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舞踏会 2

「セクハラ、というのは、要するに痴漢のことでしょうか?」


 尋ね返すと、ええ、と首を縦に振られます。


「このように大勢の人がいらっしゃる場で、堂々となさる方はいらっしゃらないと思いますけれど」


 この場に集まってくださった方は、このパーティー、舞踏会の題目をご存じのはずですし、半年も待たずに結婚する女性にそのような扱いをなさるようなことはないと思いますけれど。

 その上、仮にではなく、一国の王女に、下手をすれば首が飛ぶにもかかわらず、みすみすそのような危険を冒してまでやりたいことがボディタッチでは、されたいわけでは決してありませんけれど、小心者と言わざるを得ません。その程度の方を警戒して、パーティーを楽しめないのは全くもってつまらないことです。


「そうよね……」


 思い過ごしだったみたいね、と、ラヴィーニャは安心したようなため息を漏らしていました。


「それに……」


 私は自然とシュロス達の身体を見比べていました。


「それに……?」


 やはり何かあったのかというような、不安そうな、怒っているような、顔をさせてしまったシュロス達を宥めるためにも私は先の言葉を紡ぎます。


「私よりも、立派なものをお持ちの方ばかりではないですか」


 指を伸ばして、ラヴィーニャの二つのたわわな膨らみをつつきます。


「重要なのは大きさじゃなくて形なのよ」


 ラヴィーニャとサンティアナの視線がシュロスの方へと向けられます。


「なんでこんな話になっているのよ。とにかく、ルーナが無事なら良かったわ。でも、何かあったらすぐに声を掛けてね」


 シュロス達が離れて行くと、待っていたかのように、皆、男性に囲まれています。


「心配してきてくれたのね。いい子たちじゃない」


「セレン様」


 白地に水色を合わせ、薄紫の小さい薔薇の飾りをつけた、肩先と背中の空いたドレスで着飾られたセレン様は、本当に女神様のようで、近くの方の視線を集めていらっしゃいます。


「いい、ルーナ。何か難しく考えているみたいだけれど、遠慮せずに投げてしまいなさい」


 自然な笑顔でそうおっしゃるものですから、私は危うく場違いな声を上げてしまうところでした。

 セレン様のおっしゃられた投げるというのが、パーティーを投げ出すという意味ではなく、そのまま、相手を投げ飛ばしてしまいなさいという意味だと理解できてしまったからです。


「あの、セレン様」


「何かしら?」


 ご自分でおっしゃられたことを全く気にもされていらっしゃらないご様子で、挨拶に来られた方に対応されていらっしゃいます。


「先程、シュロス達にも言われたのですけれど、私はそんなに抜けているように見えるのでしょうか?」


 セレン様は優し気に微笑まれると、耳に御髪を掛けられながら屈み込まれて、私に視線を合わせられます。


「そうじゃないのよ。私も、それにあなたのお友達も、皆あなたの事が大好きで、大切に思っているから、いらないかもしれないと思っていても、つい世話を焼いてしまうのよ」


 もちろんルグリオもね、とおっしゃられたセレン様の言葉には、私の場合はそれだけじゃないけれど、という言葉が省略されているように思いました。


「ありがとうございます。けれど、私もただ守られているという立場に甘んじるつもりはありません」


 私が何と言おうと、どう思っていようとも、多くの人に守られているのだという立場は変わりませんし、それはとてもありがたいことで、感謝はしてもしきれません。

 だからといって、その立ち位置に甘えているようでは、胸を張ってルグリオ様の隣に立つことは出来ませんし、国民の皆さんも不安に思われてしまうことでしょう。

 私がしっかりと顔を上げ、真っ直ぐにセレン様を見つめながらはっきりと意思を込めてそう告げると、セレン様は満足されたように優し気に微笑まれました。


「そう。大丈夫そうね、ルーナ」


 セレン様はヴァスティン様とルグリオ様のところへと歩いて行かれ、抱き着こうとされたヴァスティン様を躱されると、会話に混ざられたご様子でした。


「それでは私も」


 ちらりと合わせられたルグリオ様の視線には、大丈夫ですと視線を返して頭を下げます。これほど離れていても、ルグリオ様とすぐに視線を合わせられたのが分かりました。

 途中で申し込まれたダンスの相手を務めつつ、場所を移動しながら、シエスタ先輩へとお声を掛けました。


「そういう訳で、お願いできますか?」


「ルーナ様。お願いなどと。ただ一言お命じ下さい」


 深く頭を下げられます。


「では、これよりエンドワース卿の真意を確かめます。それとなくこちらへ誘導するように頼んできていただけますか?」


「承知いたしました。ですが、その前に一言だけよろしいでしょうか?」


 私は黙ってシエスタ先輩の言葉を待ちます。


「私が戻るまで、決して行動を起こされないとお誓い下さい」


「分かりました」


 御前失礼致しますと、シエスタ先輩は優雅に去って行かれました。

 私も準備を済ませると、夜風に当たりたいのでと断りを入れつつ、庭へと出て、人気のなさそうだと思われるような場所へと向かいました。

 この後には私も演奏を控えています。皆さんの迷惑にならないように、なるべく心配を掛けないように、迅速に終わらせましょう。

 

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