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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
少女誘拐編
24/314

ペルジュとの対決

 この男は確実に捕らえ、罪を悔い改めさせる。たとえ、どれほど困難だろうとも。

 そう心に決めた僕だったが、ふと、あることが気になった。


「お、あなたには、仲間なのか部下なのかは存知ませんが、セラブレイト・マキシムと名乗る男が仕えていたはず。彼は、どこですか?」


 通常、主を前に立たせて、自身が引っ込んでいる従者というのは考えにくい。この場での伏兵は、恐らく問題ないとしても、別の場所で何か企んでいると困ったことになるかもしれない。


「んんー。セラブレイト・マキシムってだれのこと?」


「あなたの仲間ではないのですか?」


 この場所に僕たちがいることを知っているものは限られている。と言うよりも、僕たち以外ではセラブレイト・マキシムと名乗った男と、その取り巻きの男たちしかしらないはずだ。


「あー。そんなやつもつかっていたことがあったっけ」


 僕が詳細な情報を話すと、ペルジュはどうでもよさそうな口調で付け加えた。


「そいつは、もうしょぶんしたよ。あんまりつかえなかったからね。まあ、ここにルーナちゃんがいるというじょうほうをつたえてくれたことだけはひょうかするけど。どうでもいいよね、またあたらしいのをつかまえればいいだけだし」


「どういうことですか」


 このペルジュという男から発せられる言葉は、今まで聞いたことのないようなことばかりだった。処分したって、何を言っているんだ、この男は。


「そのまんまのいみだよ。もとはあれもぼくがうごきたくないからつかまえた、どこかのだれかなんだけどねえ。いままでよくはたらいてくれたんだけど、ルーナちゃんをつれかえってきてくれなかったから、やくにはたたないなあ、とおもってね」


 何てやつだ。こんなやつを悔い改めさせることなんてできるのだろうか。いっそ、この場で灰にしてしまったほうが、ためになるんじゃないのか。


「きみたちも、ぼくのじゃまをするというんならきえてもらうよ。ああ、ルーナちゃんだけはべつだけどお」


 そう言って、欲望に満ちた視線を向ける。その視線は、僕と、それから姉様に阻まれてルーナには届かなかっただろうけれど、何とも悍ましいものだった。


「なうほど。分かってはいたけれど、やはり、言葉は不要ということだね」


 最早、言葉を取り繕う必要も感じない。


「それでも、一度だけ聞こう」


 この質問は、形式的なものだ。一応、警告、勧告はしたという理由づけのようなものだ。


「ペルジュ・ボルナリエス。大人しく投降して、全ての罪を悔い改めると誓うんだ。そうすれば、命までは奪わない」


「はい。わかりました」


 なんだって。僕は一瞬、フリーズしてしまう。今、この男は首肯したのか。僕の勧告に。そんなわけはないと思っていても、一瞬の遅滞は免れない。そして、その一瞬は大きな隙となる。


「なーんて、いうわけないだろ。やっぱり、おぼっちゃんはだましやすくていい」


 気づいたときには、僕は吹き飛ばされていた。口の中には微かな血の味が広がる。どうやら殴り飛ばされて、ログハウスにぶつかり、口を切ったらしい。

 しかし、いつまでも考えているわけにはいかない。僕は、ルーナと姉様の前に転移する。吹き飛ばしたはずの僕が、急に目の前に現れたことに、ペルジュは驚きを露わにする。


「んー。たしかに、いま、ふきとばしたはずなんだけどな」


 自分の拳を握ったり、開いたりして、感触を確かめている。


「まあいいか。もういちどふきとばせばいいだけだし」


 ペルジュは、常人であれば目にもとまらぬ勢いであろう拳を突き出してくる。おそらく、魔法の支援も受けて、己の身体能力、及び筋力を強化している。さらに、魔法で自身を加速している。相当優秀だ。不意打ちとはいえ、僕も貰ってしまったわけだし。

 再び、ペルジュの拳が突き出される。しかし、二度も貰うほど愚かではない。そんなことでは、リリス女史に怒られてしまうだろう。突き出される拳に対して、僕は数歩下がる。僕の鼻先で拳は止まった。


