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舞踏会

「そんなに緊張しなくとも大丈夫ですよ、メル。あんなに練習したではないですか」


「そ、そうだけど」


 お城の広間へとつながる扉の前で、私はメルたちに微笑みかけます。


「僕たちも出来る限り目は光らせておくけれど、もしもの時はすぐに駆け付けてくれるかな?」


 ルグリオ様が頼まれると、ドゥニさんをはじめ、皆さん畏まりましたと頭を下げられました。ちなみに、シエスタ先輩はすでに会場内でお仕事をなさっているとのことです。


「シエスタのことなら問題ありません。あの子は、最初は体力がなくて心配でしたけれど、調き、じゃなかった、訓練のおかげで、元々体力以外は優秀だったこともありますが、今ではすっかりここのメイドとして、どこに出しても恥ずかしくないよう仕上げておりますから」


 私の心を読まれたのか、茶髪を頭の後ろで一つに結い上げられたメイドさんのお一人であるラスティさんが静かに答えられます。


「ル、ルーナ」


「私も後から出ますけれど、何かあれば皆さん助けてくれますから」


 私たちが会場に姿を見せるのは開式してからなので、その前から会場入りしているメルたちとは時間に差が生じます。

 不慣れな場に出るメルたちに、ずっとついていたいという気持ちはありますけれど、そういうわけにはいきません。それでは逆にメルたちに恥をかかせてしまう事にもなりかねませんし、ルグリオ様やセレン様にもご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。


「さあ、皆さん。そろそろ行かなくては、遅すぎるとかえって目立ってしまいますよ」


 クイントさんに背中を押され、開かれている扉の向こうへ、緊張した足取りでメルたちが進んで行きます。

 それを確認すると、私とルグリオ様、それにセレン様は会場奥の舞台裏へと回りました。






「皆、良く集まってくれた。礼を告げよう。今日はルグリオとルーナ姫の結婚を祝っての舞踏会だが、気にせずに各々楽しんで貰いたい」


 ヴァスティン様の宣言が終わり、盛大な拍手が送られると、再び音楽が流れ始めます。

 舞踏会と言っても、ずっと踊り続けるわけではもちろんありませんから、集まられた皆さんは、食事を取られていたり、談笑されていたりと、思い思いに楽しまれているご様子で安心できました。


「ルーナ様」


 ルグリオ様が集まられた貴族の方達に対応されている間、私の方にもたくさんの方がいらっしゃいました。

 アースヘルムは音楽等芸術や、学問にも力を入れていますから、魔法教育に関してはコーストリナに劣るかもしれませんけれど、そういった事柄に関して、私の話を求められるのは自然なこととも思えました。

 名だたる家柄の貴族の方だとか、アースヘルムなど他国からいらしたという著名な音楽家、画家だとおっしゃる方々もいらっしゃって、お兄様やお姉様の結婚式などで披露したヴァイオリン等に関する話も振られたりしました。


「それにしてもお美しいですね。姫様の宝石のような瞳に吸い込まれてしまいたいものです」


「ありがとうございます」


 私がルグリオ様の婚約者であることは、国内外問わず、広く知られていることですけれど、そういった視線を向けられる方も少なくなくいらっしゃって、けれど、あからさまに避けるわけにもいかないので、内心困っていることはおくびにも出さずに、一人の大人の女性として対応していました。


「きゃっ」


 背中の方からぶつかられて、思わず声を上げてしまいました。

 

「貴様、ルーナ様に何という狼藉を」


「ルーナ様、すぐにこの者は排除致しますので」


 近くにいらしたメイドさんたちにはそう言われたのですけれど。


「私の事ならば構いません。それよりも、お立ちになられますか?」


 メイドさんたちにやり込められて、尻もちをつかれてしまった男性に手を差し出します。


「申し訳ありません」


 その方はエンドワースですと名乗られて、非礼を詫びられ、宜しければと恭しく手を差し出されました。


「あなた―—」


「構いませんよ」


 何か言いたそうなメイドさんたちの言葉を遮ると、私は差し出された手を取りました。


「舞踏会なのですからどなたにも踊る権利はあります。別に私だからと遠慮なさる必要などないのですよ」


 ルグリオ様は相変わらずお忙しそうですし、私がこうして皆さんのお相手をしている方が良いのかもしれません。


「承知いたしました」


「そうだ。君たちメイドは下がっていたまえ」


 ソラハさんは思っていらっしゃることを少しも窺えない表情で微笑まれると、その場を後にされました。


「まったく……」


 エンドワース様は大仰な仕草で一礼されると、力強く私の手を引かれ、腰へと手を回されました。


「落ち着かれましたか?」


 最初はやはり少し動揺されていたのか、息の荒かったエンドワース様は、少し経つとダンスの型を気にする余裕も出来たようで、良い手の位置を探すように動かされています。

 ルグリオ様やセレン様はダンスもお上手なのでそのようなことはないのですけれど、やはり貴族の方だとはいえ、得手不得手はあって当然なのかもしれませんし、私のような身長の女性の相手をなさったことが少なくて、戸惑っていらっしゃるのかもしれません。


「お気遣いありがとうございます。こうしてお手を取れたこと、光栄に思います」


 一曲踊られると、エンドワース様は離れて行かれましたけれど、どうやら気になるらしく、遠くからも視線を送られます。


「ルーナ」


「シュロス。それにサンティアナもラヴィーニャも」


 その後も数人と踊り終えた私のところへは、もちろん、まだまだ他の方も踊りのお申し込みにいらしたのですけれど、友人が来たので失礼致しますと抜けさせていただきました。


「そのドレス、とても似合っていて素敵ね。ルグリオ様も褒めてくださったでしょう」


 シュロスはそう微笑みながらも、どこか心配しているような表情を浮かべています。


「ありがとうございます、シュロス。それに、ルグリオ様はいつでも嬉しい言葉をかけてくださいますから」


「大丈夫だった?」


 開口一番で、サンティアナには心配されます。


「何がでしょうか?」


 サンティアナは周りを見回して、声を潜めます。さすがにこのような公の場で遮音結界を張るわけには行きませんから。


「何人かと踊っていたみたいだったけど、セクハラとかされなかった?」



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