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5年 vsルーラル 決着

 ルーラル魔術学校の競技場近く、普段は誰も近寄らないような薄暗い区画に灰色の作業服を着た清掃員と思しき数人が集まっている。

 帽子を深くかぶった彼らは額を突き合わせるようにして、どこから入手したのか、競技場の見取り図を広げている。


「各員に通達、準備は」


 短く発せられた言葉。

 返事が返ってきたのか小さく頷いた彼らは互いに顔を見合わせる。


「ではこれより―—」


 そこまで話して、不意に彼らは会話を止める。


「あら、こんなところまで人がいるなんて、ご苦労様」


 それ自体が光り輝いているような腰ほどまである美しい金髪、薄暗いこの空間でもそれは変わらない。むしろ、わずかに零れている光を受けて、この場で魔法ではない光源足ろうと、普段太陽の下で見るよりも一層自己主張している。

 向けられた笑顔はまさにこの世の女神のようで、男性のみならず女性までもが虜になっても全く不思議ではないものであったが、彼らの心は休まるどころか一瞬で凍り付けられた。

 大きすぎて下品、などということは全くなく、程よく、それでも人並み以上に膨らんだ胸部と、反対に健康的なラインで細く引き締まった腰、スカートの端からわずかに見える細い足首。

 絶世と言っても過言ではない美女が、澄んだ碧眼をすっと細めて、彼らの事を一瞥する。


「それで、この学校に改修作業が入るなんて報告は受けていないのだけれど、今行われている対抗戦には見向きもせずにこんなところにいるあなた達は一体何をしているのか、もちろん教えて貰えるわよね?」


 どうしてこの場所が、とか、なぜ計画のことが、などといった疑問を一切介在させる余地もなく、彼らはセレンの前で膝をついた。












 私の目の前で繰り広げられるシェリルとエイフィス様の戦いはその激しさを増しています。

 激しさを増すとは言っても、様々な魔法が飛び交ったり、肉体的な、体術でのぶつかり合いが始まっているわけでもありません。

 互いの領土を占領しようと、二人の中間あたりで衝撃をまき散らしながら、邂逅したシャノンさんとロワーネさんの勝負のような、激しい魔法同士が互いを飲み込まんとしています。

 赤と黄色の炎に包まれたような空間を推し進めるシェリルと、真っ白な冷気の層を叩きつけるエイフィス様は、言葉も交わさず、ただひたすらに目の前の自分の魔法に集中していらっしゃるご様子です。

 そのシャノンさんとロワーネさんは、私が守る校章の周り、すでに半分以上が壊れている建物を支える壁の間を、ひっきりなしに飛び回りながら、互いをけん制するように、どちらも相手を校章から引き離して、隙あれば、といった感じに派手に立ち回っています。

 ここまで派手に戦いを繰り広げていても、建物自体の崩落が起こっていないのは、ひとえに構築された先生方の力量の賜物でしょう。


「いい加減降参したら?」


 シャノンさんが閉じ込めんと作り出した結界を、内部から作り出した結界によって弾き飛ばしたロワーネさんが、肩で息をしながら不敵に笑いかけられます。


「そんなことを聞くってことは、私を倒す自信がないのね。可哀想に……。でも、ごめんなさい。私は負けてあげるつもりはないから」


「べ、別に負けて貰わなくても結構よっ!」


 地面についたロワーネさんの手を起点に巨大な魔法陣が広がります。

 壊れかけ、或いは壊れている柱の所々に同じ文様が浮かんだかと思うと、あるところからは捕らえようとする鎖が、他のところからは打ち破らんとする光弾、剣が飛び出して、一斉にシャノンさんに襲い掛かります。


「くっ!」


「貰ったわ!」


 すべての鎖を弾き飛ばし、最後の剣を躱さんと飛び上がったシャノンさんの背後に回っていたロワーネさんが、組んだ拳をシャノンさんの背中に叩きつけます。

 激しい音を立てて、煙をあげながら床に激突したシャノンさんの傍らにロワーネさんが降り立ち、ひざをつきます。


「これで」


「油断ね」


 足首を掴まれたらしいロワーネさんが仰向けにひっくり返ります。


「まだ―—」


「遅い」


 障壁を展開しようとしていたロワーネさんよりもはやく、シャノンさんの魔法―—おそらく体術ではないでしょう―—によって、密着していたシャノンさんの手のひらとロワーネさんの身体、そして床までもが少し揺れました。


「ふぅう」


 ロワーネさんの気絶を確認したらしいシャノンさんは、素早く辺りを見回します。


「大丈夫です。他に相手はエイフィス様しかいらしてませんから」


 私が声をかけると、シャノンさんはようやく安堵したように溜息を漏らしていました。


「他のところは大丈夫でしょうか?」


 シェリルの戦いには入り込めないと思ったのか、私の近くまでくると、校章を挟んで私の反対側に油断なく構えられます。


「ここまでいらっしゃったのがまだそれほどでもありませんから、おそらくは優勢ではないかと思いますよ」


 ルーラル魔術学校の方達を侮るつもりはほんの少しもありませんけれど、それよりもアーシャやハーツィースさん達を信じている気持ちの方が大きいです。


「お疲れでしょう。少し休んでいても大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。けれど私は大丈夫です。キサたちが戦っているのに私だけ休むことなど出来ませんから」


 そこへ熱刃のかまいたちが襲ってきたようで、障壁に守られていない周りの壁が傷跡のように抉られました。


「……今日は、このくらいで、勘弁しといてあげるわ」


 息も荒く、所々引き裂けている運動着を身に纏ったシェリルが、私たちの前までくると、どかりと腰をおろしました。

 遠くの方では仰向けに倒れられたエイフィス様の姿が見られます。


「お疲れ様です、シェリル」


「ルーナ、ただいま」


 シェリルに手招きされて、傍らに膝をつきます。シェリルは私の膝の上に頭を乗せました。


「あー。このために戦ってきたって感じ」


「先輩、ずるいです」


 私が少し離れてしまったために、校章から離れることができなくなってしまったシャノンさんが可愛らしく口を尖らせます。

 私が髪をなでると、シェリルは気持ちよさそうに目を瞑りました。

 シェリルの服を元通りに修復します。


「ありがと、ルーナ」


「いえ。……とりあえず、しばらくは大丈夫そうですから」


 結界を強度は無視して広げることで、侵入したのが分かるように、範囲を広げ続ければ、ある程度の人数、位置取り等は把握できます。

 もちろん、防壁等で妨害もされますし、完璧とは言い切れません。

 詳細は分かりませんけれど、反応が密集しつつある地点、ダミーでなければそこに相手の本陣と、こちらとあちらの戦力が集まっているはずです。他のまばらな反応は、索敵等で散らばっている選手のものでしょう。


「決着もそろそろでしょうか」


 私自身はほとんど何もしていないのであまり実感も沸きませんけれど。


「おっと、それじゃ」


 シェリルが身体を起して立ち上がり、大きく伸びをしていると、ゆらゆら揺れるエクストリアの校章の前に陣取る私たちのところまで、終了を告げる合図が聞こえてきました。


「やったみたいね」


「そうですね」


 嬉しそうに手を合わせるシェリルとシャノンさんに混ざって私も手の平を向けました。

ルーナが活躍しないとどうも短くなってしまうのですが、

中の人たちがそうはさせじと動いているため中々難しいです。

翌日の二つの戦いはルーナをどうにか動かせるようにしたいです。

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