を向かれると、姉様は、そうよ、と頷いた。


「それじゃあ、私たちも準備にいきましょう」


 姉様とカレン様、ミリエス様の女性陣は、とても楽しそうな顔で立ち上がった。


「え? 姉様達も来る、いえ、いらっしゃるのですか?」


 当然じゃない、と姉様は頷いた。


「ルーナに蹴られてもついて行きます」


 と、カレン様。


「私、あの街は大好きなんです。安産にもご利益があるかもしれませんし。ねえ、アルヴァン?」


 ミリエス様がうっとりとしたような声で告げられると、アルヴァン様とローゼス様は、僕に向かって、済まなさそうに頭を下げられた。


「申し訳ない」


「せっかくのお二人の旅行だというのに」


 僕は慌てて手を振った。


「いえ、元はといえば僕の姉様が言い出したことですから」


 まさに部屋から出ようとしていた姉様が、足を止めて振り返る。


「ああ、ルグリオ。昔はあんなに私を頼ってくれたのに」


「頼る頼らないの問題じゃないよ。新婚の前旅行なんだから、出来れば二人きりで行きたかっただけだよ」


 などと反論してみたけれど、姉様に勝てるはずもなく、結局了承させられた。


「さあ、二人の甘ったるい雰囲気に当てられに行きましょう」


 そんなことを言い残して、大盛り上がりの女性陣は、伴侶の殿方とお世継ぎを連れて、それぞれの泊まられている部屋へと旅行の準備に消えて行かれた。

 

「私はお義姉様やお義兄様、お兄様、お姉様達が一緒でも、変わらず、とっても楽しい旅行になると思います」


 そんなルーナだけが僕の心の拠り所だった。


「そうだね。それに、考えようによっては、リヴェリアの地理に詳しい姉様達が来てくれるのは助かるかもしれないしね」


「はい」


 ルーナを含めて、女性陣の準備は結局その日丸一日かかり、出発に漕ぎつけたのは翌日になってからだった。




 地図では知っていても、僕はリヴェリアへ行ったことはない。

 行ったことがあるだけならば、僕とルーナを除いた全員が御有りだったみたいだけれど、その中で転移の魔法が使えるのは姉様だけだったし、行ったことのない僕やルーナには、当然その場所へと転移することは出来ない。

 姉様に先に言って貰って、姉様の元への転移ならば可能だけれど、それでは旅行という感じはしない。

 なので、僕たちは普通に馬車に乗って向かうことにした。

 馬車は、収納の魔法を利用して、姉様がかなり改造してしまっていたので、僕たち7人全員とそれぞれのお世継ぎを加えても、余裕をもって乗ることが出来た。


「セレン様はご結婚なさらないのですか?」


 腕の中のお世継ぎ、シルヴィオ殿下に極上の笑みを向けられたままミリエス様が尋ねられると、姉様は僕とルーナの方へと一瞬視線を向けて、首をすくめた。


「ええ」


 姉様に結婚を申し込んでいる男性は、少なくとも、お城まで来られたのは二人だけだ。

 姉様に結婚を申し込む男性に、僕だって少しは嫉妬もするだろうけれど、姉様が幸せならそれを祝福したい気持ちは強い。


「マーレス様やハルミューレ様にはその後会いに行ったりしたの?」


「行かないこともなかったけど、お二人ともまだご結婚なさっていなかったわね」


 姉様は他人事のように言った。


「セレン様は罪作りなお人ですね」


 ミリエス様はそう微笑まれた。


「そういえば、父様はよく手紙を燃やしてしまったとかで母様に怒られてたなあ」


 姉様は何処から見ても美人だし、スタイルも良い、魔法も、勉学も、運動、その他も、僕のひいき目を抜いても普通の人は近寄ることすら引け目を感じるレベルの、しかも王女様だから、なかなか声が掛けられ辛いというのはわかる。


「姉様の好きになる人ってどんな人なんだろう?」


 僕がそう呟くと、姉様を除いた全員にため息をつかれた。


「ルグリオ様……」


 ルーナですら呆れた口調だ。しかも、口調がもとに戻っている。


「いえ、いいんです。そういうところも魅力的ですよ、ルグリオ」


 ルーナがそう言って僕の頬にキスをくれると、馬車の中の雰囲気も多少は元の空気を取り戻した。



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