私たちというよりも皆が知りたい質問群
もちろん参加している私たちもこのゲームを楽しんでいるのですけれど、本当に楽しんでいるのは観客に集まった方達なのではないでしょうかという疑問が、第二関門を訪れた私の脳裏に浮かびました。
このゲームにおける試練というのは、恋人との間で引き起こされる問題などではなく、こういった二人で過ごす甘い時間を他の人に観賞されるというのが本当の試練なのではないでしょうか。
「さて、見事第一関門を突破されたお二人の前に現れた第二関門。お二人は観客を悶えさせつつ、試練に打ち勝つことが出来るのでしょうか!」
などと、実況からして明らかに実際に参加している私たちよりも楽しんでいます。
「ようこそいらっしゃいました、ルーナ寮長、ルグリオ様。それではこちらへお掛けください」
私たちはテーブルを挟んで向かい合わせに座ります。
座った私たちにそれぞれ一枚づつの用紙とペンが渡されます。
「お二方とも、それぞれの項目に回答をご記入ください」
裏返して書かれている項目に目を通します。
私に渡された方の用紙には、初めてのデートで訪れた場所だの、初めてキスして貰った場面だの、自分の趣味に関することだのといったような質問が、数十項目に渡り記載されています。
ルグリオ様との思い出は全て大切な私の宝物ですから、それらを忘れるはずもありません。
淀みなく、滞りなく、スラスラとすべての質問の答えを記入し終えると、同じタイミングでルグリオ様もお顔を上げられました。
「ありがとうございます」
私たちが裏側にして差し出した用紙を受け取られると、ここの担当者と思われる後輩の皆さんは、穴が開くほどじっくりと目を通されました。
しばらく黄色い悲鳴が聞こえていたのですけれど、やがて我に返られた様子で、頬を染められると、咳払いを一つされました。
「大変失礼いたしました。それではこれより第二の試練を始めさせていただきます」
そう言って、ルグリオ様の事を正面から見つめられました。
「それでは、ルグリオ様にお尋ねいたします」
「何なりとどうぞ」
「ルーナさ、寮長と最初にデートされたのは何処へでしょうか?」
間髪入れずにルグリオ様は口を開かれます。
「ルーナがこっちへ来てすぐ、国中を案内しようと思い、僕たちは馬車に乗って出かけました。最初に案内したのは城下の商業区でしたね」
もちろん馬車で出かけたので厳密には二人きりではなかったですけれどね、と続けられました。
「ありがとうございます。正解です」
よく覚えていらっしゃいますねという台詞に、ルグリオ様は優しげに微笑まれました。
「当然ですよ。もっとも、最初にルーナを誘ったのは、城で綺麗な満月を一緒に見ようと思った時です。結局その時は事情がありまして、それどころではなかったですし、お城から出かけてはいないので、厳密にはデートとは違うのかもしれませんけれど」
おおー、と、観客席ではどよめきが広がっています。
「ちなみに、その事情というのをお教えいただくわけには……」
担当の後輩たちは、勿論観客の皆さんも、ごくりと喉を鳴らされながら、興味津々と言った様子で顔を近づけられます。
「もちろん、内緒です」
ルグリオ様が人差し指を立てて微笑まれると、観客席からは黄色い歓声が沸き上がります。
結局、どちらを選ばれても変わらなかった気はしますけれど、ルグリオ様があの事を他の人にお話になるとは思えませんでした。セレン様にすらお話しになっていらっしゃらないというのに。
「お二人の秘密の時間は、私たちといたしましては大変気になるところではありますが、そこは個々人の妄想で補っていただくことにしましょう!」
そう宣言されると、今度は私の方へと身体の向きを変えられました。
「次に、ルーナ寮長に質問です!」
ずいっと進み出てこられて、一気に距離が縮まります。
「ここのレポートの書き方を教えてください!」
本当にレポート用紙が差し出され、観客席からは、真面目にやれー、と非難が殺到します。
「……と、まあ冗談はこれくらいにして」
彼女はレポート用紙を折りたたむとポケットの中へと仕舞われます。どうやらコピーを使った冗談だったようです。
「それでは気を取り直して。えー、お二人がご婚約を発表なさってから随分と立ちますが、ご婚約なさったのは丁度収穫祭や、ルーナ寮長の誕生日の辺りですよね?」
「はい」
「では、ルグリオ様からの最初の誕生日の贈り物は一体何だったのか、覚えていらっしゃいますか?」
忘れるはずもありません。
「月を象ったモチーフに天使の羽の飾りがついている、銀色に輝く指輪です。今でも大切に自室の机の引き出しに入れてあります」
残念ながらと言いますか、指輪だけは結婚式につけて出るわけにはいかないので、結婚式の装飾品に選ぶことは叶いませんでしたけれど。
「結婚式ではきっと負けないくらい素敵な指輪を用意するよ」
客席の盛り上がりとは反対に、ルグリオ様と私はしばらくの間無言で見つめ合います。
「正解です。それでは次の質問に移っていきましょう!」
その後も、思い出や性格、趣味などに関するものや、ちょっぴり恥ずかしい質問なども混ぜられながら試練は続き、私たちはお互いに答えを間違えることなく、10問全問正解で、この第二の試練をクリアしました。
「お疲れ様です。以上で第二の試練は終了となります。次も頑張ってください」
問題なく、問題をクリアした私たちは続く第三関門へと歩を進めました。