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寮長戦を終えて

「・・・・・・これで良し」


「ありがとうございます、シズク」


 汗を流してさっぱりした私は、来てもらったシズクに手伝って貰いながら支度を済ませました。

 帯を結ぶというのは、中々難しく、一人でするにはもう少し練習が必要でした。


「これは浴衣だからまだ簡単な方。 もっと大変なのもあるけど」


 そちらは着るのにもっともっと時間が掛かるということで、この場では断らせてもらいましたけれど、いつか必ずと約束すると、シズクも少し表情をほころばせていた様子でした。


「セレン様はこの後はどうなさるんですか」


 早くも着替えを終えられたリリー先輩が尋ねられると、セレン様はどうしようかしらと首を傾げられました。


「特に決めてはいなかったから、適当にルーナの、いえ、女子寮に顔でも出してみるつもりだったのだけれど」


「それは邪魔しちゃ悪いっす・・・・・・ですかね」


 セレン様とリリー先輩のお顔が私たちへと向けられます。

 私とシエスタ先輩、キサさんとエリィさんはそれぞれ顔を見合わせます。


「そのようなことはございません」


「むしろ、皆喜ぶと思います」


 それからリリー先輩はソフィー先輩へとお顔を向けられました。


「ソフィー先輩は、どうっすかね」


「この格好を見ればわかるでしょう」


 受付の制服に袖を通されたソフィー先輩は、にこやかに微笑まれました。


「お祭りだからと、あなたのように、羽目を外し過ぎる輩が組合から出るとまずいから、私はこれからお仕事よ」


 ソフィー先輩から発せられる圧力に、リリー先輩がうっと顔を引きつらせられながらじりじりと後退されています。


「大丈夫ですよ、ソフィー先輩。 あたしもついてますから。 あれ、なんでさらに心配事が増えたみたいな顔をなさっているんですか」


 アイネ先輩とリリー先輩は顔を見合わせられて、同じように首を傾げられていらっしゃいました。


「・・・・・・問題だけは起こさないで、出来るだけトゥルエル様にもご迷惑をかけないようにしなさいね」


「問題って・・・・・・まるで私たちがいつもいつも問題ばかり起こしているような口ぶりっすね」


 ソフィー先輩はいつまでも心配な子供を見るような表情でお二人を見つめられた後、気を取り直されたように襟元を正されました。


「・・・・・・キャシー」


 イングリッド先輩の様子を窺われたソフィー先輩が、割と真剣な顔つきでキャシー先輩を見つめられます。きっと、リリー先輩とアイネ先輩のことを本当に心配なさっていらっしゃるのでしょう。


「えぇっと、私は友達と約束していますから・・・・・・。 大丈夫です、ソフィー先輩。 お二人とも、きっと、多分」


「私の目を見て話しなさい、キャシー」


 先輩方のことを悪く、良くないように言うことは憚られるようで、キャシー先輩は目を泳がせていらっしゃるようでした。

 

「お姉ちゃん、大丈夫だよ」


「いいから。 やってあげるから貸してみなさい」


 イングリッド先輩は椅子に腰かけたカロリアンさんの髪を梳くようにしながら撫でられて、優し気な表情でリボンを受け取られると、慣れた手つきで可愛らしく髪に結び付けられました。

 イングリッド先輩とカロリアンさんは一緒にお祭りをまわられるみたいです。もちろん、たくさんのチラシは持って行かれるみたいですけれど。


「どうかしましたか、ルーナ先輩」


「いえ、何でもありませんよ」


 皆さんがいる場所ですから本人は隠そうとしている様子でしたけれど、大好きなお姉さんと一緒にいられて嬉しいのだということは誰から見ても一目瞭然で、全く隠せていませんでした。


「じゃあ、今度は私がやってあげる」


「そう、ありがと」


 そんな様子を眺めていると、終わったよ、と肩を叩いてシズクが教えてくれました。

 帯だけではなく、髪まで綺麗に結い上げてくれています。


「ありがとうございます、シズク」


「お安い御用」


 一番遅い私を皆さん待っていてくださったみたいで、私とシズクは立ち上がって頭を下げました。


「全く気にすることなんてないわよ。 行きましょうか」


 セレン様を先頭に更衣室から出た私たちは、しばらく行ったところでルグリオ様と合流すると、軽く挨拶を済ませて、それぞれの場所へと向かって行きました。



 まとまっていなかったのは偶然、もしくは必然とも言えますけれど、この場では正解だったようです。

 会場の外には、たくさんの、主に学院の生徒が集まっていて、女子寮のある方へと向かおうと思っていた私たちはすぐさま取り囲まれました。

 先輩方とも一緒だったのなら、進むことさえ困難だったことでしょう。


「セレン様、先日と先程の戦い、、拝見いたしました」


「とても素敵で格好良かったです」


 うっとりした声を上げる女性、主に学院の生徒は、男性の方は流石に自重されたようでした、セレン様が微笑みかけられると、皆さん、顔を赤らめていらっしゃいました。

 私が隣にいたせいかどうなのか分かりませんけれど、ルグリオ様の方へは、セレン様ほどには集まっていらっしゃいませんでしたけれど、遠巻きには私たちを見てあげているらしい、悲鳴やら声が聞こえてきています。

 5年生の先輩方や4年生は、リリー先輩やアイネ先輩がいらしたことも大層喜んでいるようで、リリー先輩やアイネ先輩もそれに応えるように笑顔で対応なさっていました。


「それでは、少しお待ちくださいね」


 ルグリオ様とセレン様、リリー先輩とアイネ先輩を外のお席に案内した私たちは―—とても中へはお連れ出来ませんでした―—シズクやシエスタ先輩、キサさん、エリィさんと一緒に食堂の方へと戻っていきました。





「ただ今戻りました」


 私たちが声を揃えて帰還の報告をすると、忙しそうにしながらもこちらを気遣ってくれる声が聞こえてきました。


「ここへ来ていていいの」


「大丈夫なの」


「疲れているんじゃない」


 お心遣いはとてもありがたかったのですけれど、外の状況を見てしまった私たちは、とても断ることは出来ませんでした。

 先に戻ってきていたアーシャたちを含めて、ほっと一息つかれたのが確認できましたけれど、それもすぐに引き締まった顔に戻ると、わかったよと指示をくださいました。


「じゃあ、お客様を捌くためにも、接客、頑張ってきてね」


「はい」


 渡された料理を手に、私たちはホール、そして外を飛び回りました。

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