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5年、メルとの戦い 決着

 辺りに、爆発と、それに伴い弾けるようにして生じた霧が広がる中で、再び爆発したかのような音が聞こえたかと思うと、メルがこちらへ向かって一直線に飛び込んできます。

 一投足の間合いとはいかずとも、中間あたりに足をつけることで、更なる加速力を得ています。

 両の拳には魔力が溜め込まれていて、白く光り輝いています。

 私が用いる障壁及び結界の強度を知っているメルが近距離戦用の手段として用いた魔法です。

 おそらくは普通の障壁では受けきることはできないでしょうと判断した私は、同じように両手のひらを固定して、直接魔力を込めます。

 それだけでは加速力のついているメルをいなすことは難しいでしょう。

 しかし、私は堂々と、真正面でメルを待ち構ます。

 眼前に迫るメルの拳。

 重ね合わせた手のひらの一点に集中させた多重障壁で受け止めはしましたけれど、押し込まれて、地面に跡を残しながら後方へと滑ります。

 しかし、押し込まれながらも力を逃がすように受けることで、その強さは徐々に削がれてきています。

 そして障壁のベクトルを反転。受け止め、受け流す方向にかけていた力を、吹き飛ばす方向へと反転させます。

 メルが加える押し込む力と、それを反転させ反射する私の魔法。

 二つの力がせめぎ合った結果、メルの身体が吹き飛ばされるように空中を舞い、離れたところへ音を立てて落下し、地面を跳ねます。

 私は大きく息を吐き出して呼吸を整えます。


「まだやれますか?」


「はい……。まだ、やれます」


 ロールス先生に尋ねられたメルは、よろよろとしながらも頭を押さえて立ち上がると、いまだ光の灯る瞳で私をじっと見つめてきます。

 とはいえ、メルの限界が近いのは明らかです。

 魔力の欠乏に陥っているのか、それとも純粋に肉体的なダメージのためか、或いはその両方であるのか、詳しいことは分かりませんけれど、精一杯なのは分かります。


「ルーナ、手加減無用!」


 そんな私の様子を見て取ったのか、メルは叫ぶと、私は大丈夫、とでも言うように、胸の上で拳を握って、魅せています。


「分かっていますよ」


 全力で相手をすると決めています。

 そうでなければ、これから先、胸を張ってメルと付き合っていくことは出来ませんから。


「いくよっ!」


「いつでもどうぞ」


 視線を交わし合うと、私にも、メルにも、自然と笑顔が浮かびます。


「ああ、いつまでも終わらなければいいのに」


「いつでも相手になりますよ」


 地面を踏み込むメル。

 その力は強く、亀裂が私の下まで伸びてきます。

 裂け目から突き刺す様に放出されるメルの魔力。

 私が横へと飛びのくと、狙いすましたかのように、真っ赤に燃える槍が飛んできます。

 身体を捻って躱すと、メルが上空へ跳躍しているのが目に映りました。

 

「いっけえ!」


 降り注ぐ一筋の稲妻。

 雷を身に纏ったメルは、まさに光の速さで飛び込んできます。

 避ける暇などありません。

 それでもなお、私は転移魔法を選択しません。


「防いでみせます!」


 魔力を収束、自分の中からだけではなく、大気中に満ちる魔力の素をかき集め、メルとの間に障壁を形成します。

 弾き返す、受け流す、などといった余裕はありません。

 ただ受ける、そのためだけをイメージして造り上げます。

 躱す、逃げるなどといった選択肢は存在しません。

 

「っつ!」


 この戦闘が始まってからの最大の衝撃を受け、受け止めた手のひらに、障壁を越えて痛みが走ります。

 腕が、身体が、脚が、砕けてしまいそうです。


「くぅう!」


 それはメルも同じようで、栗色の髪の毛をはためかせながら、苦し気に瞳と口を歪めています。


「はぁぁぁぁぁ!」


 私たちは、意図したわけではありませんけれど、声を揃えて叫びながら、互いの領域を侵食しようと、拳と手のひらを重ね合わせます。


「ルーナっ!」


「メル!」


 私は押し込んでくるメルの拳を引き込むように、右手を引きます。

 押してくるだろう、引くとは思っていなかったようなメルは、一瞬、呆気にとられたような顔をして、それからすぐに、しまった、という表情を浮かべました。

 足を払うと、半回転して背中を向けて、重力を逆転させると、そのまま地面に叩きつけます。

 膝をつき、地面に突っ伏しているメルの背中に手のひらを当てると、メルの身体と脳を振動させて内側から揺さぶります。

 私が立ち上がって、一歩、二歩と後ろへ下がると、離れていらしたロールス先生が駆け寄って来られます。

 メルの様子を確認されたロールス先生はその場で終了の合図を出されました。

 観客席にいたアーシャ達からは、惜しみない拍手が送られてきます。

 私はメルの身体を仰向けに返して、地面に座り込むと、メルが目を覚ますのを待ちました。

 

「ルーナ」


 それほど間を置かずに目を覚ましたメルは、冒険者の実習をしている間についた習性なのか、即座に身を起こして、辺りを見回すと、気の抜けたように地面にへたり込みました。


「もう、立てない」


 安心して腰でも抜けたのか、そのまま仰向けに寝転がります。


「勝てなかったか……」


 メルは悔しそうにつぶやいていましたけれど、気を取り直したように拳を握って、なんとかやっとといった様子で上体を起こしました。


「あー悔しい。ルーナは最近、結婚式の準備とかで鈍っているから勝てると思っていたのに」

 

 私は、じとっとした目を向けてきたメルと顔を見合わせると、声を揃えて笑い合いました。


「でも楽しかった。またやろうね」


「ええ。またやりましょう」


 私たちは手のひらを重ね合わせました。

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