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試験勉強―—雑談

 夏季休暇を目前に控え、気候も涼しいというよりは暑さがはっきりするころになると、最後の試験とでも言いましょうか、学院で行われる最後の試験である5年生の前期試験が行われます。

 最後の試験というのは比喩ではなく、5年生は卒業式が行われるためか、夏季休暇の後の後期の日程における決まった試験というものがありません。

 入学するための試験はあるのに卒業するために資格はいらないのか、と思われる方もいるそうですけれど、試験とはいわば、学院側が提示してくれる自身の実力を知るための指標ともいえるべきものであるため、卒業するときにはすでにほとんどの生徒が行く先を決めている状況でおこなう必要性もないためではないかと推測されます。

 もちろん、卒業するギリギリになっても進路が決まっていない人も、毎回、少なからずいるそうなのですけれど、そういう方も卒業時にはきちんと決定されているというのですから、きっちりしているのだなあと感心させられます。

 私の場合は卒業する前から、というよりも入学時から、もっと言えば生まれた時あるいは生まれる前から進路は決定されていますし、自由ではないという意見もある一方、羨ましがられる場合も多々あります。どちらが多数派なのかは言うまでもないことですけれど。


「アーシャ、メル、しっかりしてください。これが最後の試験なのですよ」


 そんなわけで、私たちは夏真っ盛りの暑さの女子寮で、ホールにみんなで集まって勉強していました。


「あーつーいー」


「し、死ぬ……」


 周りからは、同じように集まっている皆から怨嗟の声が聞こえてきます。

 夏季休暇前の試験前の時期にはいつもですけれど、こうして人が集まっていると、余計に暑さを感じさせます。


「仕方がないですね」


 あまり暑くても勉強に身が入らないというのは事実です。

 私は立ち上がるとホール全体を見回します。


「これでどうでしょうか。少しはやる気になりましたか?」


 アーシャたちは目を二度、三度、瞬かせ、すくりと居住まいを正します。


「暑くない……?」


「本当」


 そもそも、コーストリナの夏はそれほど暑すぎるということもないはずなので、単に気持ちの問題だともいえます。


「これで大丈夫ですか?」


 ここで試験に落ちでもしたら、ただでさえ忙しい、もしくは学生最後の暇なともいえる、夏季休暇に、学院に残って追試を受けなくてはいけませんからね。

 私たちの代では、女子寮からは追試になっているという方は、奇跡的ということもないのでしょうが、今まで出てはいません。


「最後までしっかりしましょうね」


 少しはやる気を取り戻したらしい皆さんは、もちろん専攻している科目も違いますけれど、分かるところは教え合って試験に臨みます。


「そういえば、ルーナは、というよりも、王族の方の結婚式ってどなたを呼ばれるの?」


 結婚式場、お城の教会なのですけれど、入ることのできる人数には限りがありますから、当然ですけれど、国民全員というわけにはいきません。

 おそらくは町中で、アースヘルムと同じようにお祭り騒ぎになるのではないかと予想されますけれど、式それ自体に参加される方はそれほど多いわけではありません。


「おそらくは、私の家族とルグリオ様のご家族、身内だけで挙式した後に、パレードではないですけれど、街の方にもお披露目に行くはずです」


 先日見せていただいた式次第にもそのように書かれていましたし。


「じゃあ、わたしたちもルーナの花嫁姿を見られるのね」


「いいなあ、花嫁衣裳」


 やはり花嫁衣装はあこがれの対象であるみたいで、皆さん、目をとろんとされています。


「シュロスは結婚相手はもう決まっているんじゃなかったの?」


「ええ。彼はおそらく今度の対抗戦にも出てくるはずだけれど……まだ、卒業してすぐ結婚というわけではないから」


 他にも、14、15歳にもなると、結婚相手が決まっている生徒も少なくはなくなっていて、学院内外に恋人がいるという方も大分増えてきています。


「やっぱり、ルーナの結婚、というよりも、王族の方の結婚が早いのは、少しでも早くお世継ぎを、ということなのかしら?」


 どうなのでしょうね。私には詳しいことは分かりませんけれど、国家の行く末を案じるのならば、それも一理あるのかもしれません。


「やはり、王様、王妃様も早く自由になりたいのではないでしょうか」


 一国の王様がおいそれと出かける訳にも行かないので、例えば私のお母様と、アルメリア様も、旧知の間柄のようですけれど、位に就かれてからはなかなか会うことが出来ていないのだとおっしゃっていましたし。

 お母様はすでにミリエス様に位をゆずられていらっしゃいますけれど、アルメリア様は未だ王妃の座に就かれていらっしゃるため、転移の魔法があるとはいえ、帰郷もされてはいらっしゃらないはずです。


「そうよね。王様とか王妃様ってある意味一番自由だけど、一番不自由ですものね」


「そう考えると、王族の方って、羨ましいけれど、同時に王族じゃなくてよかったとも思ってしまうわよね」


 もちろん、外出は出来るのでしょうけれど、今のように、今でもそれほど自由にというわけではありませんけれど、気軽に出かけることは控えた方が良さそうです。

 そう考えると、今更意味のない仮定ではありますけれど、セレン様が女王の座に就かれていた場合、そういった意味で、周りの、特にルードヴィック騎士団長様などの胃が心配になるところではありました。

 ルグリオ様はセレン様が女王の座に就けば良いと考えていらしたこともあったようですけれど、今はそんなこと考えていないよと、先日笑い話になさっていらっしゃいました。


「ところで、ここなんだけれど……」


 リアたちの質問にも答えつつ、程よい雑談も交わしながらノートや書物を広げていると、トゥルエル様がお昼の支度が出来たわよ、と呼びに来てくださいました。


「本当にあんたたちはよく勉強していたわね」


 歴代の方々でも、個々がお部屋や図書館で取り組んでいることはあっても、私たちのように皆で集まって、というのはほとんどなかったのだと言います。


「いいかい、私にも夏季休暇はあるんだからね。最後までしっかりと締めて、私の夏季休暇を減らすんじゃないよ」


 そう発破をかけられて、私たちは暑さを忘れるくらい、筆記と、それから身体を動かしに演習場の方へも足を伸ばしたりしました。

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