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5年 vsイエザリア 2

「これはご丁寧に。ルーナ・リヴァーニャです」


「シュロス・ヴァーミストよ」


 お互いに名乗り合ったところで、即座に仕掛けてこられると思っていたのですけれど、アーサー様は雷にでも打たれてしまわれたかのようにご自分の胸を押さえて膝を折られました。


「あの、いかがなされましたか?」


 対抗戦の真っ最中ではありましたけれど、さすがに顔を合わせてすぐの方が急に蹲れてしまわれてはお声をかけないわけにもまいりません。


「ルーナ、作戦かもしれないんだから迂闊過ぎるわよ」


 シュロスが私の肩を掴んで引き留めます。

 心配させるようなフリをしておいて近づいてきたところを、ということでしょうか。そんな食人植物のような擬態、もしくは擬死などという回りくどいことをされるような校風ではなかったと思っていましたけれど。


「大丈夫ですよ、シュロス。それに、仮に作戦なのだとしても、目の前で倒れてしまわれた方を放っておくわけにもいきません」


「まったく……」


 シュロスにお礼を告げると、屈み込んでアーサー様に手を差し出します。


「立てますでしょうか?」


 急に手を取られたかと思うと、両手でしっかりと右手を握られて、正面から私の事を覗き込んで来られました。


「結婚してください!」


「……はっ?」


 思わず、そんな言葉が漏れてしまいました。


「あ、結婚は早過ぎましたかね。では、お付き合いからでも」


「えーっと……」


 どうしてよいのか分からず、振り向くと、シュロスが笑いを堪えているように口元を押さえていました。


「ルーナ。良いお名前ですね。それで、お返事はいかがでしょうか?」


「……アーサー様。今の状況を理解しておいででしょうか?」


「はい。コーストリナ王国の学校が集まって毎年開催されている対抗戦、その最終戦の最中ですよね」


 それが何か? とでも言いたそうなお顔で、数度瞬きをされて、首を傾げられます。


「ビビッときた人がいたらすぐに声を掛けなさいと、師匠に言われていましたから」


 その師匠様という方には色々と言いたいことが出来たのですけれど、取り敢えず。


「それとも、僕では何か不都合がおありですか?」


「あなたに不都合があるのではなく、私の方に都合があるのです」


 本当にご存じないのでしょうか?

 シュロスと顔を見合わせましたけれど、シュロスも肩をすくめていました。


「ご都合ですか?」


 目を丸くされて心底不思議そうに尋ねられたところを見るに、本当にご存知ないのでしょう。


「はい。私、今度の春、学院を卒業したら結婚するのですよ」


「そ、それは、ど、どなたとでしょうか?」


 再び雷に打たれてしまわれたかのように固まってしまわれたアーサー様は、震える声で、この世の終わりだとでも言うように恐る恐る尋ねられました。


「この国の王子であらせられるルグリオ様です」


「その方は、僕より爽やかで、気品があって、頭脳明晰で、誰に対しても優しく思いやりに溢れた性格で、決断力に富み、包容力の溢れた、魔法の扱いがお上手な、誰よりもあなたの事を心から愛していて、あなたも心から愛せるお方なのでしょうか?」


「はい」


 間髪入れずにそうお答えすると、がっくりと膝を折られました。


「そんな。こっちへ降りてきて初めて見つけた運命の人に玉砕するなんて。師匠、僕はどうしたら良いのでしょうか」


「今まではどこか別の場所にいらしたのですか?」


 感じられる魔力は強大ですし、私たちの気配を察知されたことからも、この方の実力は相当高いのだということが窺えますけれど、思い返してみても、今まで対抗戦等でお会いしたことはありませんでした。そもそも、自惚れかもしれませんけれど、私の事情をご存知ないということが、かなり世間の事情に疎いのだということを教えてくれます。


「はい。本当は4年前にこっちに降りてきて学校に通う予定だったのですけれど、師匠がうっかり日付を間違えていまして」


「壮絶なうっかりね」


 シュロスも呆れています。ようするに4年間寝坊したと言っているようなものですから、私も同じ気持ちでしたけれど。

 それで編入なさったのですかと尋ねると、アーサー様は、その通りですと頷かれました。

 もちろん、本来の学院に通うべき年齢とは違っても入学することは出来ます。基本的には通わなくてはならないと定められていますし、しっかりと学びたいのであれば1年生から入学するのが一番であることに違いはないのですけれど。


「生きていれば何があるか分かりませんから、きっとこれから先良い出会いもありますよ」


「ありがとうございます。頑張ります」


「それでは」


 そうして立ち去ろうとしたのですけれど、笑顔で送り出してくださったアーサー様は、はっと思い出されたかのように声を上げられると、私たちの前に立ち塞がれました。


「そうでした。ここで出会ったのだから、感情はともかく、あなた達を通してはいけないのでした」


「気づいてしまったのね」


 シュロスが小さく舌打ちを漏らします。


「あなたもお美しいですね。そのように舌打ちなどなさってはお美しい顔が歪んでしまわれますよ。いえ、それでもお美しいですけれど」


「軽薄ね」


 ともかく、こうなってしまっては戦うよりほかにありません。


「少しは回復なさっているようですけれど、魔力量的には今のお二人を合わせても、僕と互角か、下回っていらっしゃいますよ」


 それでもやるのですか、といった意味合いを含んでいるように感じられます。


「見くびらないで貰いたいわね」


「遠慮は無用ですよ、アーサー様」


「では参ります、お二方」


 アーサー様の身体が眩く光り出します。

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