「いかに魔法の支援を受けて、拳を突き出そうとも、伸びきった腕からさらに伸ばすことはできない」


 目を瞬かせるペルジュに対して説明する。この一回で学んでくれれば、これ以上、ルーナや姉様を危険に晒すこともないのだが。


「なにをいっているんだあ」


 勿論そんなはずはなかった。

 ペルジュが今度は逆の拳を突き出してくる。仕方ない、あんまり下がると、ルーナと姉様を巻き込んでしまう。突き出される拳に合わせるように、手のひらを向ける。そのまま、ぺルジュの体を回転させて、自分の体を加速させて、ぺルジュの背中を押し出す。自分の勢いと、僕が加えた力で、ぺルジュは飛んでいった。

 ぺルジュは地面に突っ伏して、しばらく動かなかったが、ようやく自分に何が起こったのかを理解した様子で起き上がり、僕をすごい形相で睨みつけてくる。


「なんだおまえは! ふざけるなよ、なんで、ぼくとルーナちゃんのじゃまをするんだ!」


 自分勝手すぎる暴論を振りかざし、再びこちらへ突進してくる。と思っていたら、急に停止すると、手の中に火の玉を生成した。数はどんどん増える。その数は軽く100程はある。


「ふーん。なかなかやるみたいじゃないか」


 僕は関心していた。あれだけの数を作り出すのは意外と難しい。適正というのもあるのだけれど、普通の人は、多くても数十個ほどだとリリス女史はおっしゃっていた。


「おまえは、しねええええええええ」


 完全にコントロールしているのか、僕が避けるとは考えていないのか、もしくは何も考えていないのか。こちらへ向かって、全ての火の玉を飛ばしてくる。

 しかし、それらは僕たちに辿り着く前に、僕が作り出した障壁に呑まれて消えた。


「な、なにをしたああああああ」


「叫ぶばかりで考えようとしない。少し考えれば、僕が作った障壁に阻まれたことくらいすぐにわかるだろうに」


「うそをつくな。ぼくのまほうをけすなんて、できるものかああああああああああ」


 そう叫ぶと、今度は水で槍を作り出し、こちらへ向けて投擲してくる。その数は先ほどの倍以上だ。


「本当に優秀ですね、ここまでの魔法を使えるなんて」


 魔法には、通常、適性があり、そう簡単に何種類も使えたりはしないらしい。僕も学院に行くまでは知らなかった。もちろん、学院をちゃんと卒業すれば使えるようにはなるのだけれど、目の前の男が普通に学院を卒業したとはとても思えなかった。

 その能力にだけは敬意を表して、丁寧な口調で相手をする。


「ですが、使い方が間違っています。魔法は本来、もっと有益に使うべきです」


 だからといって、手は抜かなかった。


「あなたも、悔い改めたら、来世では自分のためだけではなく、他人のためにもその力を使ってください。例えば、学院で教師をするなんていうのもいいでしょう」


 手の中に小さな雷を発生させる。できるだけ範囲を絞り込み、周りに被害を出さないように、狙いを定める。


「今世の罪を来世で償えとは言いません。あの世で償ってください」


 僕が放った雷は、正確にセルジュの小脳と心臓を貫く。セルジュは地面に倒れて、動かなくなった。しばらくそれを監視すると、僕はルーナに向き直る。


「人を殺した僕が恐ろしくなったかい。もし、嫌だというのならもう僕に着いてこなくてもいいんだよ。これから先も、きっとこういうことはある。その時も、僕は躊躇しないだろう。だから」


 そこまで言ったところで、口を防がれた。ルーナの目線に合わせるために屈み込んでいた僕は、そのままの勢いで後ろに倒れ込んだ。ルーナにキスされているのだと気づくのには、しばらく時間が掛かった。


「そのようなことで嫌いになったりはしません。それとも、そのような女だと思いましたか」


「いいや。君は強い女の子だったよ」


 僕たちは倒れ込んだまま、もう一度キスをした。




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