余興の方が盛り上がることってよくあるよね
フィールドへの入り口手前ではとても不安そうな顔をしているメルやキサさん達が行ったり来たりを繰り返していました。
私たちに気がつくと、ぱっと顔を綻ばせながら駆け寄ってきて、私の胸の中に飛び込むように抱き着いてきました。
「良かった、ルーナ。無事だったんだね」
「メル、心配を掛けました」
それから、待たせてしまっていたハーツィースさん達にも頭を下げます。
「ありがとうございます、ハーツィースさん。こちらで皆を守っていていただいて」
「感謝されるようなことではありません。今は同じ学院で学ぶ者同士なのですから、当然のことをしていたまでです」
素っ気のない言い方でしたけれど、レーシーさんがほっとしたように微笑まれていらっしゃることからも、ハーツィースさんが本当はどのように感じていてくださっていたのかを推測することは容易でした。
私たちを信じて待っていてくれたキサさん達にも、お待たせして、不安にさせてしまい申し訳ありませんと告げようと思ったのですけれど、そのような必要はありませんと首を振られてしまいました。
「ルーナ寮長、それに先輩方が、何かとても大切なこと、それも私たちを含めてここに集まっているすべての方のために動かれていたのだろうということは想像がつきます。そうでなくては、先輩方がこのように遅れたり、ましてやすっぽかすことなどあり得ることではないでしょう。それに対して、私たちが告げられる言葉はありません」
キサさんの言葉に集まった代表者の皆さんが頷かれます。
「ありがとうございます。それで」
「おっしゃりたいこと、お知りになりたいことは分かっています。説明するよりも実際に見ていただいた方が早いと思うのでこちらにいらしてください」
私の言葉を遮って、先頭を歩いて行かれたキサさんに続いて、メルに手を引かれながら私はフィールドの方へと進みました。
「……これは」
場内からはたくさんの声援、歓声が飛び交っていました。
もちろん、エクストリアのものだけではなく、これから対戦することになるイエザリアのものもです。
私たちがここにいてまだ始まってすらいないのにも関わらず、一体何故、と思って、フィールドの様子を窺うと、思わず、その光景に言葉を失いました。
「これは、お許しになられたのですか?」
実際に行われているのですから許可が出ていることは明白でしたけれど、そう聞き返さずにはいられませんでした。
「……姉様には時間稼ぎを頼んでいたんだけど、これじゃあどっちが本番か分からなくなっちゃうよね」
ルグリオ様はやや苦笑気味にそうお答えくださいました。
競技場の中央では、かなり布地の面積の少ない派手な衣装を纏われたセレン様と、色違いで同じ衣装を着てかなり恥ずかしがられてるご様子の真っ赤になられたシエスタ先輩が、やけに妖艶な舞を披露されていらっしゃいました。
もちろんと言いましょうか、周りにはソフィー先輩も、リリー先輩も、アイネ先輩も、イングリッド先輩も、それからキャシー先輩もいらっしゃって、同じような衣装で、同じように踊られていらっしゃるものですから、当然のごとく会場中の男子生徒も、女子生徒も、それはそれは大興奮で、下手をすれば対抗戦よりも盛り上がっているのではないかとも思えるほどの熱気、いえ、狂騒です。
なお、どちらも相当弾けていたのですけれど、どちらの方がというのは言うまでもありません。
「きっと男子は眠れぬ夜を過ごすのでしょうね」
ロマーナが呆れたような深いため息をついて、シュロス達は苦笑していました。
それから私たちも見入っていたのですけれど、やがて曲が終わるころになると、辺りはもうすっかり日が落ちていて、魔法の光が眩くセレン様達を照らしています。
「名残惜しいけれど、茶番はここまでよ」
ええー、という非常に残念がる声が会場中から聞こえてきます。
「今日は私たちに付き合ってくれてありがとう。大勢の前で皆でこんな風にできる機会はなかなかないから、良い練習になったわ」
会場からは惜しみない拍手と声援が送られます。もちろん私たちも力の限りに拍手を送りました。
「それじゃあ、今日の主役がお待ちかねみたいだし、私たちはそろそろ失礼させて貰うわね」
セレン様が指差されると、私たち、そして反対側の入り口に待機していらしたイエザリアの選手の方達が眩しい光に照らされます。
再び大歓声と拍手が沸き上がり、私たちはルグリオ様に送り出される形でゆっくりと競技場の中央まで進み出ます。
「ありがとうございます。セレン様、それから先輩方」
「お礼はルーナのちゅーでいいぞ」
「アイネ、馬鹿なこと言わないの」
ソフィー先輩に優しく頭を叩かれたアイネ先輩を押しのけられて、リリー先輩が進み出てこられました。
「お膳立てはしといたっす、ですから。あとはしっかりやる、やりなさいよ」
私たちは揃って頭を下げました。