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5年 vsサイリア 3

 私がサイリアの陣地、校章の近くに辿り着いたときには、すでに混戦の様相を呈していました。

 シェリルとシュロスは勿論のこと、サンティアナにラヴィーニャも、互いの背中を守る様にしてじりじりと、しかし、着実に相手校陣地の中心へと近づいています。


「これ以上進ませるな!」


「索敵に出ていた奴らはまだ戻らんのか!」


「あいつら何してんだ、突破されてんじゃねえか」


 無論、ただではやらせまいとするサイリアの防衛陣。

 一人は汲みあげた水からゴーレムを作り出し、別の一人は自分の影から大鎌のような形状の黒いモノを取り出しています。

 更には、身体が膨れ上がり、以前相対した方のように、魔物と人間の間のような姿形をとられている方もいらっしゃいます。


「新手かっ!」


 全身を純銀の鎧に覆われた方が、私に気付いて声を上げます。


「ルーナ様」


「ごきげんよう。ルーナ・リヴァーニャです。押して参ります」


 そう言ったものの、武器を持った相手に対して、いきなり突っ込むわけにもいきません。懐まで潜り込むことが出来れば無力化も出来ようものですけれど、今の私の力ではそれは難しそうです。

 

「申し遅れました。私、クロイツ・マイノールと申します。鎧越しでのご挨拶、ご容赦ください」


 戦闘中にも関わらず、律儀に名乗られた騎士風の格好をされた方は、声からして男性でしょうか、いまだに腰の物を抜かれようとはされていらっしゃいません。


「それは抜かれずともよろしいのですか?」


「……これは姫様をお守りするための剣です。この姿を取ると、やむを得ず一緒に召喚されてしまうのですが、守るべき対象に気軽に向けられるほど安い剣ではございません」


 そうおっしゃられると、クロイツ様は別の剣を出現させます。

 見えている鞘から判断するに、腰の物よりも大分細長い剣が、日の光を反射して、鏡のように磨かれた刀身を光らせています。

 逆の手には紋様の入った同じ色の盾が握られています。


「……急がれているようでしたから飛び込んで来られるものと思っていましたけれど、慎重でいらっしゃいますね」


 それも事実ですけれど、そう容易には突破することは出来ないだろう雰囲気が醸し出されています。

 しかし、いつまでもこうして睨み合っている暇はありません。

 私は意を決して初撃、空気弾を飛ばします。


「ふっ!」


 障壁でもお作りになられると思っていたのですけれど、そうはならず、クロイツ様は手にされた剣で私が飛ばした空気弾を二つに裂かれました。


「この力は守るための力。姫様を守るためならば、たとえ相手が姫様であろうとも、この鎧にかけて、ここはお通しできません」


 強い意志が伝わってきてとてもあたたかい気持ちになったのですけれど、今は通していただかなければ困ります。

 私は障壁を展開すると、深呼吸して、一歩ずつ、確かめるように近づきます。

 

「あなたに信念が御有りなのはよく分かりました。しかし、私もここに立っている以上、覚悟を持って来ています。どうぞ今だけは遠慮なさらずにいらしてください。あなたが守るべき姫は、それほど弱くはないのだということを教えて差し上げましょう」


「……」


 少し大仰な物言いだったでしょうか。

 クロイツ様は、私が間合いに入ってからも、しばらく動かれずにじっと私を見ていらっしゃる様子でしたけれど、覚悟を決められたかのように、握られた剣を振りぬかれます。

 文字通り、目にもとまらぬ速さで振りぬかれた剣は、私の真横の障壁にひびすら入れてはいらっしゃいません。


「ご理解いただけましたか? 一度は許しますが、これ以上は侮辱と見なします」


「大変失礼いたしました」


 剣を引き戻されると、今度はしっかりと腰を落として構えられ、鋭い眼光で私の事を睨みつけられます。

 次の瞬間には、私の目の前、正確には地面から大きな剣が突然生えてきました。

 後ろに飛びのくと、私を追随するように、次から次へと、大小様々な剣が地面から、そして前後左右のあらゆる空間から飛び出してきます。

 それは剣に留まらず、槍だったり、弓矢だったり、鎌だったりと、様々な武器が、飛び出しては消え、飛び出しては消えを繰り返しています。


「それでは私も参ります」


 そこにクロイツ様も加わられ、捌くのがさらに大変になります。

 クロイツ様の剣の、或いはその他の武器の技量は確かなもので、障壁で受けているにも関わらず、一撃一撃に重みを感じます。


「うちの者たちは皆知っていることですのでお告げしますと、私に出来るのはこれだけです。何故だか他の魔法は使うことが叶いませんでした。ですから、だからこそ、この距離で負けるわけにはいかないのです。たとえ姫様が相手であろうとも」


 まるで何年も何年も訓練してきたかのような熟練差を感じさせる剣技で、私の障壁を浮き破ろうと、あるいは切り裂こうと剣が振るわれ、宙を舞います。

 さながら剣の舞踏とでもいうべきその光景は、見ている側ならばきっと目を奪われていたに違いないと思わせるほどに流麗なものでした。


「あなたに思いがある様に、私にも信念があります。私たちは一刻も早く……、いえ、今言うのはやめておきましょう」


 障壁の内側から魔力を放出して、その衝撃に一瞬手が休まるところを見逃したりはしませんでした。

 止まっている剣ならば掴んで止めることは容易いです。そしてそれを破壊することも。


「あなたの思いを砕くようで心苦しくはありましたが、この程度で心まで折れたりはしませんよね」


 急激に凍った刀身が、音を立てて地面に散らばり、消えてゆきます。

 新たな剣を作り出されるその前に、鎧を手元まで引き寄せて地面へと叩きつけます。どうやら気を失われたようで、蒸発するように、剣と鎧が消失しました。


「隙あり!」


 顔を上げたところで、光り輝く手のひらが私に伸ばされているのが見えました。

 それは私の障壁を破壊して、止まらずに私に迫ってきます。


「そんなものないわよっ!」


 距離を詰めて私のところまで戻ってきていたシュロスが造ったと思われる障壁がその手とぶつかり、双方ともに後方へと吹き飛びます。


「この手を止めるとは」


「ルーナ! 早く!」


 私はシュロスに軽く頭を下げると、目前まで迫った校章へと駆けます。


「私を無視するなあ!」


「無視してないわよ、ちゃんと私が相手をしているじゃない」


 サンティアナの支援も受けつつ、校章の目前まで辿り着いた私の前に女性が一人、立ち塞がれました。


「ルーナ王女。校章に手だししたければ、私を倒してからにしてくださいませ」


「あなたは?」


 薔薇色の髪を靡かせられた彼女は、優雅な仕草でお辞儀されました。


「ファルニー・ティアニスですわ。以後どうぞお見知りおきを」

 

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