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お昼休みの探索

 ルーナ達の試合が終わり、皆が昼食のために寮へと引き返していたころ、メルは一人競技場の廊下を走っていた。


「キミ、今日はここから先、学生さんと言えども立ち入り禁止だよ」


 わざわざ貴賓室と分けられているくらいなのだからそうなのだろうとはメルも理解していた。

 しかし、それでも一刻も早く、お二人の耳に入れておきたかったのだ。


「どうかしたのかしら?」


 外で話している声が聞こえたのか、セレンが扉から顔を出した。


「はっ、セレン様。こちらの学生がどうしてもお二人にお目通りしたいと」


「……そう。構わないわ。入れてあげて」


「畏まりました」


 深々と頭を下げる守衛の横を通り過ぎて、メルはセレンに手を引かれながら貴賓室へと入っていった。









「どうかしたんですか、メル」


 私たちが寮で昼食を終える頃になると、遅れてメルが食堂に戻ってきました。


「なんでもないよ」


 気にはなりましたけれど、メルはどこか安心しているような表情を浮かべていましたし、同時にアーシャ達も立ち上がったので尋ねることは出来ませんでした。


「あんまり時間もないことだし、はやく行って済ませよ」


 サイリアとの戦いは朝も早く、それより前に向かうことは出来ませんでしたけれど、運良く邪魔が入るようなことはありませんでした。だからといって、イエザリアとの戦いに横やりが入らないとは限りません。いえ、昨日の様子からすると、まず間違いなく何らかの事件は起こすつもりなのでしょう。


「えっ、今から行くの?」


 メルが焦ったような声を上げます。


「ええ。ですが、心配せずとも大丈夫です。開始前には必ず戻りますから」


「ちょっと、ルーナ」


「ルーナ、はやく」


 メルが何か言いかけていましたけれど、ロッテが急かすので、私は、後で聞きますから、と女子寮を後にしました。






「いるとしたらどこかしらね……」


 サンティアナが顎に手を当てて首をひねります。

 女子寮を出てから、ストレッチがてらに身体が冷えてしまわないように動かしながら、一番ありそうな競技場へと足を運びます。


「……二手に分れましょう。競技場内か学院内の他の場所かで」


 観客の生徒や先生方、サイリアの生徒の皆さんはすでに引き払われていて、観客席はがらんとしています。

 サイリアの方達はこれから移動しなくてはなりませんから、はやくに引き上げられたのでしょう。

 逆にエクストリアの生徒は残っていてもおかしくはなかってのですけれど、好都合なのか、それともいざという時に困った状況になるのか、一人の姿も確認できませんでした。

 

「危険そうだけど、それしかないわね。後輩を危険に合わせるわけにはいかないわ」


「それに、後輩たちは彼の……ジュール元先生の顔を知らないものね」


 同じ理由からハーツィースさんにも同行して貰ってはいません。


「どこが一番ありそう?」


 競技場内に残ったリアが眉を顰めます。


「それはきっと……更衣室か、もしくはシャワーのところでしょうね」


 そう言ったシュロス自身も、うんざりしたような表情を浮かべています。

 偏見も甚だしいですけれど、どうしてもその辺りが警戒場所になってしまうのは、私たちの中での彼に対する印象がそういうものだということなのでしょう。事実、誰からも反対意見は出されませんでした。


「昨日の事から考えて、これ以上隊を分けるのは良くないわね」


 全員で同じ場所を探していたのでは効率が悪すぎて、とてもイエザリアとの対戦に間に合うとは思えません。 

 では、転移するのは?

 この人数ならば全員を転移することは可能でしょうけれど、相手の人数も、戦力もほとんど分からない状況で、こちらの札を切ってしまうことは出来る限り避けたいです。もっとも、ジュール元教諭には知られている、もしくは勘ぐられている可能性が全くないとは言い切れませんけれど。


「結局、これが一番早そうね」


 私たちは顔を見合わせて頷きあうと、青い小鳥、白い蝶々を作り出します。

 場所の目当ては付いていても、相手方が一人だけとは限りませんし―—むしろ、確実に複数人いると思われます―—思い込みで行動していては、思わぬところで躓きかねません。

 それらの飛んで行くまま、導かれるままに、慎重に、けれど迅速に建物の中を進みます。


「本当にいるのかしら?」


「いないのならいないで構わないじゃない。むしろそっちの方が」


 ロッテとシュロスのおしゃべりを、左手を上げることで遮って、そのまま人差し指を立てます。

 小鳥たちがとある部屋に入っていこうとしたので、そうなる前に消してから壁に耳を当てます。


「さすがにそこまで馬鹿じゃないようね」


「場所は許せないけどね」


 遮音魔法をかけているのか、室内の会話は聞こえてきません。

 シュロスの言葉は彼らが遮音障壁を展開しているのであろうことに関して、リアの怒りは目の前の部屋が、先程まで私たちが使っていた更衣室であることに対してでしょう。

 探索魔法の精度に関してはほとんど心配していませんけれど、もしかしたらはずれの可能性もあります。


「準備は出来ているわよね?」


 先頭に立ったシュロスが振り向きます。

 私たちが声を上げずに頷いたのを確認すると、シュロスは勢いよく扉を開け放ちます。


「そこまでよ。大人しくお縄につきなさい」


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