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決戦の朝

 明けて翌日、私が目を覚ますと、珍しく隣のベッドにアーシャの姿はありませんでした。窓の外の様子を窺ってみても、まだ暗く、日が昇っている様子はありません。

 私に声をかけずに、そもそも私より早くに目覚めているアーシャというのは大変珍しく、収穫祭だからでしょうかとも思いましたけれど、それならば私にも声をかけてくれるはずなので、何かあったのでしょうねと思っていると、机の上に書置きを見つけました。


「ごめん、ルーナ。先行くね」


 そこには間違いなくアーシャの筆跡でそう書かれていました。

 私が今日最初に行くところは競技場ですので、アーシャの先へ行くというのは競技場の事だと考えてもまず間違いないでしょう。

 

 何を考えているのでしょう、アーシャは。いくら何でも早過ぎると思うのですけれど。


 私は少し身体を動かしておこうと思って、いつものように運動着に着替えると、いつものように走り出しました。



 走り込みやら、ヴァイオリンの練習やらを済ませた私は、寮へと戻ると朝食へ向かいました。


「おはようございます」


 トゥルエル様、シフォン様に挨拶を済ませると、誰もいない食堂の椅子に座ってトーストをかじりました。


「おはようございます、ルーナ先輩」


 キサさん達も合流してきて、一緒の卓に座っていました。



 私たちが朝食を終える頃になると、おそらくは目覚ましのための音なのでしょうけれど、上の階からけたたましい音が響いてきました。

 何事かと思い、私たちは揃って、遮音障壁を形成しながら、音源へと向かいました。


「……どうやら、この部屋から聞こえてきているようですね」


 私たちは顔を見合わせて頷きあうと、私は代表して扉に手をかけました。


「シエスタ先輩。失礼致します」


 シエスタ先輩のお部屋では、魔法陣が描かれていて、どうやら時間がくると発動する仕組みになっているようでした。

 これだけ近いところで大音声が響いているにも関わらず、シエスタ先輩はすやすやと寝息も漏らされずに眠りにつかれていらっしゃいます。

 

「ルーナ先輩、これが」


 シエスタをよろしく シンシア・ミャスリナ


 カロリアンさんに差し出された紙にはそう書かれていました。そう言われてみると、部屋の中にシンシア先輩のお姿はお見受けできません。


「シエスタ先輩」


 私たちは魔法陣と音を消すと、眠られているシエスタ先輩に声をお掛けします。


「シエスタ先輩」


 もう一度お声をかけて、少し身体をゆすると、シエスタ先輩は小さく声を漏らされて瞼を少し上げられました。


「……ルーナ様」


「おはようございます、シエスタ先輩。目覚められましたか」


 私たちが皆揃っていることに驚かれたのか、シエスタ先輩は起き上がれると、目をこすられて、それから大きく目を開かれました。


「おはようございます、ルーナ様、皆さん。どうされたのですか」


 私が事の次第を説明すると、シエスタ先輩は納得されたようなお顔をされました。


「最近はちゃんと起きられるようになっていたのですけれど、どうやら寝坊してしまったようです」


 つまり、シンシア先輩の魔法陣は保険だったということでしょうか。

 シエスタ先輩がおもむろに着替え始められたので、私たちは揃って部屋の外へ出ました。





「押さないでっ。押さないでください」


「しっかり並んで。席はありますから」


 競技場へ近づくにつれて、おそらくは全校生徒、だけではなく外来の方も含めた長蛇の列が形成されていて、私たちはしばしその光景に唖然としながら眺めていました。


「ルーナ様」


「えっ、どこどこ」


 私たちが揃って歩いて行くと、こちらに気付いた方々が一斉に振り向かれます。


「皆さん、お揃いですね」


 騒ぎが生じる前に、リリス先生が私たちのところまで来てくださいました。


「先生。これは一体……」


「話しは後ほど」


 キサさんの質問にはこの場で答えてくださる様子はなく、私たちはリリス先生に先導されるままに競技場の中へと、関係者入口と書かれた札の出ている扉から競技場内へと通されました。




 控室まで通されながらお話を伺ったところ、どうやら観客席へ入るための入場整理の列だったそうです。全校生徒のみならず、外来の方までいらしているのは、リリー先輩たちが喧伝なさったからだそうです。

 もちろん、職員の方が総出で、入り口もほとんどすべてを開放して対応に当たられていらっしゃるとのことでしたが、全く追いつかないようでした。


「おはよう、みんな」


 ルグリオ様とセレン様はまだいらしていませんでしたけれど、他の、ソフィー先輩、リリー先輩、アイネ先輩、イングリッド先輩、キャシー先輩は揃ってお出ででした。

 私たちが控室へ入ると、ソフィー先輩にお声をかけられました。


「おはようございます、先輩方。お早いのですね」


「ええ。セレン様やルグリオ様より遅くなるわけにはいかないし、それになんだか、気持ちが昂っちゃって」


 そんな風に話をしながらしばらく経つと、扉が開かれてセレン様が入っていらっしゃいました。と、思っていたら、セレン様はすぐに扉から出て行かれて、ルグリオ様とご一緒に再びいらっしゃいました。


「おはよう、皆早いのね」


「おはよう、遅れちゃったかな」


 私たちは椅子から立ち上がると、揃って頭を下げました。


「おはようございます、セレン様、ルグリオ様」


「遅れているなどということはございません」


「私たちが早すぎただけです」


 丁度のタイミングだったらしく、リリス先生が扉を開けられたので、私たちはそちらを振り向きました。


「着替えられましたら、もう会場は使用できますので、準備運動でもどうぞ」


 ルグリオ様が退室されるのを待ってから、私たちは、私とセレン様は違いましたけれど、荷物を持って更衣室へと向かいました。

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