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災難でした……

「それでは、今回の女子寮の勝利を祝して」


 アーシャの号令の下、食堂、そしておそらくはホールに集まった女子寮生の手に持ったグラス、コップが掲げられます。

 もちろん、私たちは未だ学生という身分ですので、飲酒などもってのほかですから、中身はアルコール類ではないのですけれど。

 綺麗に揃ったわけではありませんけれど、乾杯の音頭と共に、キン、という甲高い音が聞こえてきました。


「ハメを外し過ぎないようにしなさいよ」


 一応、シュロスもそう声をかけてくれてはいるのですけれど、どこまで聞いていてもらえることやらわかいません。


「それほど気張らなくても大丈夫ですよ、シュロス。明日はお休みですし、倒れてしまわれた方は私―—」


 私が介抱してさしあげるつもりです、と言おうと思っていたところ、横からロマーナに口を塞がれます。


「迂闊なことは口走るもんじゃないわよ、ルーナ」


 見れば、サンティアナもラヴィーニャも、同意とばかりに首を縦に振っています。


「ただでさえ、この騒ぎっぷりなのに、いえ、それ自体は別にいいのだけれど、さらに馬鹿な真似をしでかすような輩を増やすような発言は控えるようにしてよね」


「ルーナがそんなこと言ったら、余計に加速するじゃない」


 そうでしょうか。私自身はそのようには思っていないのですけれど、周りの皆が真剣に頷くので、私はすごすごと引き下がって、元の椅子へと戻りました。


「ルーナはもう少し自分の影響力を考えなさい」


 シュロスが子供に言い聞かせるような口調で、いかに私の発言、行動に皆が影響されるのかを滔々と語り出しました。

 私はそれを聞きながら、ぼんやりと食堂を眺めます。

 実際に出ていた生徒も、残念ながら出られなかった生徒も、誰もがこのひと時を楽しんでいて、其処彼処からお喋りと笑い声が絶えることはありません。

 1年生の時のことを思い返せば、きっと、負けていたのだとしても盛り上がりはしたのでしょうけれど、やはり、空元気といいますか、無理している感じが出る生徒がいたのは否めなかったと思います。

 こちらが必要ないと言っても、出てくれた後輩は気にしたことでしょうし、男子寮生にも同じことは言えるのですけれど、せっかく、今までにない大人数で一緒に出られたのですから、本戦も一緒に出られるのはとても嬉しく思えます。

 学院の授業や、休みの日に誘っていただいて、試合をしたことも少なくはありませんでしたけれど、やはり、本戦に一緒のチームで戦うというのは―—


「ひゃんっ」


 不意にわき腹辺りをつつかれて、思わず声が出てしまったので、慌てて口を押えます。


「何をするんですか、シュロス」


 ロッテやリアはとても楽しそうな表情で、こちらを見つめていましたし、よくよく見れば、何だか食堂中の視線を集めているような気もしないでもありません。


「ねえ、ルーナ」


「な、なんでしょうか」


 しなを作ったような声で語り掛けられ、得体のしれない不安に襲われた私は、若干椅子を引いて、シュロスから距離をとります。


「私の話を聞いているのかしら」


「あの、シュロス。もしかして、酔っぱらっているのですか」


 じっくり見てみると、どうやら酔っぱらってはいないようです。会場にはお酒もありませんし、当然ですけれど。


「話しを聞くときはその人の顔を見るように言われているでしょ」


 聞いてはいましたし、内容も理解しています。けれど、それでこの場が収まるようなら、わざわざ言ったりはしないでしょう。


「まあ、こんな大勢の前でルーナの恥ずかしがる顔を見るのも……それはそれで一興ね」


 舌なめずりでもしそうな表情の、実際にはそんなこと絶対にしないでしょうけれど、シュロスの手が私の肩にかけられたところで、リアが待ったをかけてくれます。


「ちょっと待って、シュロス」


 助けてくれるのかと思っていたのですけれど、どうやら甘い考えだったようです。


「ルーナに悪戯するなら、お部屋に持ち帰ってからにしようよ」


「ここで始めるとトゥルエル様にも怒られるかもしれないし」


 ロッテもロマーナも私を解放してくれる気はなさそうです。


「メルっ、助けてください」


 少しばかりずるをして、拘束から逃れた私は、メルたちがいる方へと逃げ出します。


「ルーナ、大丈夫だよ」


 被捕食者になったような気分だったのですけれど、どうやら追って来られてはいないようで、メルがよしよしと優しく背中を叩いてくれます。


「ルーナ。大体事情は察せるけど、迂闊な発言には気を付けてね」


 メルも私のことを隙だらけだと思っているのでしょうか。

 そう思って、顔を上げてメルを見上げると、若干、気まずそうに顔を逸らされました。


「メル……?」


 メルは大丈夫大丈夫と言いながら深呼吸をしています。


「ふぅ……。あぁ、ごめん。ちょっと落ち着いていただけだから気にしないで。……きっと皆、勝利に浮かれているだけだから、少しは大目に見てあげてよ」


 メルの後方、私の前方ではアーシャやシズクたちと、シュロスたちが何か牽制し合っています。


「ほら、いつまでもここで縮こまってないで。一応、でもないけど、ルーナは主役なんだからね」


 主役はどちらかと言えば男子寮側の校章を破壊したアーシャたちだと思っていたのですけれど、メルに手を牽かれて、隅の方へと行ったアーシャ達とは別の方向へ引っ張って行かれました。


「大丈夫、ルーナ?」


 少し皺が出来ていた部屋着のワンピースを引っ張って形を整えます。


「ありがとうございます。助かりました、メル」


 メルの方へ微笑みかけると、メルは若干頬を赤らめて、斜めを向いてしまいました。メルと同じ組の短い綺麗な金髪をしているオーリアがメルの肩に手を置いて、何事かメルと話しています。私の方へちらりと視線を向けるので、おそらく私のことを話しているのだろうと予想は出来るのですけれど、近くに私がいるのにも関わらず、声を潜めて話しているということは、聞いても教えてくれないのでしょう。


「メルも大変ね」


「まあ、メルは大丈夫だと思うけど」


 同じように近くにいた、やはりメルと同じ組のサナがオーリアの意見に同意して頷いています。短めの薄紫のポニーテールを揺らしながら私をじっくり眺めると、まあ、皆の気持ちもわからないでもないけれど、とつぶやいています。


「それで、試合はどうだった」


「私たちは結局外から見ているしかできなかったけれど、もちろんそれはそれで盛り上がって楽しんではいたけれど」


 ねー、と顔を見合わせて笑い合っています。

 私も微笑むと、感想と思ったことを口にします。


「やっぱり、試合、といいますか、対抗戦には出たかったですよね」


 オーリアとサナ、それにメルたちは顔を見合わせると、そりゃね、と頷きます。


「でしたら、本戦のようにとはいかないかもしれませんけれど、今度の休みにでも、もちろん明日でも構わないのですけれど、競技場を借りて私たちだけででもやりませんか」


「そう言えば、今朝、そんなこと言ってたね」


「もちろん、私たちとしては願ったりかなったりだけど……」


 本当に? と私の顔を覗き込んできます。


「ええ。多分、明日辺りではお暇をいただけると思うので」


 ルグリオ様ではなく、私が処理しなくてはならない仕事というのも出てきてはいるのですけれど、多分大丈夫でしょう。


「じゃあ、私たちも」


「私もー」


 身体が持つ限りは構いませんよと約束をして、結局、皆に抱き着かれたりしながら祝勝会を過ごしました。


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