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お手紙

「ルーナ、手紙を書いているのかい」


 その日、少しばかり時間が空いていたので手紙を認めていると、ルグリオ様がお声をかけてくださいました。


「ええ。アースヘルムにいらっしゃるお兄様とミリエス様、それからマナリア国にいらっしゃるお姉様とローゼス様に」


 このような早い時期から書き始めるのにはいくつか理由はありますけれど、自身の体験が一番大きいのでしょうか。

 お兄様とミリエス様の結婚式はまさに急に、いえ、お兄様たちからすれば急ではなかったのかもしれませんけれど、少なくとも私にとっては急な話で、もう少し準備するための期間などいただけるものだと思っていました。

 もちろん、こちらでの、学院の皆との収穫祭の準備が大切でなかったわけでは決してなく、重要度も、大切さも、比べることは出来ないのですけれど。

 また、その日が近付けば、やはり私自身が落ち着かなくなってしまうとも予想できるので、こうして焦らずにいられるうちに認めてしまおうと考えているのだということもあります。

 それなりで済ませたり、やっつけで書いてしまうわけにはいきません。焦って書くなどもってのほかです。

 正式な招待状ですから、転移してさっと渡してくるなど出来るはずもありません。

 お兄様たちもお忙しいことでしょうし、お世継ぎのこともあるでしょうから、そう簡単にお越しくださるとも思えないのですけれど、お越しくださらないとも思っていません。


「それは絶対お見えになるよ。可愛い妹の結婚式なんだからね」


 それからもちろん、お父様とお母様にもお渡ししなくてはなりません。

 ……ああ、今からお父様のお顔がありありと目に浮かびます。お兄様の結婚式の際にはそれほどでもなかったのですけれど、お姉様の結婚式の際には、それはもう、お父様の名誉と威厳のためにも詳しく語ることは出来ませんけれど。

 思い出してみれば、お兄様とミリエス様のときの結婚式でのサンダリー帝国皇帝様の様子ととてもよく似ていて、ああ、あれが父親なのですねと思ったことがありました。

 今のところ、セレン様は結婚なさるような気がないようですので、ヴァスティン様はそのようなお姿を見せてはいらっしゃいませんけれど。


「問題はお母様が転移の魔法をご存知かどうかというところです……」


 お母様がアースヘルムのお城にいてくだされば、お兄様と一緒に渡すことができるため問題ないのですけれど、もし、そうではなく、どこかへお出になられていた場合には探すのが大変です。

 その場合には、大変失礼とは思うのですけれど、転移してお母様のところへ行くのが一番早く正確であると考えられます。しかし、コーストリナにいるはずの娘が急に目の前に現れたら少なからず驚かせてしまうかもしれません。


「それなら大丈夫だよ。ルーナがこっちに初めて来た冬の終わりから春ごろにかけて、アースヘルムのルーナのご両親に挨拶にいっただろう」


 もちろん忘れるはずもなく、ちゃんと覚えています。あの時はまだミカエラ様とも知り合っていませんでしたし、いろいろと大変でしたから。


「それで、その時にも言ったかもしれないけれど、僕はアリーシャ様には転移の魔法のことはお話ししているから」


 ルグリオ様がミカエラ様のところへお訪ねになっていることを教えてくださったのはお母様でした。

 少し考えれば分かることでしたけれど、ミカエラ様のところ、孤児院のずっと先まで歩いて行けるはずもありませんから、当然、近くまでは転移で行かれたのでしょう。そして、それをご存知だったお母様がお見送りされていらっしゃらないはずもありませんでした。


「分かりました。ありがとうございます、ルグリオ様」


 一文字一文字心を込めて、感謝の念を抱きながら丁寧に手紙を認めます。

 最後に自分の名前を署名して、コーストリナの印鑑を押し、二つに折りたたんで封筒に入れ、コーストリナの紋章の封をします。

 お母様とお父様、お兄様とミリエス様、そしてお姉様とローゼス様の分、計6通分の手紙を同様に書き終えると、ルグリオ様に文官様のところへと連れて行っていただきました。


「畏まりました。こちらをお届けすればよろしいのですね」


「すみませんけれど、よろしくお願いできますでしょうか」


 頭を下げると、すぐに、そのようなことをなさる必要はございませんと膝をつかれました。


「ルーナ様、感謝など勿体のうございます。我らの使命は、不遜ではありますが、姫様方の手となり足となることですから」


 フェリスなど、アースヘルムのお城にいる者たちだったなら、ずっと小さいころから一緒にいるので、あまりこういった風に畏まらずに話すことも出来るのですけれど、コーストリナのお城の方々にはどうもそのように接することができません。

 自分で意識しないうちに、嫌われることを恐れているのでしょうか。それこそ失礼なことだというのに。


「分かりました。ではよろしくお願いしますね」


 なんにせよ、自分の倍以上も年上の方に敬いの心を持つことはむしろ当然のことだと納得させ、口調と態度は少しばかりの軟化を試みて、微笑みながら手紙を手渡しました。


「拝命致しました」


 恭しく差し出された手で手紙を受け取られた文官の方たちは、その場でくるりと踵を返されました。  

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