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5年 vsルーラル

「ルグリオ、あなたは先に行ってなさい」


「姉様、それなら僕が」


「あなたがルーナの試合を見ないでどうするの。ここはお姉ちゃんに任せておきなさい」


「……無理はしないでね」


「分かっているわ」


 ルーラル魔術学校の先生から貴賓室へと案内されるルグリオに向かってウィンクをすると、セレンは背中を向けた。











 競技場はすでに満員でした。

 圧倒的多数のルーラル魔術学校の制服の中に、少しだけ、エクストリアのものが混ざっています。


「さて、皆さん」


 挨拶及び諸注意を終え、自陣へと引き返してきたところで、作り出された廃墟を背にして、私は皆の方へと振り返ります。


「今更聞くまでもないことだとは思いますけれど、準備は整っていますよね」


 アーシャモロマーナもサンティアナも、他の皆と同じように、先程の馬車での会話などなかったかのように気合十分の声を返してくれます。


「今日はこの一試合だけとはいえ、明日からの対戦の士気にも関わる大事なものだということは、十分に良く分かっていてくださっていると思います」


 まさか他校まで台など運ぶわけにもいきませんでしたから、半分ほどの人たちにとっては低い位置からになってしまって格好は付きませんけれど、各対戦の前の様式美のようなものですし、気にする必要はないでしょう。

 たとえ、下級生に身長で負けてはいても、そんなことは前から分かり切っていたことですし。そう、まったく問題などないのです。これっぽっちも。


「他の学校の選手が、どのように選抜され、どのような思いでこの対抗戦に臨んでいるのかは分かりませんけれど、少なくとも私たちは数多のエクストリア女子寮生の中から選抜され、同じように選抜されていた男子寮生を打ち破り、今、こうしてこの場に立っているのです」


 個々人の成績だけで選ぶのならば、この場に立っていてもおかしくはなかった生徒も何人もいることでしょう。

 もちろん、彼らの努力は対抗戦だけに向けられていたものではないのかもしれません。

 同情など、真剣に戦った相手である彼らに失礼に当たります。


「気負う必要は全くありませんけれど、その思いを背負って戦っているのだということは忘れないでください」


 ありがたくもここまで応援もしくは観戦に来てくださっている方、あるいはエクストリア学院では、今もほとんど全員が映し出される映像に声援を飛ばしてくださっていることでしょう。


「と、硬い話はこれくらいにして、とにかく、どんな状況になっても楽しむことを忘れないでください。収穫祭とは違いますけれど、私たち学生にとってはお祭りであることには変わりないのですから」


 懸念は色々とありますけれど、私はルグリオ様とセレン様を誰よりも信じています。


「先日も言いましたけれど、後ろには私がいるのですから、安心して、のびのびと、やりたいようにやってください。もちろん、ルールの範囲内で」


 少しの笑い声が聞こえてきます。どうやら皆さんそれほど緊張はしていないようです。


「では参りましょう。大丈夫です、私たちなら」


 元気の良い返事が返され、私は校章を設置します。

 同時に開始の合図が出され、アーシャたちが一斉に自陣を飛び出していきます。


「私たちも油断なく参りましょう」


 防衛陣の中でも、校章前にのこったシェリルとシャノンさんに告げると、おー、という返事が返されて、どうやら楽しめているようです。


「あの、ルーナ寮長はいつもこうして校章の前にいらっしゃいますけれど、よろしいのですか?」


「いいのよ、シャノン」


 私が何か言う前に、シェリルが返事をしていました。


「どこにお姫様を最前線に送り出す国があるっていうのよ」


 シャノンさんは物問いたげな表情を向けてきます。


「校章の安全はたしかに一番大事ですけれど、それに寮長が私たちの楽しみを優先してくださっているのは分かりますけれど、やっぱり攻めている方が楽しいんじゃありませんか?」


「そうなんですか? 私は二度ほど校章の撃破に向かったことはありましたけれど、これといってどちらが、と決まるわけでもなく、どちらも同様に楽しめていますよ」


「もちろん、ルーナが攻撃に回りたいというのなら誰も反対どころか大賛成だと思うけど、どうなの?」


 シェリルとシャノンさんの瞳が私を真っ直ぐ捉えます。


「私はどこかへ攻め込むよりも、こうして守りについている方が性に合っていると思っています。そうですね……、例えば、セレン様は攻撃に向かわれた方が向いていると思いませんか?」


「そんなこと私たちに分かるわけないじゃない」


 シェリルが呆れたように溜息をつきます。


「それでは、イングリッド先輩ならどうでしょう? シエスタ先輩なら? それに、アーシャやリアならどうでしょうか。上級生でなくとも、シャノンさんに近いところ、4年生ならば少しは想像もしやすいのではないですか」


「向いているっていうのと、どっちがやりたいかっていうのは別物だと思うけれど、まあ、何となく言いたいことは分かる」


 同級生の顔を思い浮かべたのか、シャノンさんもわかったように頷いてくれました。


「でも、私、ルーナ寮長が攻撃に出向かれるところも見てみたいです」


「そうですか。では―—」


 真上から、天井が崩れてくるような音が聞こえてきて、私たちはおしゃべりを一時中断します。


「どうやら正解だったようだな」


 降り立ったぼさぼさの短い金髪の男性は髪を一撫でして私たちの姿を確認すると、楽しそうな笑顔を浮かべられました。


「お久しぶりですね、エイフィス様」


 私が声をかけると、驚かれたようでしたけれど、こちらへ向けて形式的に頭を下げられました。


「覚えていてくれたとは、嬉しい限りだな」


 私はもう一人の方へと視線を向けます。


「そちらの方はどなたでしょうか」


 私が尋ねると、隣りの紺の髪に金の瞳の男性は、失礼しましたと慌てた様子で腰を折られました。


「同じく、ルーラル魔術学校4年のアルター・アドメランです」


「さて、さっそく始めようか」


 こちらの挨拶は聞かずに放たれた空気弾をシェリルが手で弾き飛ばします。


「もしかして、戦う相手には毎度言って回らなくちゃいけないのかな」


「そう簡単に、うちのお姫様は取らせませんよ」


 シャノンさんも瞳を燃やして、アルター様に指を突き付けています。

 私としては自分で戦っても構わなかったのですけれど、少なくとも誰か一人は校章の守りを疎かにせずにいるべきでしたし、二人が大層やる気なので一歩後ろに下がりました。


「よろしくお願いしますね」


「もちろん!」


「はいっ!」


 気合十分のお二人に任せて、結界を再構築、自身と校章を守るものだけに集中させました。

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