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妹が入学するのはどんな気持ちなのでしょうか

「で、では、行ってまいりますわ」


 入学式当日、ご出席されるルグリオ様、セレン様と一緒に並んだメアリスを、メル、レシル、カイと見送ります。


「待って、メアリス」


 顔を上げたメアリスに近付くと、メルが視線を合わせるようにしゃがみ込んで、大して曲がってもいないリボンを引っ張って、形と位置を調整していました。


「ありがとう、メル」


 はにかむような笑顔を浮かべたメアリスはそのまま背中を向けると、ルグリオ様とセレン様の間に挟まれるようにして歩いて行きました。


「……何か言いたいことがあるなら言ってよ」


 微笑まし気な表情を浮かべていた私たちに、ほんのりと頬を染めたメルが口を尾がらせます。


「随分と嬉しそうだったね、メル」


「レシルは嬉しくないの」


 誤魔化すように、メルは足をぶらつかせて、地面を軽く蹴とばしています。


「もちろん、僕も嬉しいよ」


 レシルは眩しいものを見るように、メアリスたちが歩いていった方も見つめます。


「……行こう、ルーナ」


 メルは私の手を取って、くるりと向きを変えると、借りていた部屋へ向かって歩き出します。


「っつ、ちょっと、メル……」


 大分照れていたらしいメルは大きな歩幅で歩きだしたので、私は危うく転びかけましたけれど、なんとかメルに追いつきます。


「家族の門出をお祝いするのは、別に恥ずかしいことではないと思いますけれど」


「うん、そうなんだけど、改めて言われると、ちょっとね……」


 お借りしていた部屋を綺麗にして、トゥルエル様へのご挨拶を済ませると、私たちは仮の学生寮を後にしました。




 これまで大分お世話になった仮の学生寮を後にして、レシルとカイと別れた私たちは、暖かい春の風に髪を揺らしながら女子寮への道を歩きます。


「メアリスの事、気になりますよね」


 私と同じ速度で歩きながらも、メルはどこか落ち着かない様子で、そわそわと後ろを振り返ったりしています。

 私の声は聞こえていたようで、身体を硬直させたように、一瞬その場に足を止めると、ぎこちない動きで私の顔を見つめてきます。


「……私が気にしてもしょうがないってことは分かってるんだけどね」


 栗色の髪の毛の先を指先でくるくると回しながら、何とも言えない笑顔を浮かべています。

 私にはまだ年下の兄弟を心配するというのは、事象としては認識できても、実際の気持ちまではわかりません。

 先日、春期休暇中の事でしたけれど、ミリエス様に続いてお姉様もご出産なされて、私にも一斉に年下の兄弟が出来たのですけれど、私自身も忙しく、また、こんなに早い時期に伺っても良いものだろうかと逡巡していたため、本当にお祝いを告げて顔を見るだけで帰ってきてしまいました。

 できたばかりで実感が薄いということもあるのでしょうけれど、どちらかと言えば、一緒にいないということの方が大きいのかもしれません。 

 ミリエス様も、お姉様も、ご出産されたのは元気な男の子で、お父様、お母様、サンダリー帝国側のご両親、マリアナ国の元国王陛下、元王妃様も大変喜んでいらっしゃいました。


「いえ、当然のことだと思います」


 妹、のようなものですから。


「セレン様に伺っておいたら良かったかな」


「ルグリオ様がご入学されたときのことをですか」


 メルはこくりと首を動かします。


「うん。セレン様はどんなお気持ちでルグリオ様のご入学をお祝いされたんだろう」


「そんなに難しく考えることでもないと思いますけれど」


 私が言っても説得力はあまりないと思いますけれど、メルが不安そうな顔で私のことを見上げてくるので、何となくの思い付きで、軽い言葉で、誤魔化すようなことは出来ません。


「いつもと同じようにしていればいいのだと思いますよ。変に気張る必要なんてありません。ただ、メアリス―—妹が入学してくる。ただそれだけの事じゃないですか」


「でも」


 私はメルの頬を左右に引っ張ります。


「何するの、ルーナ」


 手を離すと、若干の涙目で、メルが私のことを睨んできます。


「そんな顔ばかりしていると、逆にメアリスも不安になると思いますよ。こう言っては見も蓋もありませんけれど、結局、入学するのはメアリスで、私たちはそのお手伝いをするしかないんですから」


「分かってるよ」


「だから、はやく寮へ行って歓迎会の準備をしましょう。笑ってください、メル。寮長としての命令ですよ」


 メルは数度目を瞬かせ、それから吹っ切ったような表情で頬を二回ほど叩きました。


「寮長の命令じゃ仕方ないね」


 道中では誰とも出会うことなく、二人で寮の扉をくぐりました。




 女子寮では、すでに歓迎会の準備が進められていました。


「あ、やっと来たわね」


「待ってたんだよ、ルーナ、メル」


 私たちも部屋に荷物を置くとその輪に加わりました。


「寮長が一番遅いなんてね」


「すみません」


 アーシャが大きな襷のようなものを持ってきます。反対側の手には、王冠を模したような飾りを持っています。


『私が寮長』


「なんですか、これは」


「分かりやすいようにと思って」


 これをつけて作業しろということでしょうか。

 周りを見れば、期待の籠った眼差しが向けられています。


「……仕方ないですね」


 王冠は辞退しましたが、襷だけ受け取ると、大人しく肩から下げます。


「皆さん、本音は隠してくださいね」


 今にも、といった表情で堪えている同級生に、張り付けた笑顔を向けます。


「なんか、ルーナが一層眩しく見えるんだけど」


「気配というか、何というか」


「怖い……」


「普通の人が見たら失神するレベルよね」


 自分たちで用意しておいて随分と失礼な物言いですね。


「話している暇はありませんよ。サクサクと進めましょう」


 机を整え、椅子を並べ、装飾を施します。


「来たよ」


 あっという間に時は過ぎ去り、早くも最初の新入生がいらしたようです。


「皆、準備は良いですね」


「おおー」


 皆が配置についていく中、私は用意された椅子に腰かけます。


「何となく落ち着きませんね」


 他の皆が準備している中で、真ん中で椅子に座っているというのは。


「いいからいいから」


「堂々としていてください、寮長」


 私が背筋を伸ばすと、扉の開くような音が聞こえ、クラッカーが弾ける音とあたたかな拍手が響いてきました。


「ようこそ、エクストリア学院へ」


「入学おめでとう」


 目を白黒とさせている新入生が食堂へと連れてこられます。


「5年生、女子寮寮長を務めさせていただいています、ルーナ・リヴァーニャです。これからよろしくお願いしますね」


 私は精一杯の気持ちを込めて手を差し出しました。

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