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vs 黒竜

 やはり、重要となってくるのは機先を制することです。

 先制して攻撃を受けてしまえば、その後の戦闘に支障をきたしますし、もっと悪ければ、誰か一人でも致命傷など負ってしまおうものならば、おそらくその後どうなるのかは想像に難くありません。

 全員でかかってもどうなるのか先の分からない相手。人数が欠ければ敗北、全滅は必至でしょう。


「とりあえず、注意を引きつつ、後退しましょう」


 この場所は私たちが戦うには足場も、奥行きも足りません。

 実力が及ばないのですから、地形くらいは有利な場所で戦わなければ。


「了解」


 私たちは効果は薄い、もしくはほとんどないと思われる遠距離攻撃で、煩わしい、うっとおしいと思える程度の注意を引きつつ、全力で良い立ち位置、足場へと移動します。

 黒竜は、敗走するような私たちを逃がす気はないらしく、獲物を追い詰めるように、絶対の自信がうかがえる態度で悠々とこちらへ向かってきます。


「あの態度、腹が立つわね」


 後ろを振り向きながら、アーシャが忌々しそうにつぶやきを漏らします。


「どう考えても私たちが被捕食者の側なんだし、仕方ないよ。アーシャだって、今更ワイルドボア相手に腰が引けたりはしないでしょう。まあ、あそこまで慢心もしないだろうけど」


「慢心なんてするはずないでしょう。……過信はしてるかもしれないけど」


 メルの言に、当然のことのように言い返していたアーシャではありましたけれど、私の視線に気がついたのか、最後に小さく付け加えました。


「それでどうするの?」


 火球、息吹をまき散らす竜に効き目があるのかどうかは分かりませんけれど、牽制するために打ち続けているシズクが割と焦った調子で尋ねてきます。


「このままだとジリ貧。私たちの体力、魔力の方がどう考えても先に尽きる」


 もっともです。竜の魔力がどのくらいかなどわかるはずもありませんけれど、少なくとも、私たちよりはあるはず……。


「・・・・・・ソフィー先輩は竜の討伐へも行かれたことがあったとおっしゃっていましたよね?」


 リリス先生のおっしゃりようでは、毎度のことのように、この時期の学生にはあることのようでしたし。

 おそらく、これは想像ですけれど、セレン様も学生でらしたころには向かわれたことがあるのではないでしょうか。ルグリオ様はわかりませんけれど。

 私は竜を相手取りながら素早く作戦を、作戦というほどでもないですけれど、皆に伝えます。


「このまま交代しながらあれの体力等を削いでいきましょう。まさかあれも、ここまで来たからには今更人間程度から逃げ出すこともしないでしょう」


 自身こそが最強の種であるとの自負が、尻尾を巻いて逃げ出すなどという選択肢を取らせるはずはありません。

 それは最悪の状況であるのと同時に、最高の状況でもあると言えます。

 私たちを見逃してはくれないだろうということと同時に、私たちを見逃すことはないだろうということだからです。


「背中に回ることが出来たらなあ」


 さすがに竜と言えども、自身の首の後ろ、生物学上の死角からは逃れることは出来ないはずです。一部生物は目の位置の関係上、ぐるりと一周死角がないようなもの、例えばウサギなど、もいるようですが、私たちから見える竜の目の位置から推測するに、おそらくは可視範囲には限界があるはずです。


「そうですね。危険ではありますけれど、一つ試してみますか」


「危険じゃない事なんて、この場に存在しないよ」


 アーシャが一も二もなく頷いてくれます。


「では、非常に危険な賭けですが、二手に分れましょう。一組は囮として、もう一組がアレの背中に飛び移るのです」


 まあそうですよね。

 案の定、アーシャたちは目を白黒させています。


「アーシャ、メル、シズク。結局ついてきた私が言うことでもないのですけれど、覚悟は決まっているんですよね?」


 先程も確認したことを、改めて問いかけます。


「もちろん。ルーナを信じているよ」


「では……そうですね、私とメルで囮の役目を引き受けますから、アーシャたちはあのあたりの崖の上で待機していてください。そこまで誘導しますから」


 薙ぎ払われた爪による衝撃波を障壁によって防ぎつつ、私とメルはアーシャとシズクを竜の視界から外すために、攻撃を放ちながら、一先ず逆方向へと疾走します。

 注意を引きつけるため、眼球を狙って魔法を放ちます。

 さすがの竜も嫌がるように顔を背けたり、腕と呼ぶのか、前足と呼ぶのか分かりませんけれど、払うような仕草を見せています。

 そうですよね。眼球を鱗で覆うわけにはいかないですよね。


「ルーナ、すっごく怒っているような気がするんだけど……」


「奇遇ですね、メル。私からもそのように見えます」


 辺りの地形が変わることを厭わないように、振り回される尾によって、辺りの岩壁が打ちつけられるたびにその姿を変えています。

 大気を震わせる咆哮を放ちながら、怒り狂った黒竜が私たちへ向かって突撃してきます。もはや、魔法も使わず、直接けりをつけるつもりなのでしょう。

 私たちは下の方へと逃げながら、右へ左へと竜を誘導します。


「ルーナ、合図が」


 崖の上を見れば、余程急いだのでしょう、空中に大きく炎で輪っかが出来上がっています。

 私はメルと頷きあうと、聞こえているかどうかわかりませんが、黒竜へ向かって宣言します。


「もう少しお付き合いください。せめて、アーシャたちが成功するまで」



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