対抗戦に向けての練習
お祭りを盛り上げるための理由づけは、様々なところから持ってこられます。
例えば、大移動してきた魔物等の影響で食材を含む素材をいつもより安価で大量に仕入れることが出来た、ユニコーンの皆さんとの相互理解を深めるためにも活気づけよう、暗い話ばかりが聞こえる今日の雰囲気を一新させよう。
こじつけと言われればそれまでですけれど、コーストリナの人たちはお祭りごとが大好きなのですねといつも思わされます。
もちろん、今回の材料が何なのかは、今更語るまでもなく、春に差し迫った結婚式及び戴冠式です。
その収穫祭を目前に控え、私たち自身にとっては春の結婚式及び戴冠式とも相まって、今までの比ではないくらいに物凄く忙しいこの時期に、コーストリナの学生にとっては一大事ともいえる行事も差し迫ってきます。
エクストリア学院の生徒も、無論例外ではなく、収穫祭の準備と並行して対抗戦の準備にも余念がありません。
「通してもらうわよ、シュロス」
「許すわけないでしょう」
今日も学院にいる5年生で、お昼前に授業が終わった生徒で集まって、貸し切り状態の競技場を飛び回っています。
5年生以外の学年の選手、生徒は基本的にお昼を終えてからも授業がありますし、比較的自由とはいえ、私たちと比べるとやはり遅くなるのは否めません。
「相手は二人なんだから、人数的に隙ができるはずよ」
サンティアナの指揮の下、ロッテとラヴィーニャがそれぞれ反対方向から、私とシュロスが守っている仮の校章を挟撃せんと突撃してきます。
「ルーナ、覚悟!」
ロッテの掛け声とともに、地面がめくれ上がり、私を閉じ込めようとしてきます。
むざむざやられるわけにもいかないので、こちらからも同じようにして壁を形成していったため、真ん中辺りで厚くなった壁が出来上がります。
そうして視界が遮られたところで、その壁の真ん中を突き破ってサンティアナが私の前に躍り出てきます。
「これならどうかしら」
サンティアナの手に握られているのは、地面から加工して作ったと思われるフルーレ。
対抗戦において、武器の持ち込みは禁止されていますけれど、その場で加工して作成されたものに関しては制限はありません。
リィン先輩が使用されていた白銀の剣や、グリス様が使われていた炎の長剣、エミリア先輩が作成されていた手甲、ユルシュ様の鎧、はてはエニール様が使用されていた使い魔のようなものまで、自身の技術の範囲内であるのならば、それを披露するための場も兼ねていると言われる対抗戦では使用が認められています。
「はっ」
一歩で間合いを詰めてきたサンティアナのフルーレが眼前に迫ってきていて、私は手のひらに展開した障壁でそれを逸らすと、そのままの勢いでサンティアナの背中を押し飛ばします。
「貰ったわよ、ルーナ」
そうして私が半回転した直後のすきを狙って、いつの間にやら位置を交換して背中側から回り込んできていたラヴィーニャが手の先から魔力で出来た鎖を伸ばしてきます。
それは、まるで生きているかのように私の身体に巻き付こうとしてきます。しかし。
「甘いですよ、ラヴィーニャ」
私たちは王族として、こういった拘束、束縛系の魔法に関しては、おそらく、使う方としても、使われる方としても、人一倍仕込まれています。
転移の魔法があるとはいえ、魔法を妨害してくる例の手枷のようなものもありますし、私たちが捕まるわけにはいきません。私たちが捕らえられることは、すなわち、国家崩壊につながりますから。
それらに対抗するためには自身がその魔法について最も良く知っていなくてはなりません。リリス先生にもよく言って聞かされています。
束縛される前に滑るようにしてその輪の中から逃れた私は、逆にその鎖を引っ張ると、まさか逃れられるとは思っていなかったのか、ほとんど抵抗なく引き寄せられたラヴィーニャの身体を影で覆い尽くします。
「ラヴィーニャ!」
態勢を立て直したサンティアナが声を上げて、私の下の地面を崩落させます。
「サンティアナ、心配するのは悪いことではありませんけれど、相手に攻撃を仕掛ける際にまで声を上げてしまっては意味がありませんよ」
崩落させられた地面の縁に橋のように掛けた砂の上に立つと、振り向いて、サンティアナの前に飛びおります。
「くっ!」
サンティアナが反射的に後ろへ下がるので、足元に少し段差をつけておけば、それほど大掛かりなことをせずとも尻もちをつかせる程度のことは出来ます。
すかさず、首元へと、先程サンティアナが使用していた物と同様の剣を突き立てると、サンティアナは手を挙げて首を横に振りました。
「参ったわ」
シュロスとロッテの方も決着したようで、地面から首だけを出してすっぽりと埋まっているロッテが確認できました。
「少し休憩にしましょうか」
埋まっていたロッテを掘り出すと、浄化の魔法をかけた後、皆で校章を囲うように円になって座ります。
「これで5戦全敗ね……」
座って競技場の戦跡を修復しながら反省会も兼ねた作戦会議を行います。
「うちの守りが堅いのはいいことだと思うけど、私たちはどうしたらいいのかしら?」
疲れたようにサンティアナが地面に小さく先程の戦いを再現させます。
「やはり、二人の連携の問題ではないでしょうか? こればかりは練習量の問題なので、どうと言えることはありませんけれど」
ラヴィーニャとサンティアナが顔を見合わせます。
「決めてしまっては展開を予想されてしまいますけれど、ある程度、例えばその試合の中だけででも役割を分担してみてはいかがですか?」
「つまり、私たちが同時に行くのではなく、どちらかが補助に回るってことね」
そう言うサンティアナに頷きます。
「先程の場合は数的有利の状況でしたので物量で押す作戦も悪くはなかったと思いますけれど、数的同数、もしくは数的不利の状況では役割がはっきりしている方が思考を明確に出来て良いかと思います」
「そうかもね」
「後は、囮に使っても良かったかも。サンティアナがルーナをおびき出す……のは少し難しいかしれないけど、場所を離すのは良い手かなって」
ラヴィーニャの意見に、サンティアナが首をひねります。
「そう簡単に釣り出せるかしら?」
「そこは私の腕次第」
そこまで話すと、私はシュロスとロッテの方へと振り向きます。
「シュロス、ロッテと戦った感じはどうでしたか?」
シュロスは右側にかかっていた髪を指で払うと、顔を上げました。
「ロッテは少し焦り過ぎだったかしら。本番では違うのかもしれないけれど、今回は目の前でルーナたち3人が戦っていたのに対して、自分の前には私だけだったでしょう。それで少し焦りが出たみたい」
ロッテも分かっているのか、水の球を一つ自分の周りに浮かべて、ふよふよとゆっくり漂わせています。
少し休憩をとって、もう一戦終えると、授業を終えた下級生たちも集まり始めて一緒に練習に取り組みました。