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対抗戦終了

 柔らかな風が優しく髪を撫でつける草原に腰を下ろして、目を瞑って耳を澄ませます。


「今日はよく頑張ったね、ルーナ」


 隣ではルグリオ様がお日様のような笑顔で微笑まれています。

 ルグリオ様の暖かな手が耳のあたりに添えられて、それが気持ち良くて、少しくすぐったくなって、私は身体をよじらせます。

 

「あっ」


 そのままやたらと柔らかい地面に押し倒されてしまって、真正面から私たちは見つめ合いました。

 

「どうしたの?」


 そう尋ねられて、私は顔が熱くなるのを感じて横を向きました。


「知りません……」


 ルグリオ様は一層微笑まれて、私のドレスに手をかけられます。

 誰が来るかもしれないこんなところで、恥ずかしいはずなのに私の腕は払いのけるようには動いてくれません。


「可愛いよ、ルーナ」


「だめです……。このようなところではいけません……」


 私の声に力はなく、消え入りそうなほど小さくて、思うように息が出来ません。


「大丈夫。誰もいないよ、ここにはね」


 嬉しいのか、恥ずかしいのか、その両方なのか、私は覚悟を決めて身体の力を抜いて―—。









「ルーナ!」


 そこで目が覚めました。

 目の前にはアーシャがいて、私の肩を揺さぶっています。

 対抗戦を終えてからの記憶は曖昧で、どうやら私はお風呂に入っているようなのですけれど、整列を済ませてからの事はほとんど覚えていません。


「あーあ、起きちゃった。残念」


 頭の上から声が聞こえてきたので顔を向けると、何だか嬉しそうな表情をしているロマーナが見えました。

 態勢を確認すると、どうやらロマーナの身体の前で眠ってしまっていたようです。

 周りの皆は顔を赤くしていたり、頬に手を当てて微笑ましそうに見つめてきていたりします。


「あの、どうかしましたか?」


 もしかして何か口走っていたのでしょうか。


「いーえ。何にもないわよ。ねえ」


 シュロスが振り向くと、下級生はすごい勢いで首を縦に振っています。


「ルーナが夢でル、むぐっ……」


 何か言おうとしていたリアの口を、隣にいたサンティアナとラヴィーニャが即座に塞ぎます。


「このおバカ」


「少しは考えなさい」


 とりあえずお風呂の中で沈んでしまわなかったことに関してアーシャにお礼を告げると、罰の悪そうな顔で曖昧な返事が返ってきました。


「あー……うん、まあ、あはは……。なんかごめん」


「何がですか?」


 私が首を傾げると、アーシャは、何でもないと言いながら、湯船を出て、身体を洗いにいってしまいました。


「……さすがに2周目は悪いと思ったのかしら?」


 ロッテが呟いた言葉の真意を確かめる暇もなく、我関せずとでも言うように、離れたところでレーシーさんに背中を流してもらっているハーツィースさんが、どうでもよさそうにため息をついています。


「隙だらけですね」


「好きだらけ……?」


 やはり、先程の夢の内容を口走ってしまっていたのでしょうか?


「私たちは先に出ます。……あなた達もやり過ぎないよう」


 ハーツィースさんに続くようにレーシーさんが頭を下げて、後を追って浴場を出て行かれます。

 頭の向きを戻すと、皆、どことなく視線を逸らして、空中を彷徨わせています。


「あ、すみません、ロマーナ」


 いまだにロマーナの身体に寄りかかっていたことを思い出して、立ち上がると、すぐ隣に座り直します。ロマーナは少し残念そうな顔をしていました。


「どうだった、ロマーナ?」


「そうね……、大よそ78のAといったところかしら」


「なんで知っているんですかっ!」


 胸を隠して後ずさりながら叫んでしまって後悔しました。


「へえ、本当なのね」


 ドレスを作った時とほとんど変わらないサイズ。多少は変化もありましたけれど、誤差と言ってしまえばそれまでのような気もします。

 お母様も、お姉様も、ふくよかなものをお持ちなので、私もいずれああなるのだろうと考えていましたけれど……。


「殿方の好みなんてそれぞれなのだから、気にしなくてもいいんじゃないかしら」


 ふにふにとしている私を気にする様子もなく、話は続いているようでした。

 私は社交界など参加したことはほとんどないので、あったとしても他の方とお話することもありませんから分かりませんれど、シュロス達ならばそのような知識もあるのではないでしょうか。


「社交界なんて退屈なだけよ」


 サンティアナがそう言うと、ロマーナも頷いています。


「小さい頃はそうでもなかったけれど、最近は、特にこの前の夏なんかは大変だったもの」


 曰く、盛り場だとか、曰く、狩場だとか、そんな言葉ばかりが聞こえます。


「まあ、王女様に痴漢行為を働くような輩はいないと思うけど、参加することがあったら、これから増えるのでしょうけれど、気をつけなさいよ」


 実感の籠った言葉でした。

 伯爵家の長女に失礼を働くような方がいらっしゃるとは思えませんけれど。 


「遭遇したことがあるのですか、シュロス?」


 しばしの沈黙が訪れます。


「いえ、ないわよ」


 それは綺麗な笑顔でした。

 私は勿論、社交界やパーティーの心得など物心ついたころから教わってきましたから大丈夫だとは思っていましたけれど、少し気を付けた方が良いのかもしれません。

 収穫祭の後辺りで、お披露目はとっくに済んでいますけれど、婚前パーティーが開かれるといったようなことをおっしゃっていましたし。


「その招待状ならうちにも来ていたけれど、ルーナは大丈夫でしょう」


 サンティアナに同意するようにロマーナも頷いています。


「ルグリオ様とセレン様が目を光らせていらっしゃるでしょうからね」


 そんな話をしていると、くぅとお腹の鳴る音が聞こえてきました。


「そろそろあがりましょうか。シェリルもお腹が空いたみたいですから」


「そういう事は気付いても言わないのが花ってものでしょう」

 

 おそらく、お風呂以外の要素で赤くなったシェリルが可愛らしく頬を膨らませたのに少しばかりの笑い声が起こりました。

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