5年生学内選抜戦 3
戻ってきてくれたリアと、ロッテが視線を交わします。
「それじゃあ、私がシキとやるから」
リアが先に口を開きます。ロッテの方にも反対する様子は見受けられません。
「そういう訳だから、ルーナとやりたければまずは私を倒すことね」
「女性からの申し出を断るわけにはいきませんね」
シキさんは少し残念そうに校章を見つめた後、リアの方へと進んでゆきます。
「リアさんの相手をしている間に他の誰かが獲ってしまいそうですね」
実力的にはシキさんの方に分がありますけれど、それはあくまでも試験、筆記や実技でのことで、演習ではなく、実践といってもよいのでしょうか、このような形で顔を合わせることは今までになかったと思ったので、どちらが確実に勝つとは言い切ることは出来ません。
「もう私に勝ったつもりでいるなんて、随分、余裕じゃない」
シキさんは、失礼しましたと頭を下げられました。
「そうですね、女性と相対しているというのに、他の方の事を考えるのは失礼でしたね」
「ふん、軽口を叩いていられるのも今のうちだけよ」
普段は勢いに任せているようにみえるリアですけれど、一応、選抜戦だということは考えているようで、自分と、そして他の人が戦いやすいようにと、上手く誘導しながら、少しづつ、校章から離れるように移動していきます。
「じゃあ、私たちも始めましょうか」
ロッテは一度男子寮の方角へ視線を向けます。遠くの方、男子寮の方からは白い煙が立ち上がっているのが見えます。
「シキは上手く乗せられたみたいだけど、俺の方は誘いに乗ったりはしないからな」
「別にどこで戦おうと本当は構わないのよ。私たちは皆、ルーナを信頼しているから。校章に危険が及ぶことはないってね」
私の隣でアクセリナさんが同意するように声を上げます。
「そうです。私とロッテ先輩がここにいるのも、校章ではなく、ルーナ先輩を守るためですからね」
その役目を任されていることが嬉しい様子のアクセリナさんは、興奮した様子で鼻を鳴らすと、誇らしげに胸を張ります。
「ロッテ」
「分かってるわよ、ルーナ」
私の言葉の先を読んだロッテが言葉を遮ります。
「そういう意味じゃないってことは、ルーナだって分かっているでしょう?」
ここは学院内ですし、誰かに守ってもらわなくてはならないほど、自身が弱いとも思っていません。むしろ、学生の中では一番であるつもりです。うぬぼれるつもりはありませんけれど、自負はあります。
「ただ、私たちの気持ちの問題だから、そういうことにしておいてくれないかしら。それに、ルーナが後ろにいるってわかっている方が、こう言ってしまっては元も子もないけど、私たちも安心して伸び伸びできるし」
「分かっていますよ。私の役目は最後の砦なのだということは」
私がいるというだけで皆が伸び伸びできるというのなら、喜んでその役目を引き受けます。
「うん。じゃあ、よろしく」
ロッテが振り返ってモノークさんの正面に立ちふさがります。
「待たせたわね」
「それほどでもないさ。早速始めよう。シキも言ってたけど、もたもたしてると、他の奴にいいところをとられちまうからな」
言うが早いか、モノークさんから、白い稲妻が地面を這うようにしてこちらへ向かってきます。
ロッテは障壁を踏み台にして、私たちへの稲妻の親交を防ぎつつ、横へ飛び、地面を強く踏みしめると、真っ直ぐモノークさんへと突っ込んでいきます。
「あまい」
当然のように展開されていた障壁を全て砕くことが出来ずに、ロッテの拳がモノークさんの直前で止められ、ロッテは舌打ちを漏らすと、顔を歪めて後ろへ飛び退ります。
そのロッテを追いかけるように、壁のように隆起した地面がモノークさんの姿をロッテの視界から完全に消し去りながら、ロッテの方へと迫っていきます。
「このっ」
ロッテも下がってばかりでは後手後手だと思ったようで、足を止めて踏ん張りを効かせて、正面から、迫ってくる壁を受け止めました。
「面白い」
しかし、力比べではモノークさんの方に分があるようで、ロッテはじりじりと地面に足を擦る痕を残しながら後退します。
とうとう、茂みの中にまで入り込んでしまい、そのまま遠くへ行くのかと思ったところで、ロッテが一本の太い木に足をかけて、それ以上の後退を押しとどめます。
「この勝負じゃ分が悪いわね」
そうロッテが呟いたところで、横から次々に水球が飛んできて、土の壁を壊しにかかっています。
「お二人で楽しんでいないでくださいよ。私もいるんですからね」
さすがにご自身は障壁で守られているようで、モノークさん自身へ向かってくる攻撃は叩き落とされてしまっていますけれど、壁をさらに守っているよなことはされていないようです。
「ありがと、アクセリナ」
ロッテが両手を重ね合わせると、横からの衝撃で若干のひびが入った壁が、崩壊していきます。
「でも、私の方はいいから、あっちの方をよろしくね」
ロッテが空気弾で牽制しつつ、距離をとり、にらみ合っているので、おそらくは心配ないでしょうと思いつつ、私たちは新たなお客さんをお迎えしました。
「レヴィに手間取ったけど、ようやくたどり着いたよ」
「メルヴィン」
姿を見せられた金髪の男子生徒にアクセリナさんが声をかけられます。
「やあ、アクセリナ。やっぱり君は後ろに残っていたんだね。いや、ここに来るまでに会わなかったからさ」
爽やかそうな笑顔を浮かべるメルヴィンさんを無視しつつ、アクセリナさんは私の方を振り向きます。
「ルーナ寮長、彼の相手は私がしますね」
本当ならば、相手にするのではなく、迎撃に専念して欲しかったところではありますけれど、それでは不利は否めませんし、仕方ないでしょう。
「後ろは気にしなくて大丈夫ですよ」
「はいっ。ありがとうございます」
さて、私もそろそろ気合を入れましょう。
私は手始めに、いつものように結界を作り出して、私と、それから校章を覆いました。