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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
少女誘拐編
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決着と

 僕とルーナが姉様のもとに転移すると、姉様の前に座っているニルヴィアナ姫が、とても驚いた様子で僕たちを見つめてきた。


「大丈夫だよ、ルーナ」


 この間会った時には、ニルヴィアナ姫はルーナを睨みつけていたようにも見えたので、ルーナが怖がるといけないと思っていたのだが、どうやら問題はなさそうだった。

 僕は握っていたルーナの手を放す。


「ありがとうございます、ルグリオ様」


 ルーナが微笑んでくれたので、僕も微笑み返してから姉様に尋ねる。


「姉様、何かしたの?」


 姉様は所在なさげに手を振った。


「別に特別なことは何もしていないわ。私はこうして手を叩いただけ。あなた達が来そうなタイミングでね」


 そう言うと、姉様は胸の前で手を叩いた。


「ひっ」


 ニルヴィアナ姫は、びくついて体を震わせている。


「そんなことより、目的の物が見つかったからここへ来たのでしょう?」


 そうだった。僕は収納していたリストを取り出すと、ニルヴィアナ姫に見せるように机の上に乗せる。


「これは犯人、ペルジュ・ボルナリエスが所持していたものです。内容は、あなたならご存じの事と思いますが、就学前くらいから就学後くらいまでの年齢の、そうですね、8歳から11歳までと思われる子供のリストです」


「そ、それがどうかなさいましたか」


 上ずった声で、ニルヴィアナ姫が先を促す。


「ペルジュはこのリストを元に、誘拐する子供たちを選んでいたようです」


 リストにはあちらこちらに標がつけられている。僕はニルヴィアナ姫を正面から見つめて言う。


「ニルヴィアナ姫。残念ですが、このリストからは指紋が検出されました。あなたが関係ないというのなら付着しているはずのない、あなたの指紋が」


 ニルヴィアナ姫が焦った様子で否定してくる。


「そ、そんなはずはありません。私はちゃんと手袋をして—―—」


「なるほど。手袋をしていたのだから、指紋など残っているはずがないと。そうおっしゃりたいのですか?」


 ニルヴィアナ姫は、自分の失言に気付いたようで、力なく肩を落とした。


「他に何かおっしゃりたいことはありますか。ニルヴィアナ・エストランテ王女」


「……いえ。ございません」





 ニルヴィアナ姫の処遇は子供たちへの援助、奉仕等、これ以上、子供達の未来を失うようなことがないようにさせることだった。もちろん、この対応については国内、及び近隣諸国からも批判の声が多く上がった。死刑にするべきだという意見が大多数だった。子を失った親からすれば当然のことだろう。

 確かに、ニルヴィアナ姫のリストが大いに関係しているところはある。しかし、ニルヴィアナ姫に依頼をされる以前から、ペルジュという男は既に取り返しのつかない、どうしようもない犯罪者だった。そして、そのペルジュは死んでいる。

 僕だって、未然に防いだとはいえ、ルーナを標的にされていたのだ。ペルジュに、そしてニルヴィアナ姫に対して怒りがないと言えば嘘になる。


「それでも、死刑にしてしまえば、もう何も残らない。失われた命が帰ってくるわけでもない。そして、失う痛みを知っている僕たちが、それを誰かに与えても、悲しみや怒りの連鎖は止められない」

 

そんな、僕の偽善者ぶった意見により、処遇は決定された。




 処遇が通達された後、僕は父様に聞いてみた。


「父様、僕は甘かったのでしょうか? この程度では、再び同じようなことが起こるかもしれません」


 死刑にはならないと思い込んだ人が、またこのような事件を起こさないという保証はない。やはり、けじめはつけるべきだっただろうか?


「たしかに甘かったかもしれないし、不安も残るかもしれない。再発を完全に抑制できるとは言い切れん。それでも、お前は自身の決定に未練を残してはならない。私たちは、国民の導き手でなくてはならないのだ。国民に不安があるのなら、それ以上の幸せを、何が起ころうともこの国に生まれてよかったと言い切ることのできる国を作り出せ。そしてもちろん、このようなことが二度と起こらないように、他人との繋がりを決して忘れるな。事件が人為的なものであるならば、同じ人の手によって、必ず、防ぐことはできるはずだ」


 そこで、父様は一端言葉を切った。


「と、まあ、偉そうなことを言ってはみたが、事件を防ぐことができなかったのは私も同じだ。人間がいる以上、このようなことを考えるなというのは無理な話だ。光があれば必ず影もできよう。私達には誰しも考え方があり、生き方がある。私たちにできるのは、せいぜい、その見本となることくらいだ。あとは、信じるだけだ」


 なんとなくだけれど、言いたいことは伝わったような気がした。


「とりあえず、事件は終結したということでいいのか?」


 この話は終わりとばかりに、父様は話題を変えた。


「はい。おそらくは」


「ならば、もう学院の休学は解いても良いな」


「はい。ルーナの入学には間に合って、それだけは良かったと思っています。不謹慎かもしれませんが」


 父様は教育機関の関係者を集めると、春からは学院を再開するというお触れを出した。




 その後、僕はルーナを尋ねた。


「ルーナ。僕だけど、今大丈夫かな?」


「はい。どうぞお入りください」


 ルーナは部屋にいるようだったので、失礼します、と部屋に入る。


「ルーナ。春からは学院だけれど、準備は出来ているかい?」


「はい。既に整えてあります」


 収納の魔法って便利だな。僕や姉様はこの魔法を知らなかったから、学院へは大荷物を持って行ったのに、ルーナは外からは手ぶらにみえる。


「入学式には、僕と姉様も出席するよ。保護者代理でね」


「ありがとうございます。お兄様とお姉様はお忙しいようで、来られないみたいでしたから」


「それは残念」


 事件も終結したのだし、またゆっくり話がしたいと思っていたのだけれど。近いうちに訪ねてみようかな。


「それから、寮のことだけれど」


「はい、大丈夫です。私もしっかり勉強と訓練をしましたから」


 入学時でも、大抵は二人部屋なのだが、成績の上位者は一人部屋を選んでも良いことになっている。もちろん、女子と男子に分れてはいるけれど、僕が心配しているのはもっと別の事だった。でも、きっとルーナなら大丈夫だろう。


「入学式が終わったら、次に会えるのは夏季休暇だね。僕も、ルーナに負けないようにしないといけないな」


 ルーナがいない間に、仕事は全部片づけて、休暇には色々なところに遊びに行こう。


「私も楽しみにしています」


 そう言って、ルーナは微笑んだ。

次回から、おそらく学園編に入ります。

視点は、ルーナになるかもしれませんが、わかりません。

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