表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
29/314

カイとメル

アースヘルム王国編と言いつつ、中々辿り着きません。

ですが、きっと辿り着きますので、気長にお待ちください。

 二人から話を聞くにしても、お腹はふくれていた方がいいだろう。そう思って、カップに出来立てのシチューを注ぐと二人に差し出した。熱々のシチューからは、湯気が立ち込めており、辺りにはクリームのいい匂いが充満している。二人は恐る恐るといった手つきで、差し出されたカップを受け取った。


「温かーい」


 メルと呼ばれた少女の口から感想が漏れる。外気に晒されていた身体には丁度良かったかもしれない。


「お腹はいっぱいの方が幸せだろう。パンもあるし、おかわりもあるよ。遠慮せずに飲んでくれて大丈夫だよ」


 毒などは入っていないと示すためにも、僕は先に口を付ける。


「外も寒いし、身体を温めるためにもね」


 カイとメルは慎重な手つきで、カップを口元に運ぶ。


「いただきます」


 どうやら、口にはあったようで、二人は幸せそうな顔を見せてくれた。


「うまい」


「おいしいです」


「それはよかった」


 二人の口にもあったようで安心した。元々、料理をしてくれた人の腕を疑ってなんていないのだけれど。


 


 お腹は空いていたらしく、あっという間に鍋の中身は空になった。僕は、ルーナが食べ終わるのと、二人が落ち着くのを待ってから、再度問いかけた。


「それで、よければ君たちのことと、君たちがあんなところで倒れていた訳を聞かせてはくれないかな?」


 カイとメルは顔を見合わせる。どうやら、迷っているようだった。いや、迷っているというよりも、こちらを疑っているのかもしれない。


「本当に皆を助けてくれるのか?」


 少し間があってから、不安と期待が入り混じったような声で尋ねてくる。それは確かに、会ったばかりの他人をすぐに信じることは出来ないだろう。


「皆、ということは、他にも君たちみたいな子供がいるということかな?」


 二人は揃って頷いた。どうやら、この子たちは二人で生きてきたわけではなく、他にも同じような境遇の子供たちがいて、一緒に暮らしているようだ。


「僕は、それにルーナも皆もきっと、本気で助けたいと思っている」


「はい。私も、ルグリオ様と同じ気持ちです」


 ルーナの方を見ると、頷いてくれた。周りで聞いている御者の人も、騎士の人たちも同じ気持ちのようだった。


「でも、そのためには情報を、君たちの話を聞かなくてはいけない。僕たちには君たちの名前以外には、君たちのことは何もわからないんだ。知らなければ、どうしようもないだろう?」


 だから話して欲しい、とできる限り優しい口調で、彼らの顔を真っ直ぐ見つめ、真摯に訴えかける。


「絶対に君たちを悪いようにはしない。約束しよう。もし、信じられないというのなら、僕たちは気がつかないと思うから、この馬車ごと全て持って行ってしまって構わない。他の僕の持ち物も、全てを差し出そう」


 御者の人が何か言いかけたが、僕は目線でそれを制する。もっとも、ルーナを差し出すことはできないけれど。そんなことは口に出したりはしなかった。

 カイとメルは顔を見合わせてから、この人たちを信じてもいいのだろうか、というような表情で御者の方を見る。それから、ルーナの方に顔を向けて、最後に僕の方を向く。僕たちは頷いた。


「だから、話だけでも聞かせてはくれないかな?」


「……わかった」


 カイは、メルの手をぎゅっと握って、頷いた。


「ありがとう」


 僕もそれに答えた。



 僕たちが、馬車の中に入って落ち着いて聞ける態勢を整えると、カイは、ぽつりぽつりと彼らの置かれている状況を話し始めた。


「……俺とメルは、ここから大分歩いていった先にある、クンルンって孤児院から来たんだ。孤児院にいるより前の記憶はない。そこの院長は、サラって言うんだけど、俺達にもとっても優しくしてくれて、皆、大好きだったんだ」


「カイも恋していたみたいだったもんね」


 メルが横から、つまらなそうに茶々を入れる。


「それは、関係ないだろ」


 カイの返事には答えず、メルは、ぷいっとそっぽを向いてしまう。こじれているなあ、と思ったけれど、今はそれを気にする時ではないので、余計なことは言わなかった。


「とにかく、それで、俺たちはまあそこそこ楽しく生きていたんだけど、この前、あいつらが急にやってきて、俺達をみんな出ていかせようとしているんだ。布団なんかも全部持っていっちゃうし、食料だって、サラが大事に持っていたお金だって、みんな持っていっちゃったんだ。それで、俺は連れていかれる前にどうにかしようと思って」


 僕たちに出会わなければどうするつもりだったのだろう。言いたいことはあったけれど、それは全て後回しにした。


「あいつらというのはどんな人たちのことかな?」


「名前は知らないけど、なんか大きい男と小さい男だった」


 予想はしていたけれど、その人たちのことは全くわからない。これは、そのサラさんに聞いた方がよさそうだな。


「それで、サラさんはまだそこにいるのかな?」


「多分、いると思うけど、わかんない。もしかしたら、あいつらが連れて行ったかもしれないし」


「何か、連れていかれてしまうようなことに心当たりでもあるのかな?」


 孤児院の院長が交代するということだろうか。いや、話を聞く限り、追い出されそうになっているのは子供たちも一緒だ。


「わかんないけど、どこか別のところに行くみたいな話しをしていたような気がする」


「皆で一緒にかな?」


「それもわからない」


「そうか。わからないことを聞いてしまって悪かったね」


 どちらにせよ、孤児院というのは大抵、他の人たちの寄付金や、援助金で成り立っている。僕が買い取ってしまうということも考えたけれど、何にせよ、まずは現地に行ってみなければわからないな。


「わかったよ。とりあえず、その孤児院に行ってみよう。案内を頼めるかな」


「わかった」


 御者の人にカイを預ける。


「すまないね。少し、寄り道をしてもらうことになるけれど、構わないかな」


「もちろんでございます。全ては殿下の御心のままに」


「ありがとう」


 僕がお礼を告げて馬車の中に戻ると、馬車は再び走り出した。




 カイは、大分行った先と言っていたけれど、それは子供二人が足で歩いた場合の話だ。辺りが茜色に染まるころには、馬車は静かに停車した。


「まずは、僕が行ってくるから、ルーナはここで待っていてくれるかな」


 カイが言っていたこともあるけれど、僕一人でいた方が何かと対処もしやすい。


「わかりました。ルグリオ様もお気を付けください」


 安心させるように、僕はルーナの手を強く握った。


「君たちも、ここでルーナとカイとメルを守っていてくれるかな」


「お任せください。この度の道中の警護の全ては、私たちがルードヴィック騎士長より任されておりますので。確実にお守りいたします」


 御者に選ばれるだけあって、護衛能力も城の騎士たちの中ではかなり高い。まあ、どこの守りに付いている騎士に聞いても、自分のところが一番だと言い張るのだけれどね。それで、毎回言い争っているのは、ルードヴィック騎士長も大変だなあとは思う。


「俺も行く」


 僕が歩き出すと、カイも付いてきた。


「おまえ、あなた、うーん、……知らないやつが一人で来たらサラが驚くだろう」


 きっと、サラさんは僕のことを知っているだろうけれど。多分、カイがサラさんの顔を見たいんだろうなあと思ったので、もしかしたら危ないかもしれないとは思ったけれど、好きなようにさせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