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女子寮の出し物

 拍手が止むと、集まられた方達は、自然と道をお譲りになられるような形で左右に避けられ、真ん中をルグリオ様が真っ直ぐに歩いて来られます。


「おはよう、ルーナ」


「おはようございます、ルグリオ様」


 ルグリオ様が私の頬にキスを落とされると、真摯に膝をつかれたシュロスとヴィネル様が挨拶をされます。


「それほど畏まられる必要はありませんよ……、とは言っても無理なのでしょうね」


 ルグリオ様は周りを見回されると、困ったような視線を向けられます。

 私は黙って乾いた笑みを張り付けていました。


「ここに留まっていては他の方の迷惑になってしまいますし、そろそろ参りませんか?」


 私がそう言うと、立ち上がられたヴィネル様に先導されるような形で馬車まで進みます。


「今日はセレン様はいらしてないのですか?」


 そうお尋ねしたところ、セレン様はお城にはいらして、中央広場まではルグリオ様と一緒にいらっしゃったとのことでしたけれど、その後はどこかへ行かれてしまわれたとのことでした。


「姉様がこういうお祭りごとに参加しないとは考えにくいけれど、姉様にも何か事情や予定があるのかもしれないし、僕たちが楽しんでいるのが一番なんじゃないかな」


 馬車へと乗り込むと、私はルグリオ様の隣、シュロスと向き合うようにして座ります。


「ここは誰の目にも届きませんから、学院にいるときのように無礼講でいいのですよ」


 シュロスがルグリオ様の方へ顔を向けたので、私もそちらを見ると、ルグリオ様は笑顔を浮かべていらっしゃいました。


「私たち、いえ、僕たちの方も無礼講で構いませんよ、ヴィネル公。この場でどのような発言をなさろうとも、決して外に漏れることはありませんし、一切を咎めることもしないと、この名に懸けて誓います」


 ヴィネル様は大分躊躇われていらしたご様子でしたけれど、あまり遠慮しすぎるのも失礼とお考えになられたのか、意を決した様子で口を開かれました。


「……承知いたしました。それが殿下のご意思とあらば。ですが、学校は違いますけれど、せめて学院の先輩という体はとらせていただきます」


 それからルグリオ様とヴィネル様は、ご自身の婚約者がいかに可愛らしいのかを熱く語り始められたので、私とシュロスは遮音結界を張ることを本気で考えました。


「……そういうことは本人がいない場所でやって欲しいわよね」


「……」


 せっかくだから昼食は学院でいただこうか、というルグリオ様の意見には、私たち全員が賛成でしたので、御者の方にその旨を伝えると、承知いたしましたと、いつもよりもずっと速く馬車を走らせてくださいました。

 ルグリオ様が振動を抑える魔法をお使いになられたので、馬車の速度とは裏腹に、内部は平穏そのもので、気付いたときには学院の入り口と思われる場所へと辿り着いていました。

 学院が見えているにも関わらず曖昧な表現になってしまうのにはもちろん理由があって、形成されている長蛇の列によって学院の入り口が全く見えては来ないのです。


「……喫茶を開いているはずよね?」


「私もそう思いますけれど……」


 外壁にはポスターが貼ってあり、たしかに女子寮でオープンしている喫茶の情報が乗っています。

 いつも混んではいるのですけれど、今回は特別に長いようです。

 幸いなことに回転は速いようで、すぐに私たちにも学院の入り口は見えてきました。


「あ、ルーナ、それにシュロス」


 学院の門の前では、メイドさんの服装をしたメルとシズクが、受付と書かれた看板を掲げています。


「メル、これは一体どうなっているんですか?」


「それにはお答えできませーん」


 メルがお茶目にそう言うと、シズクが地図のようなものが描かれた紙を、私たちの組分、二枚渡してきました。

 シズクを残して案内してくれているメルの話を聞きながら、とりあえず私たちはその紙に目を通します。


「なるほど、これを設置するためだったのね……」


 目の前に広がっているのは、双六のマス目のようにつながっているアトラクション。


「もちろん、自信がなければ参加しなくてもいいことにはなっているよ。その場合の入り口はこちらです」


 入り口と思われる場所は3つに分かれていて、『お一人様他パスされる方』と書かれたものと、『実力勝負』と書かれたコース、それから、『結婚式記念実物大恋人たちの甘いひと時(試練)』と銘打たれたコースです。

 並んでいる方達はそれぞれ思い思いの場所へ流れていて、混雑している一番の原因は、右端の実力勝負と書かれたコースに並んでいる方達の列にあると思われました。


「なんでこんなに並んでいるのよ」


「よく読んで」


 シュロスはもう一度じっくりと渡された仕様書に目を通しています。


「特典……?」


「そう。ここでは教えられないけれど、それぞれのコースごと、特典は違うから。ちなみに、一番混んでる『実力勝負』の景品は、女子寮生とのデート券とかご奉仕券とかだよ」


「なるほど、だから男性の目がやる気に満ち満ちているのね……」


 並んでいる男女比を見てみると、たしかに男女の比率で言えば、いないということはないのですけれど、圧倒的に男性の方が多いようです。


「それで、ルーナとシュロス達はどこで参加するの? ちなみに、いくら学院生と言えど、ここへ来たからにはどれかには参加してもらうよ」


 どれか、と言いつつ、私たちに選択肢を与えるつもりはないようでした。


「さあさあ、後ろがつっかえてるから早いところ決めちゃってね」


「いいんじゃないかな、面白そうで」


 ルグリオ様が私の横に並ばれて、ぎゅっと手を握られます。


「せっかく、僕たちのために用意してくれたんだから、参加しないわけにもいかないしね」


 結婚記念と銘打たれているのですから、そういう事なのでしょう。


「じゃあ、頑張ってね」


 にこやかに笑うメルに案内されながら、私たちは、『結婚式記念実物大恋人たちの甘いひと時(試練)』へと足を踏み入れました。

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