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5年 vsイエザリア 4

「疲れるわね」


 私たちだけが疲れているわけではないのですけれど、不満の1つや2つ、言いたくなるものなのかもしれません。

 自分たちで選んだことですし、かなりの確率で、いえ、おそらくはこうなるだろうということも予測できていましたけれど、実際に自分の身体の調子を考えると、なんとも情けない気持ちになります。


「やはりあれが余計でしたね……」


 シュロスには聞こえないように呟いたつもりだたのですけれど、この距離で聞こえないなどといったことはあり得ませんでした。


「ごめん、ルーナ。私たちが役立たずだったから」


「そんなことはありませんよ」


 私は表情を曇らせてしまったシュロスに間髪入れずに応えます。


「私はあの檻の材質に関して多少の知識があっただけですから。初見で、あの状況では仕方のないことです。誰だって恐怖しますよ」


 私があれに出会った最初は自分が捕らわれていた訳ではなかったですし、破り方を知っていたのも、ルグリオ様の前例があったからというだけに過ぎません。

 魔法、魔力という普段当たり前以前に使っているものが使えなくなれば、誰だって恐怖に陥りますし、冷静な判断など出来るはずもありません。


「……でも私は伯爵家の人間で、皆の手本になる様に、いつでもしっかりしてなきゃいけなかったのに。貴族が国民を守らなくて誰が守るって言うのよ……。こんなことじゃ、あの人に示しがつかないわ……」


 私が何と言葉を掛けようとも、シュロスの後悔が消えることはないのでしょう。

 自分ではない、他の人にならば何とでも慰めの言葉を掛けることが出来るのでしょうけれど、やはりといいますか、自分の事となるとどうしても失敗に対して悲観的になってしまうものです。


「自惚れていたのかしら……」


「自分を責めるのは違いますよ、シュロス」


 向きを変えて座り直し、シュロスの顔を真っ直ぐに見つめます。


「ルーナ」


「たしかに私たちは自信過剰だったかもしれません。最初から先生方に相談していれば、もっと上手く解決してくださったかもしれません。ですが、対抗戦と、下級生、それに他校生のことを考えて動いたこと、それ自体に意味がなかったとは言えません。どころか、とても良い結果だったではないですか」


 捕らわれかけた、いえ、実際に捕らえられた私たちが言うのも間違っている気はしますけれど、他の皆を巻き込まず、過程は別としても、最終的には誰も傷を負わずに解決することが出来たのですから。

 もし私たちが動かなければ、などと傲慢なことを言うつもりはありませんけれど、結果だけを見れば、被害が及ばずに済んだことは喜ぶべきことで、誇りこそすれ、落ち込むことはないはずです。


「それに、今回の事で皆、知ることが出来たではないですか。対処できるかどうかは別問題だとしても、知っている、ということは、知らないでいることよりもずっと価値がありますよ」


 だから、と続けようとしたところで、こちらへ向かって足音が近づいてきました。

 喋り過ぎていたのかもしれません。

 迂闊だったかとも思ったところで、顔をのぞかせたのはキサさんでした。


「あれ、先輩方、どうかされたんですか?」


 倒れているアーサー様をちらりと見られ、不思議そうな顔を向けられました。


「強敵だったんですね。先輩方をここまで消耗させるなんて」


 キサさんに素直に称賛と尊敬の眼差しを向けられて、なんとなく居心地の悪い気分になりました。


「それはそれとして」


 容赦なく、追い打ちをかけるように、アーサー様を地面に埋めてしまったキサさんが笑顔を向けます。


「お疲れのようでしたら先輩方はそこでお休みください」


「もう大丈夫よ」


 シュロスは吹っ切ったように勢いよく立ち上がりました。


「後輩にまでそんな心配をかけさせるわけにはいかないわ」


「たしかあの部屋に消えたと思ったんだが……」


 キサさんを追って来られたらしいイエザリアの方達のものと思われる声が聞こえてきます。


「おい、もっと慎重に進めよ」


「大丈夫大丈夫。こっちに向かったのはアーサー先輩だろ。だから」


 顔をのぞかせた彼らの顔が音を立てて固まるのが分かりました。


「ご機嫌よう」


 立ち上がって埃を払うと、取り敢えず挨拶から入ることにしました。


「ご、ごきげんようでございますです、はい」


「ばか! そうじゃねえだろ!」


 キサさんが放った雷撃を地面を転がって左右に壁の裏へと隠れることで回避されます。

 私は障壁を作り出してみて、自分の回復量を測ります。


「まだ全快とはいきませんけれど、大丈夫ですよね、シュロス」


「そう言ったわ」


 頷きあうと、私たちはキサさんの前に出ます。


「あの、先輩方?」


「ありがとう、キサ。助かったわ」


 シュロスがそう言って入口へ向かって地面を蹴ります。

 同時に飛んできた、シュロスを拘束しようとしていた鎖は、届く前に私が切断します。

 身体を捻りながら入り口へ飛び込んだシュロスの広げた手の先から衝撃波が出て、空気が音を立てて震えます。


「ぐえっ」


 片方の、壁の方へと吹き飛んだ方からうめき声が聞こえてきました。

 シュロスが地面を蹴って、声と反対側へ駆け出します。


「私たちも」


「はい、ルーナ先輩」


 私とキサさんは一緒に入り口から出ると、シュロスの向かった方へと走り出します。





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