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5年生の仕事

 5年生では授業としての実習はありません。というのも、それぞれ個人で違うものを目指しているため、3年生、4年生のようにある程度まとまってということが難しくなるからです。

 私たちの例をとってみても、シズクは着物、最近ではドレスなどの仕立ても行っているらしいのですけれど、部屋にこもって、春休みには私もたくさん見たりしたデザイン画を描いていたり、胴体部の人形に型を着せたりしながら、うんうんと唸っています。

 アーシャは変わらず、同じように冒険者を目指すのだと言っていた数人の友人とパーティーを組んで、毎日のように組合へ向かい、時には帰って来ない日が続くときもあります。その中には、当然というか、メルも入っていて、レシルとカイも一緒になって出かけた先で、種族にとらわれることなく、親とはぐれてしまった子や、奴隷のような扱いを受けている子がいれば手を差し伸べてあげるのだと意気込んでいました。

 もちろん、最後まで面倒を見ることが出来ないのであれば、ただ手を差し出すだけだというのは残酷に思う人もいるかもしれません。しかし、メルの意見は違いました。


「最後まで面倒を見る気がないのなら手を差し伸べようとするんじゃない、とか言ってる人がいるけど、私はそれは違うと思う。だって、私はルグリオ様やルーナたちに貰ったスープがとても嬉しかったもの」


 たとえひと時のことだったとしても、自分たちのことを心から気にかけてくれている人たちも世の中にはいる。

 ただ死んでいくだけだと思っていた自分たちに、気まぐれでも、哀れみでも、同情でも、自己満足でも、食べ物を、金銭を恵んでくれた人たちがいる。


「私は本当に運が良かったんだと思う。最後だと思っていた時に出会ったのがたまたま王族の方だったなんて出来過ぎているもの」


 だから、偽善と、自己満足と、押し付けと言われるかもしれないと思っていても、そういう風に今度は助ける側になりたいのだと言っていました。


「大丈夫。学院でたくさん勉強したし、実戦もたくさん経験したもの。協力すれば、ううん、一人でもワイルドボアくらいなら仕留めることが出来るよ。集団だったら少し苦労するかもしれないけど、多分問題ないよ」


「メル、それなら私も」


 心配で私もやはり一緒に行こうかと思っていたのですけれど、メルとアーシャに止められました。


「ルーナは私たちの事、信頼できないの?」


「信頼はしていますけれど、心配なんです」


 敵は、そう敵は野生の生物、魔物だけとは限りません。もちろん、彼らも危険であることに変わりはなく、むしろ最も気をつけなくてはならない存在でもあるのですけれど。


「以前のように捕まったりしたらどうするつもりですか」


「そもそも、魔物やなんかを討伐に行くのだって、危険はつきものだよ」


 アーシャの言ももっともで、冒険者になるのでしたら、死と危険は常に隣り合わせです。

 本当は私も行けたら良いのですけれど。

 私は学院の課題をこなす傍ら、適宜、お城へ戻ってお仕事をいただいています。私のサイン等が必要な書類もありますから。

 ルグリオ様に伺えば、そんなことしなくていいから友達と一緒に学院生活を謳歌しておいでと言われると思います。

 セレン様ならば、このようなことは気になさらず、ご自身の心の向くままにことをなさるのでしょう。

 では、私はどうなのでしょうか。

 ほとんどの実務は、ルグリオ様、その他文官の方たちなどが執り行われています。

 私に必要とされているのは、来春の結婚式に関する同意書、資料等、未だ学生という身分を考慮されてか、ほんの一部でしかありません。

 どれも大切な書類には代わらないのですけれど、何とも言えない歯がゆさを感じています。


「仕事がしたいなんて、ルーナは真面目ね」


 セレン様にお話を伺った時、そのようなことをおっしゃられて、セレン様は優し気な瞳で私の髪を撫でてくださいました。

 もちろん、それは言い訳に過ぎないのかもしれません。ただ、ルグリオ様と一緒にしたいという願望を満足させるための、それこそ自己満足なのかもしれません。

 

「それに、いつまでもルーナに頼ってばかりはいられないからね」


 そんな私の心情を察してか、アーシャはそんな優しい言葉をかけてくれます。


「……アーシャ、メル、それに皆の無事の帰還を心から祈っていますね」


 結局、私がかけられるのはそんな言葉しかありませんでしたけれど、アーシャも、メルも、皆も、眩しい笑顔を見せてくれました。


「ルーナにそう言われたら、無事に帰って来ないわけにはいかないわね」


「うちの寮長を泣かせるわけにはいかないからね」


「それに選抜戦もあることだし」


「今回で最後とは言っても、人数もぐんと増えるしね」


 そんな風に軽口を叩きながら女子寮を後にする皆を残った数人と見送ります。


「私たちも訓練行こっか」


「そうね。今日は休みと決めているけど、また出かけることもあるんだし、負けていられないからね」


 そう言って、競技場、訓練場の方へ出かけていった方たちもいます。


「私も負けてはいられませんね」


 このような雑務はさっさと終わらせて、空き時間を見つけて、リリス先生に稽古をつけていただきましょう。

 そんなわけで、先程、ばれないように転移していただいてきた、簡単な書類に目を通して署名を済ませると、リリス先生のところへお願いに行くのでした。


「ルーナは簡単って言ってたけど、あれに書いてあることって」


「うん。私には全然わからなかったけど」


「何か回りくどい言い方で、つらつらと書かれているっていうのは分かった」


「……これくらいにしておきましょう。ルーナがここに出していたんだから大丈夫なものだとは思うけど、国家運営の大事な書類だっていうのは分かったし」


「そうね。私たちが盗み見て良いものではないかもしれないわね」

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