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寮長対戦 決着

「僕はルーナのことを愛しているし、本当に大切に思っているけれど、これは勝負だからね」


「私の方がルグリオ様の事を想っていますけれど、これは勝負ですからね」


 私とルグリオ様の視線がぶつかります。

 いくらルグリオ様が容姿、勉学、魔法、体術に優れ、行動力、思考力、体力で私の上をゆかれているのだとしても、こればかりは引くことは出来ません。いえ、こればかりということはありませんけれど。


「私の方がルグリオ様のことを大好きですから」


「それは僕の台詞だよ」


 私たちは真剣な顔で、お互いから視線を逸らさずに見つめ合います。

 

「では参ります」


 体術では確実に勝ち目がありません。唯一対抗できるかもしれないとすれば魔法、魔力だけですけれど、やはり勝ち目は薄いでしょう。だからといって、勝負をしないなど、勿体ないことはできません。

 私はルグリオ様の腕から逃れるように後退すると、勢いをつけてルグリオ様の懐へと飛び込みます。

 ルグリオ様が避ける素振りを見せられず、受け止められるような態勢になられたので、私はそのまま激突するのをやめて、直前で急停止すると、髪を払って、視界を塞ぐように一回転します。


「これでどうですか」


 周りながら、傍らにもう一人の魔力体である自分を出現させます。

 分身の魔法は、以前似たような魔法を見せたこともありましたし、この場で使用してもそれほど問題にはならないはずです。……多分。しかし。


「ど、どうして」


 ルグリオ様は躊躇わず、迷われることなく、私の腕を捕まえられました。魔力防御を突き破り、何か雷のようなものが流れ込んでくるのを感じます。


「僕がルーナを間違えるはずがないじゃないか」


 ルグリオ様は一瞬で私の他の全ての分身を消し去られました。


「それとも、ルーナは違うのかな」


「いえ、私も同じです」


 私だってルグリオ様を他のどなたかと間違えたりは致しません。

 次の攻撃に移ろうとして、私は自分の身体が動かないことに気がつきました。


「僕としては、ルーナを傷つけるつもりはないから、しばらくじっとしていてくれるかな」


 頑張って動こうともしてみましたけれど、身体が石にでもなってしまったかのように指先の一つまで動きません。私は以前の、そして先程の事を思い出します。

 あの時は認識できれば動かすことも、振り払うことも出来ましたけれど、今回は全く振りほどけそうにありません。

 同じような魔法であり、他人をあまり傷つけずに無力化するには最適、かどうかは分かりませんけれど、少なくとも現状でのルグリオ様の目的には沿った魔法と言えるようです。

 身体の感覚も、流れているはずの空気すら感じることが出来ず、思考に囚われていた私は地面に倒れ込みそうになりました。


「危なかった」


 ルグリオ様が支えてくださって、優しそうに、感覚がないので分かりませんでしたけれど、地面に横たえてくださいました。


「えっと、ありがとうございます」


 お礼を言うのもおかしなことではありましたけれど、支えてくださったのは事実でしたから、動かない、動けないままに視線だけを向けます。


「お礼を言われることじゃないと思うけど……」


 どうしてルグリオ様は私を他の皆様と同じように気絶させなかったのでしょうか。

 もしくは、なぜ、この魔法を他の方にも使用なさらなかったのでしょうか。


「知られたら警戒されてしまうだろう。それに、相手が油断せずに気を張っているとき、もしくは完全に防御のための魔法を使っているときにはこの魔法は使えないんだ」


 ルグリオ様が私の顔を覆うように手をかざされると、私は気が遠のいてゆくのを感じました。


「おやすみ、ルーナ」


 最後にそのように聞こえた気がしましたけれど、そのときには私にできることはありませんでした。





「目が覚めたかな」


 私が目を覚ました時には、変わらずルグリオ様が微笑みと共にあたたかな視線を送っていてくださいました。


「はい、ルグリオ様」


 そのときにはすでに対戦は終了していたようで、周りを見渡すと、同時に目覚めたらしい、ほとんど全員が私と同じようにきょろきょろと辺りを見回していました。

 観客席からは、歓声と、暖かい拍手が送られています。


「負けてしまいましたか」


「うん。僕がルーナに負けるわけにはいかないからね」


 ルグリオ様は楽しかったよとおっしゃってくださいましたけれど、本当かどうかはわかりません。

 いえ、本当なのでしょうけれど、私としては、ルグリオ様を満足させて差し上げることは出来なかったのではないかと思ってしまいます。

 涙は流れませんでしたけれど、悔しくなかったわけではありません。実力差があろうとも、悔しいものは悔しいのです。


「またの機会があれば、もっとルグリオ様に満足していただけるように、そして私も勝利できるように致します」


 私がルグリオ様と戦う機会など、そうたくさんあるはずもありませんし、手合わせならばともかく、このような形式の模擬戦を何度もするとは思えませんけれど。


「それは僕も頑張らないと大変だな」


 ルグリオ様は微笑まれると、私の頭に手を乗せられて、優しくなでてくださいました。


「私も守られているばかりではありませんから」


「そうだね」


 私たちは顔を見合わせると、笑顔を向けました。



 さすがに眠ったり、気絶したりしている選手を整列させてなどということが出来るはずもなかったようで、待っていてくださったロールス先生が双方を整列させられ、挨拶を済ませると、観客席からはさらに大きな拍手が送られてきました。


「楽しかったわね」


 セレン様が歓声に手を振って応えられながら、私たちの方を見渡されます。


「私は楽しかったけれど、皆はどうだったかしら?」


 きっと私たちの表情を窺われたセレン様は、とっくにご存じだろうとは思いましたけれど。

 私たちは勿論です、と声を揃えました。


「それなら良かったわ」


 何か違う機会でもあれば、またこうして集まりましょうとおっしゃられたセレン様に、私たちは一も二もなく頷きました。


「それじゃあ、これからは収穫祭を楽しみましょうね」


「はいっ」


 私たちは汗を流し、それを済ませた私はシズクを呼びにいって、着替えを済ませました。

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