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心配するよ

 ルグリオ様は私の姿を確認するなり、肩を強く抱きしめられました。


「良かった。無事だったみたいだね。リリス先生から話を聞いて慌てて来たんだけど間に合ってよかった」


 リリス様のことを先生とお呼びになられたのは、おそらく、お城への訪問が、お城の顧問としてではなく、学院の先生として赴かれてのことだったからなのでしょう。

 ルグリオ様は私の背中に腕を回されると、ぎゅうっと抱きしめられました。


「あ、あの、その、ルグリオ様」


 私が背中を叩くと、ようやくルグリオ様は解放してくださいました。


「ごめんね、苦しかったかい」


「いえ。……ルグリオ様は私のことを信用してくださらないのですか?」


 心配してきてくださったことは本当に良く分かっているのですけれど、つい拗ねたような口調になってしまいました。


「いいや、もちろん信じているよ。でも、それとは別に、僕がルーナのことを心配するのは許して欲しいな。僕はルーナの婚約者なんだから」


 ルグリオ様はそうおっしゃられると、私の、そして皆の、こう言っては誤解を招くかもしれませんけれど、身体を見回されました。


「怪我は……しているみたいだね」


 ルグリオ様がさっと腕を振るわれると、傷ついた衣服がさっと修復されました。


「本当は自然の治癒力に任せた方が良いんだけど、まあ、今回は目を瞑ってくれるかな」


「おい」


「皆も無事なようで何よりだ」


 ルグリオ様がミーシャさんにも頭を下げられます。


「いつもありがとうございます」


「いえ、これが私の仕事ですから」


 ミーシャさんは少し照れていらっしゃるような表情で、はにかんだ様な笑顔を見せられました。


「それにしても、ルーナ」


「無視するんじゃねえよ」


 ルグリオ様が何かおっしゃられようとされたところで、不敬にも後ろからルグリオ様のお言葉を中断するような声が掛けられました。


「急になんだ、一体どこから現れたんだ?」


「あの方たちは一体どなたですか?」


 そこで初めて彼らに気付かれたらしいルグリオ様がミーシャさんに尋ねられます。


「はい。彼らは『スニックス』というチーム名で冒険者の活動をしている者たちです」


 知っているんじゃないですか、という突っ込みがアーシャ達からも聞こえて来たようですが、ミーシャさんは華麗にスルーされました。

 私たちは学生であるため、特にチーム名などは決めていませんけれど、職業冒険者の方達の中には、というよりもほとんどの方達がチーム名を決めて行動されているようです。


「つまり、僕のルーナに傷をつけたのはあなた方なんですね」


 ルグリオ様が振り向かれたため表情を窺うことは出来ませんでしたけれど、どうやら大層お怒りになられているようです。


「はあぁ、俺達はまだ何も……」


 まだ、と言ってしまっている時点で三流ですけれど、ルグリオ様にはそのようなことは関係ないご様子でした。


「なるほど。あなた方との戦闘でついたのではないとするとこういうことですか。あなた方はあそこで倒れているトカゲ、もとい黒竜との戦闘で傷ついた女子学生を、あろうことか大人数で襲撃し、自分たちよりもはるかに年下の嫁入り前の女性の身体を、自分たちの欲望のみに従って傷物にしようとしていたと」


 そこまでは言ってねえ、と叫ばれていらっしゃいましたけれど、言葉にされずとも感じられる身の危険というのはあります。


「この場合、僕が彼らを捕まえてしまっても良いのでしょうか?」


 尋ねられたミーシャさんは首を縦に振られました。


「この場では未遂、と言い逃れされるかもしれないというのが気にかかるところではありますけれど……、その辺りは問題ございません。事後処理は私共にお任せください」


 ミーシャさんが深く頭を下げられたのを確認されたルグリオ様は、私たちへ見惚れるような笑顔で微笑みかけられました。


「それじゃあ、疲れているだろうけれど、少しばかり待っていてくれるかな」


 そうおっしゃられたルグリオ様は、すでに半分逃げ腰になっている『スニックス』と名乗っているらしい冒険者の集団の方へと歩いて行かれました。










 帰りの馬車の中、縄で縛った『スニックス』の方々を馬車の外へ括り付け、ルグリオ様が黒竜を簡単に収納された後、私たちはルグリオ様の前で正座していました。がたがたと揺れながら走る馬車の床は硬く、足が痛いです。隣りをちらりと窺うと、メルも、アーシャも、シズクも、プルプルと震わせています。


「ルーナ、聞いているのかい」


 珍しく怒っているような表情をされたルグリオ様が私の顔を見つめられます。


「ですが、ソフィー様も学生の頃は無茶をされたとおっしゃられていましたし……」


「姉様もそうだけど、こう言っては失礼かもしれないけれど、彼女たちを自分と同じ尺度で測ってはいけないよ。そのことは薄々分かっていたんじゃないかな?」


「ルグリオ様も色々なことに挑戦するのは良いことだとおっしゃっていたではありませんか」


「挑戦するのはいいことだけど、無謀をはき違えてはいけないよ」


 リリス先生と同じようなことをおっしゃられます。


「竜を討伐に行くのが悪いと言っているんじゃないよ。……本当はそれも控えて欲しかったけれど、行くなら行くで、きちんと準備して、人数も揃えて行かなくちゃ。今回、君たちはたったの4人だろう」


 竜の討伐が4人というのが、少なくとも私たちにとっては少々無茶かな、と分かっている私たちは口を噤みます。


「姉様は何となく安心感があるけれど、普通はそんなことを聞かされたら驚くし、心配もするんだ。そのことは分かっていてもらいたいな」


 私たちが口を揃えて反省を口にすると、ルグリオ様は微笑まれて、私たちに席を勧めてくださいました。


「じゃあ、次、っとこれが最後の実習だったんだっけ。学院を卒業して、将来冒険者になるようなことがあっても、勇猛と無謀をはき違えて、命を粗末に扱ったりはしない事。大丈夫だよね」


「はい。ありがとうございました、ルグリオ様」


「うん。まあ、それじゃあせっかくだから、君たちの今回の冒険譚でも聞かせて貰おうかな」


 それから私たちは馬車の中でのおしゃべりに花を咲かせました。

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