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お花摘みとそれに伴う若干の不安

 副寮長に関しては誰かを選ばなくてはならないという規定は特にないようでしたので、万が一、私に何か不調があった場合に一番最初に対応できるであろうアーシャにお頼みしています。実力、成績的にも問題はありません。


「もちろん、任せといて」


 アーシャはそう二つ返事で引き受けてくれました。

 もちろん、一方が風邪などひいてしまった場合に、同じ部屋だと一緒になって両方とも倒れてしまうという危険性も含んでいることは事実ですけれど、シンシア先輩もシエスタ先輩と同じ部屋でいらっしゃいましたし、それほど気にかける必要もないのではと思っています。

 最悪、治癒の魔法で強引に直してしまうという方法もとれなくはないので、そう言った不調を一番に知ることが出来るということも大きいでしょう。本人、本体の抵抗力が弱まってしまう可能性があるので、乱用はあまり好ましくないとされてはいますけれど。




 入学とそれに伴うドタバタもひと段落するころになって、とある休日、いつものように私が早朝の走り込みとヴァイオリンの練習を終えて戻ってくると、朝早くにも関わらず、もう起き出している4年生がいました。


「あ、ルーナ寮長。早いんですね」


「私はいつもこのくらいに起きていますよ。本来ならばアーシャたちも一緒にいるところですけれど、今は出ている最中ですので」


 紺色の短髪を揺らしながら、大きく背伸びをするシャノンさんに微笑みかけます。


「私たちはまだ学院の実習にしか出てないですけど……、やっぱり5年生にもなると大変なんですね」


 学院の授業としての実習も大変ですけれど、皆で分担しての作業も行うことができた実習とは違い、もちろん、組になって出ているところもありますけれど、基本的には個人でのこととなり、人員もより細分化され、構成人数が少なくなることが多いため、普通、一人一人の負担は増すことになります。

 冒険者などは、通常、組になって動くことが多いようですけれど、その他の職、例えば組合員などは、その職場で働いている人自体は多くても、実際の作業などは一人ですることが多いため、志望場所によっては重なることも少なくなかったようですけれど、一人で向かった人も少なからずいらっしゃいました。


「そのようですね。おそらく、皆、そろそろ一度戻ってくることとは思いますけれど」


 シャノンさんは気がついたように、ああ、と目を丸くしました。


「そろそろ、対抗戦ですもんね」


 シャノンさんは今回も出場するようで、思いをはせるように目を輝かせています。


「ええ。ところで」


 もう一人は、と尋ねようとしたところで、寮からキサさんが出てきました。


「ごめーん。待った……って、ルーナ寮長」


「おはようございます、キサさん」


 私は汗を拭くと、収納していた水筒からスポーツドリンクを注いで一口飲みます。


「ふぅ……、どうかなさいましたか」


 私だけではなく、こちらをじっと見つめていたらしいキサさんとシャノンさんの喉までごくりとなっていました。


「い、いえ、何でもありません、寮長」


「やましい気持ちになんてなっていません」


 二人の態度にはどこかぎこちないところがありましたけれど、体調が悪いなどといった風には見えなかったので、若干、顔が赤くなっている様子でしたけれど、特に気にする必要もないのでしょうか。


「そうですか。今日は十分に気を付けてくださいね」


「はーい。……ルーナ寮長」


 私は寮に入って汗を流そうと思っていたのですけれど、後ろからキサさんに声をかけられたので、足を止めて振り返ります。


「お二人は今日、新入生が向かうお花摘みの護衛を頼まれているのですよね? それで、一応、身体を温めておこうと今から少し動かれるおつもりなのでしょう」


「ええ、その通りですけれど……」


 キサさんはシャノンさんと顔を見合わせています。


「いつもこのように朝早くから誰かに会うことはあまりありませんし、あっても同級生、あなた方はもう少し遅いでしょう。それが今日は頼まれ事をしていたから張り切っていて、少しばかり早くに目が覚めてしまったのですよね」


 目をぱちくりとした後、二人は頷きました。


「その通りです」


 シャノンさんの声には若干驚きが混じっているようでした。


「ですから、あなた達も、新入生のことは勿論ですけれど、自分たちのことも疎かにしてはいけませんよ」


 二人は元気よく頷いてくれました。


「はい。気をつけます」


「ありがとうございます、ルーナ寮長」


 感謝されるようなことは何もしていませんよ、と会釈して、私は二人と別れると、浴場へと向かい、汗を流しました。




 その日は先生にいただいた課題をこなして、ルグリオ様に書類を届け、悪いかな、とは思いつつも少しばかりお話をさせていただいた後、寮へと戻りました。

 予想通り、というほどでもないのですけれど、夕食には新入生が倒したと思われるワイルドボアのお肉が出されました。


「こっちは……シルヴァニアウルフのお肉ですね」


「そうなんです。今日は少し大変だったんですよ」


 キサさんは、大変と言いつつも、どこか誇らしげな表情でした。


「ええ。ワイルドボアを倒すところまでは順調だったのですけれど、その後に囲まれてしまって。もちろん、私たちの敵ではありませんでしたけれど、新入生には大変な相手でした」


 私たちも1年生の時に同様の状況に陥ったのでよくわかります。あの時のことは本当に、決められていたことだったのだとしても、イングリッド先輩とロゼッタ先輩には文字通り命の恩人と言っても過言ではないと思っています。

 しかし、彼らが出たということは、私たちが1年生だったときと同じような状況になっているということでしょうか。さらに深刻な事態には、例えば、アースヘルムではなく、コーストリナで起こているといったような事態になってはいないと良いのですけれど。明日にでもルグリオ様に確認いたしましょう。


「そうですか、お疲れ様です」


 そう思いながらも表情や言葉に出すような無様な真似はせず、私はそのお肉を、少しばかり硬かったのですけれど、口に運びました。

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