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最後の試験

 いよいよ今日からの試験期間で5年生の日程も約半分が終了します。

 最後の試験、最後の夏季休暇といった具合に、何にでも、最後の、とつくようになってきて、少しの寂しさを感じさせます。


「いや、はっきり言って、最後の試験は全然寂しくないから」


 思考を読んだのか、表情を読んだのか、或いはその両方か、隣に座って先生が入って来るのを待っているアーシャがため息をついています。


「5年生の試験は今までよりも教科数も少ないですし、あっという間に終わりますよ」


 こうしてアーシャと一緒にクラス単位で受けるテストもほとんどなく、それぞれの選択した科目、教科によっては、短かったり、もしくは長かったりと期間自体もバラバラです。

 今日の試験は筆記のみですけれど、実技の試験ももちろんあって、屋外でも当然行われます。


「そうだね。……これが終われば夏季休暇。その前の試験休みにはルーナたちとプールに行って、対抗戦の特訓をして、収穫祭の打ち合わせで着せ替え人形を……」


 アーシャが何事かぶつぶつとつぶやきながら教科書に没頭し始めたため、私も前を向いて、一度大きく伸びをすると、丁度リリス先生が前の扉から入っていらっしゃるところでした。


「それではこれからHRを始めます。今日から試験期間、皆さんにとっては最後の試験になるわけです。最後まで気を抜かず、最良の結果を目指してください」


 出席を確認すると、小冊子くらいの厚さはあろう試験用紙を配布されます。厚さを目にした周りから、驚きと、より大きなため息が聞こえてきます。

 リリス先生が腕を一振りされると、封をされていた紐が解かれて、私たちが座っているところまで綺麗に飛んできます。もちろん、その過程で試験用紙がばらけるようなことは一切ありません。


「行き渡りましたか? それでは始めてください」


 一斉に用紙をめくる音が聞こえてきます。私も淀みなくペンを走らせて、つらつらと解答を書き連ねます。

 5年生の試験は今までの4年生までの総まとめのような試験で、この試験用紙の厚さも納得のいくものでした。

 もちろん、内容はというよりも難易度は比べるまでもなく、この日の試験科目である一般科目でも、量もそうでしたけれど、1年生のころに習った内容でも難解な造りにその問題を変えています。

 とはいえ、そこは学院で習う程度の問題です。さして意地の悪い答えが用意されているはずもなく、全て問題なく溶ける程度のものでした。


「これでよし……」


 解き終えて顔を上げると、終了までにはまだ間があります。見直しを終えると、私は目を瞑って姿勢を正しました。

 周りからは未だペンを走らせる音が聞こえてきています。

 アーシャたちは寂しく感じるようなことはないと言っていましたけれど、こうして実際に終えてみると、やりきった達成感とは別の感情も沸き上がってきます。

 それが試験に対するものなのか、学院生活の終わりが確実に見えてきていることによるものなのかどうかは分かりませんけれど、やはり少しは寂しいと感じるものだったようです。

 

 天井に目を向けて、節目の数を数えているとしばらくして試験は終了しました。






 1年生、2年生のときには手こずった運動科目の試験も、今回は思いのほか楽に終えることが出来ました。

 2年生のころから毎朝走り込みをしていた成果なのか、それとも3年生、4年生と向かった実習の成果だったのか分かりませんけれど、3年生、4年生でなかった分、余計に自身の成長を感じることが出来ました。

 もちろん、結果は下から数えた方が早かったのですけれど。というよりも……いえ、これ以上はさらに落ち込むことになるだけなのですので止めておきます。

 他の科目とは違い、結果が返されずとも、自身の立ち位置をある程度測れてしまうところが良いところでもあり、同時に落ち込む原因の一つでもあります。


「いや、でもルーナは大分頑張ってたよね」


「そうそう。1年生の頃みたいに終わってから倒れ込むようなこともなかったし」


 ほとんど毎日の走り込みを欠かさなかったとはいえ、走り込みをしていたのは私だけではありませんでしたし、実習で外に出ていた生徒、特に冒険者を志望しているような多数の生徒にはやはり体力的には敵いません。

 

「明日からは実技ね」


「座学よりは楽しいからまだ良い方ね」


「それにしても……」


「ええ」


 5年生は総まとめのため、授業自体は少ないですけれど、試験は同じどころか倍ほどもあります。

 必然、かかる時間も長くなり、一日のほとんどを拘束されることになります。


「どうする? これから演習場へいって、最終確認でもする?」


「そうね、そうしましょう」


 そんな声がちらほらと聞こえてきます。


「ルーナも行くよね?」


 アーシャに声をかけられて、私は頷きます。


「もちろんです」


 運動科目の試験を終えたばかりでしたから、丁度いいことに運動着ですし、このまま向かうことにしましょう。

 陽は傾き始めていましたけれど、すぐにお風呂へは向かわず、浄化の魔法をかけると、わたしたちはぞろぞろと隣の演習場へと向かいました。





「終わった……」


 実技の試験が終了すると、取り敢えず競技場へと戻ってきた私たちはその場に座り込み、それから仰向けに倒れ込むと、黙って空を見上げます。

 実技試験は体力的、魔力的には厳しいものがありますけれど、試験自体は短く、お昼の前には終了します。

 筆記の試験とは違い、見直し等するわけでもなく、翌日以降に試験があるわけでもないので、皆、何となくその場にとどまっています。


「お疲れー」


「お疲れ様ー」


 互いを労うそんな声が聞こえてきます。


「じゃあ、打ち上げも兼ねて、皆でプールへ行きましょう」


 アーシャの一言には皆賛成のようで、声を揃えて返事をしています。

 学院のプールを使用することに関しては、先生方の許可も貰っているのだそうです。


「じゃあ行こう、ルーナ」


「ええ」


 元気になった皆と一緒に、学院指定のものではありますけれど、水着等を取りに戻ってから、眩しく輝く太陽の下、私たちはプールへ向かいました。

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