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5年生

 4年間も通った学院ですので、さすがに慣れて、学院へ向かう頃合もわかってきてはいたのですけれど、今回はいつもよりも少し早めに向かうことになりました。というのも――。


「メアリス、準備は大丈夫ですか?」


 私たち4人、私とメルとカイとレシルだけではなく、メアリスも学院に通うようになるからです。


「出来ておりますわ」


 新品の制服に身を包み、数日前から私たちと一緒にお披露目はしていましたけれど、緊張した面持ちと足取りで、馬車へと向かって歩き出し、躓きそうになって蹈鞴を踏んだりしています。


「大丈夫かい?」


 傍にいらしたルグリオ様が横からそっと手を取ってメアリスの身体を支えられます。


「あ、ありがとうございます、です」


 そのまま馬車の前に置かれた天鵞絨の台に足を乗せ、私たちが乗り込んでいる馬車へとゆっくり乗り込んで、メルの隣にぎこちない動きで腰を降ろしました。


「そう緊張することないよ、メアリス」


「私たちが一緒にいるんだから大丈夫だよ」


 レシルとメルも緊張を解くように声をかけています。


「ありがとう」


 メアリスがようやく微笑んだのを確認して、ルグリオ様とセレン様も馬車へと乗り込まれました。

 収納の魔法の応用のようですけれど、セレン様とルグリオ様が改造されたようで、これだけの人数が乗っていても特に窮屈には感じませんでした。


「それじゃあ、行きましょうか」


「行ってらっしゃいませ」


 見送りに出てきてくださった、もう私たちと一緒には学院へ向かわないシエスタ先輩方、メイドの皆様や騎士の方達などに頭を下げられます。


「行ってきます」


 セレン様が御者の方にお声をかけられると、合図があってから、静かに馬車は進み始めました。



 何度も話した内容ではあったのですけれど、道中は学院のことを話しながら進み、一泊を挟んで、翌日早朝にエクストリア学院へと到着しました。

 

「ここなのですね……」


 硬い表情で学院の校門を見つめるメアリスに、ルグリオ様がお声をかけられます。


「ここが学院の教室なんかがある、まあ、分かりやすく言えば本体なんだけれど、今はまだ春休み中で、新入生は入ることが出来ないからね。今から行くのは仮の学生寮だよ」


 名残惜しそうに見上げるメアリスの手を、セレン様が優しくとられます。


「焦らなくても大丈夫よ。どうせすぐ来られるのだし、5年間も通うことになるのだからね」


「はい」


 メアリスとセレン様が乗り込まれると、馬車は再び走り始めました。




 仮の学生寮に到着すると、出て来てくださったトゥルエル様に揃って頭を下げます。


「また1年間、最後の1年間ですけれど、よろしくお願いします」


 トゥルエル様は、はいはい、と私たちの顔をご覧になられて、メアリスのところで静止されました。


「最後だからって気を抜くんじゃないよ。……そっちの子は新顔だね?」


 メアリスが一歩進み出て、何度も練習したことが窺える所作で綺麗にお辞儀をします。


「メアリス・ミルランと申します。これから5年間、よろしくお願いいたします」


 ミルランのところに若干の反応を示されたトゥルエル様でしたけれど、何も尋ねられることはありませんでした。既にこの場に3人、正確には全員ではありませんけれど、揃っているので今更と思われたのか、それともあまり深く詮索されないようにされているのかはわかりませんでしたけれど。


「こちらこそ。トゥルエル・リックバリーよ。この学院の寮母をしているわ。他の皆共々よろしくね」


 トゥルエル様は私たちに、余計なことは言ってないでしょうね、というような視線を一瞬だけ向けられました。


「それじゃ、案内してやんな」


 トゥルエル様に渡された鍵を3本持って、私たちは仮の学生寮の階段を上がりました。




「じゃあ、僕と姉様はこっちの部屋を使うから」


 3本あらかじめ渡されてしまったことで、諦められたのか、ルグリオ様とセレン様もお泊りになられるようでした。

 ルグリオ様とセレン様、レシルとカイ、そして私とメルとメアリスに分れてそれぞれ部屋へ向かいます。

 収納してあった荷物を受け取ると、部屋に入って、ベッドに腰かけます。


「メアリス、大丈夫そうですか」


 入学式の前日にはクラス分けの試験が行われます。

 本当にクラス分けだけの意味しか持たないのですけれど、やはり、良い結果が出た方が嬉しいはずですから。


「はい。準備は整っています」


 春季休暇以前あたりから訓練をつけて貰っていたらしいメアリスは、自信満々、とまでは行きませんけれど、自信のありそうな笑顔で頷きました。


「それは頼もしいですね」


「私だって今回は自信あるよ」


 メルも豊かな胸を張っています。


「伊達にルーナたちと一緒にいたり、実習に行っていた訳じゃないってところを見せてあげるよ」


「そうですね。やはり、一度くらいは一緒に出来ると嬉しいですね」


 5年生、最終学年では対抗戦に出られる人数も急激に増えます。もちろん、対抗戦だけが学院生活の全てではありませんけれど、大きな行事の一つであることは事実ですから。


「ルーナはもう出られる気でいるんだね」


 メルが冗談めかした口調で尋ねてきます。


「もちろんです。油断はしませんけれど、手を抜く気も、遠慮をする気もありません」


 学生の範疇で、ではありますけれど。

 わざわざ言う必要もないかもしれませんが、緊急時以外で秘匿されている技術、転移や分身、一見しただけで分かってしまうようなことはないはずですけれど、そのような魔法は使用しないと決めています。

 収納の魔法を使っている時点で何を今更と思われるかもしれませんけれど、露見を防ぐという目的の他に、学院、学校、学園、という場の目的を守るという意義もあります。

 仮に、あくまで仮にですけれど、例えば対抗戦においては転移の魔法を使えばそれこそ一瞬で決着してしまいます。しかし、それでは対抗戦を行う本来の意味からは外れてしまうと思うのです。


「分かってるよ。ルーナ、寮長」


 私たちはそれから、メアリスに学院を案内したりしながら入学式までのひと時を過ごしました。

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