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竜の討伐からの帰還

 戻ってきた私たちが組合へと顔を出すと、送り出してくださったときと変わらない笑顔で、ソフィー先輩がお声をかけてくださいました。


「あら、お帰りなさい」


「ただ今戻りました」


 私たちが入った時には無事に戻ってきたことに対する賛辞や驚きの声も上がっていたのですけれど、少し遅れてルグリオ様が入っていらっしゃると、会話がぴたりと止まり、得も言われぬ緊張感が漂い始めました。


「こんにちわ、ソフィーさん」


 ただそれだけの言葉に過ぎなかったにも関わらず、ソフィー先輩は笑顔のまま、冷や汗を流されているような表情になられました。

 ソフィー先輩とお会いしてからは2年近く経ちますけれど、このような表情を浮かべられているところをお見受けしたことはなく、それは私たちだけではなく、その場にいらした他の冒険者、組合員の方達も同じだったようで、固唾をのんでお二人の様子を見守られています。


「・・・・・・ようこそお出で下さいました、ルグリオ様。本日はどのようなご用件でしょうか」


「うん。普通なら公人のルグリオ・レジュールとして用件があってくるところなんだろうけれど、今日は別の、エクストリア学院の卒業生、君の同級生として話をしに来たんだ」


 いくらソフィー先輩と言えど、ルグリオ様から逃れることは難しいらしく、では仕事が終わってからでよろしいでしょうかと提案なされて、ルグリオ様もそれに頷かれました。


「僕はルーナたちの報告と査定等が終わったら学院へも寄る予定だから、今日の仕事が終わってから、少し待っていて貰えるかな」


 一部の会話だけを切り取ると、まるで恋人か、それに準ずる何かのようなお二人の会話にも聞こえましたけれど、婚約者の目の前で行われているところ、それを隠そうともされないところ、お二人の間の空気、私に助けを求めるように一瞬向けられたソフィー先輩の視線などもあり、勘違いされるような隙は一片も存在していませんでした。当然、勘違いなさるような、あるいは冷やかしの声をかけるような蛮勇の持ち主などいようはずもありません。


「・・・・・・分かりました」


 それからソフィー先輩は、いつもと変わらないように振る舞われて、業務も完璧にこなされていらっしゃいましたけれど、明らかに緊張なさっているようで、ルグリオ様のお言葉には過敏に反応なさっているようでした。


「ちょっと話がしたかっただけなのに、あの反応は少し傷つくよね」


 ルグリオ様は私にそう耳打ちされましたけれど、私はソフィー様の反応はもっともだと思いました。



 いくら魔法があるとはいっても、ルグリオ様やセレン様等ごく一部の例外の方を除いて、ほとんどの方は魔力にも、程度の差こそあれ、限界はあるため、いざという場合の手段、例えば武器防具、回復薬等、入用なものはたくさんあります。

 換金、もしくは武器、防具等の作成の依頼をソフィー先輩を通じて依頼した私たちは、学院へと戻り、ルグリオ様と一緒にリリス先生のところへと報告にいきました。


「今回のことは知らせてくださってありがとうございます」


 ルグリオ様が頭を下げられた後、リリス先生も頭を下げられました。


「こちらこそ、生徒の無事をありがとうございました」


 それからリリス先生は私たちへとお顔を向けられました。


「後ほどレポートは読ませていただきますが、取り敢えず、今は無事に帰ってきてくれたことを嬉しく思います」


 報告を終えると、ルグリオ様も女子寮までいらっしゃるつもりはないらしく、お戻りになられるとのことでした。


「それでしたらルグリオ様」


 私は、先程は取り出す暇もなかった、収納してあった瓶を取り出します。


「これからソフィー先輩の下へ向かわれるのですよね。その際にこちらをお返しして貰ってはいただけないでしょうか」


 結局、竜を討伐する際には使うことはありませんでした。ルグリオ様がいらっしゃらなけれぼ、その後の冒険者の方達との諍いでは、もしかしたら使用しなければならない場面が訪れていたかもしれませんけれど。


「これは、魔力を回復するためのものだね。さっきの戦闘で使えば良かったのに」


 ルグリオ様は受け取られた瓶を空にかざして眺められた後、それらを収納なさっていらっしゃいました。


「分かった。これは僕が預かって、必ずソフィーさんに渡しておくよ」


「すみませんが、よろしくお願いいたします」


 それから、と去られ際にルグリオ様は付け足されました。


「今度会えるのは多分、卒業式・・・・・・、いや、そのために一度、今お城にいるシエスタさんを送りに来るからそのときだね」


 シエスタ先輩は3年生の間で足りない分がおありとのことで、ギリギリまで実習、その合間でその他の授業及び課題をこなされていて大変なご様子とのことでした。


「体調の方はソラハさんたちが気にかけてくれているから大丈夫だと報告を受けているよ。孤児院の方にも顔を出しているみたいで、サラさんたちにもとても好評のようだったよ」


「そうですか」


 じゃあまたその時にねとおっしゃられると、ルグリオ様はお城へお戻りになられ、私たちは頭を下げてそれをお見送りしました。


「さて、良いですか、アーシャ、メル、シズク」


「分かってるよ、ルーナ」


 アーシャたちも真剣な表情で見つめ合い、頷きあいました。


「・・・・・・では、これから寮へ戻って、トゥルエル様へと報告へ参りましょう」


 譲っていただいたドラゴンのお肉だけで許していただけると良いのですけれど。

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