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5年、メルとの戦い 2

 私も負けじと、後ろへ下がって、距離を詰めさせまいとして、地面を蹴ります。

 眼前に迫ってきているメル。

 私が後ろ向きに下がる速度と、メルが前進する速度では、当然差がありますから、両者の距離は近づきます。

 そんなことは分かり切っていることです。

 私はメルとの間に、強度ではなく、速度と数を優先して障壁を作り続けます。それだけで相手、この場合はメルを押しつぶすだけの力は得られませんけれど、絶えず移動している相手、広大なフィールドの中で、個人に対して直接魔法をかけるのは難しいのです。

 当然ですけれど、壊すのと、作り出すのでは、壊す方に分があります。


「よしっ!」


 とうとう私の前の最後の障壁を撃ち抜いたメルが、私のすぐ手前に踏み込みます。


「甘いですよ、メル」


 私は振りかぶってきたメルの右手を掴むと、その勢いのまま投げ飛ばしにかかります。


「まだまだぁ!」


 途中、後頭部に衝撃を感じて、メルを掴んでいた手が緩みます。

 メルは即座にそこから手を引き抜くと、空中で一回転して、地面にふわりと降り立ちます。

 同時に、再び地面を蹴ると、空中へと舞い上がり、無数の魔力弾を振らせてきます。

 降り注ぐ流星群のような光の、魔力弾の雨。

 一つ一つの威力もすさまじく、頭上に展開している私の障壁を抜けてくるものもあります。


「これでっ!」


 メルの踵が降ってきて、私は身体強化と、障壁を併用して、交差させた腕で受け止めます。


「足の力は腕の力の3倍! いくらルーナと言えども!」


 そう、たしかに足の力は腕の力に勝ります。加えて、元々、私とメルでは肉体的な力にも差がありますし、落下の威力も加わるのですから、普通に考えれば、私は吹き飛ばされていたことでしょう。


「……やっぱり、そう甘くはいかないか」


「いえ、大分効きました」


 自分で展開した障壁を支えにすることで、多少は動かされましたけれど、その場に留まることが出来ています。

 

「こちらからも行きますよ」


 言い終わらないうちから、正確には告げるのと同時に、高速で移動。メルの懐へと潜り込みます。

 同時にメルの身体に直接移動させる魔法を使用します。

 加速され、後ろへ向かって吹き飛んでいったメルは、障壁を張るのが間に合わず、競技場の壁にぶつかり、跳ね返って、膝をつきます。

 しかし、メルも伊達に冒険者として実習に赴いていた訳ではありません。

 ダメージは残っているでしょうに、地面を転がり、体勢を立て直します。

  

「ちょっ、きゃっ」


 立ち上がった矢先に足元の地面が隆起して、高い柱の上に乗るような形でメルの身体が持ち上げられます。

 さらに、メルがバランスをとる前に、柱を瓦解させ、メルを空中へ放り出します。

 立て続けに起こる状況の変化に、声にならない悲鳴をあげながら落下してくるメル。

 

「容赦はしません。そうですよね、メル」


 メルが地面に着く直前、着地のために魔法を使用し始めるだろうタイミングで、メルをめがけて雷を落とします。


「っつ!」


 当然、それを防がないわけにはいかないメルは、上方へ向けて障壁を展開しました。

 とはいえ、私も全力ですので生半可な障壁では防ぐことは叶わないでしょうから、メルが防ぐためには上方への障壁に全力を注ぐ必要があります。

 もちろん、空中で足場を形成して、などという時間はとらせません。


「痛ぅう……!」


 地面からの衝撃を殺しきれなかったメルは、苦しげな表情をしながら治癒の魔法をかけています。

 しかし、私としてもメルのダメージが抜け切るのを待つつもりは当然ありません。


「あっ、ちょっと」


 魔力で造り出した鎖によって、メルの身体を拘束します。

 脚をもつれさせたメルは、その場に横倒れになります。


「まだ続けますか?」


 メルの方へとは近づかず、その場から声を駆けます。


「もちろん!」


 メルは滑るような動きで拘束から抜け出してきます。

 時間はかかるようですけれど、お城にいるときには一緒に訓練しているのですから、当然メルにも拘束から逃れるための魔法は使うことが出来ます。私の鎖には魔力を吸収するような効果はありませんから。


「いくよっ!」


 メルが叫ぶのと同時に、私の周囲の空気が急速に熱せられます。

 結界を作り出して私の周囲を覆うのと、空気が爆発するのはほとんど同時でした。

 音も遮っていたので、正確には、火花が散ったのが見えただけでしたけれど。


「さすがに、直接はしてこなかったようですね」


 これは戦争ではありませんから。

 対抗戦でもルールにより規定されていますけれど、過剰ととられる攻撃は咎められる可能性があります。

 メルがするとは思いませんけれど、私の身体を直接爆発させる部位に指定していたのならば、正確には身体に流れる血液を爆発させるのでしょうけれど、治癒の魔法があるとはいえ、一瞬以上の遅滞は免れなかったことでしょう。もちろん、最悪の場合は死に至るので、絶対にしてこないとは分かっていたのですけれど。


「お互い様ということでしょうか」


 このような衆人環視の場で、王家の秘術、秘伝たる魔法、しかもメルとの模擬戦ですから使うつもりは最初からありませんけれど、転移の魔法を使えば、対人戦、一対一の戦いにおいて負けることはほとんどありません。

 何せ、相手が魔法を使うよりも早く転移によって仕掛けることが出来るので、まさに言葉通り一瞬で決着してしまいます。

 襲い来る水の刃を躱しながら、空気の刃で迎え撃ちます。

 空気が弾け、水飛沫が飛び散ります。

 

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