ルグリオ様とセレン様の収穫祭 in エクストリア学院
ルグリオ様のお話によると、お城でのシエスタ先輩は、最近では大分慣れてきたご様子とのことで、他の方からの評判も良いとのことです。
先日も、孤児院で甲斐甲斐しく食事や掃除、それから先生のようなことまでこなされていたようで、子供たちにも大層おもてになり、春以降の受け入れには殆ど問題がないとのことでした。特にメアリスは、春から学院に通うようになるということもあり、メルやカイ、レシルとは違った視点から語られる学院に瞳を輝かせているとのことです。
「本当に私などのために良くしてくださって、感謝の念に堪えません」
馬車での長距離の移動は大変だろうからと、帰りにはルグリオ様、もしくはセレン様が近くまで転移してきてくださっていることは秘密のようです。
誰も疑問には持たれないのでしょうかと窺ってみたところ、日を決めて、指定の場所から転移される際には、シエスタ先輩は上手く一人になるようになさっていらっしゃるとのことで、今まで気づかれた様子はないとのことでした。
行き、少なくとも学院を出るまでは馬車でないと、色々と疑問を持たれるのではと思いましたけれど、ルグリオ様、セレン様に限ってそのような心配事は無用のようで、上手く隠蔽、いえ、上手く説得なさっているとのことでした。
「大丈夫よ。見つかった時には、その子も巻き込んでしまえばいいのだし」
セレン様はさらりとおっしゃられましたけれど、それは大丈夫なのでしょうか。そう思ってルグリオ様の方へ顔を向けると、最早何かを言うことは諦められたらしいルグリオ様がため息をついていらっしゃいました。
「本当に助かっているよ。サラ一人では大変だろうし、他のメイドさんたちは、別のところへ派遣されたりしているからね」
以前は一人で切り盛りしていたとはいえ、基本的に女手一つでは大変でしょう。他のメイドの方は仕事を探されたり、忙しそうになさっているとのことですし。
そして、先日保護されたメイドさんたちはお城ではない、とは言っても近所の、孤児院に通われたり、住み込まれたりなさっているようで、こちらも大層やりがいを感じている様子ではりきっているとのことでした。
「……はっ。すみません、長々と話し込んでしまって」
「いいや、僕はルーナと話せてとっても嬉しかったよ」
随分長いこと話し込んでしまったようで、さすがにメルに呼ばれて、調理場へと、次の注文の品を受け取りに戻りました。
「興奮するのは分かるけど、こっちもしっかり頼むわね」
シンシア先輩が苦笑気味におっしゃられました。
「すみません。気をつけます」
「まあ、お客さんからの反応も良かったし……普通、他人の恋路なんて見ていて楽しいものではないと思うのだけれど……とにかく、節度を持ってね」
私は渡されたパンケーキとシロップを手に、次のテーブルへと向かいました。
「約束通り、来てやったぞ」
静かな時間に水を差しにやってこられたのは、イエザリア学院の制服を纏った一団でした。
「約束なんてしたかしら?」
「いえ。私には覚えはありません」
先輩方には全く覚えがおありにならないようで、シンシア先輩はシエスタ先輩と顔を見合されて、首を傾げられました。他の先輩方も、もちろん他の寮生も同じ様子です。
「ふざけたこと言ってんじゃ……」
「いや、約束したのは僕たちだよ」
驚いて振り返ると、私は目を瞬かせました。見間違い、聞き間違いかとも思いましたけれど、そんなことはありませんでした。
「後輩のための露払い、というわけではないけれど、お相手は僕がするよ」
当然のように立ち上がられたルグリオ様がイエザリアの学生の方へ歩き出されると、セレン様も併せて立ち上がられました。
「それとも、僕たちでは不満かな?」
「い、いや……いえ。おい、どうなってるんだ」
イエザリア学院の、お名前は存じませんが、おそらくは選手だったのであろう皆さんは、その場で額を突き合わされて、話し込まれてしまいました。
「ねえ」
セレン様は優雅にカップをお皿に戻されると、決して大きくはない、しかし、すっと心に染み渡る声を発せられました。怒っているようでもありましたけれど、どちらかと言えば楽しまれているようです。
「ここじゃ営業妨害になってしまうから、場所を移しましょうか」
セレン様はイエザリア学園の一団と、それから私たちを引き連れて、そくさくと競技場のある方へと歩いて行かれました。
「……まったく、相変わらずね」
後にはそのまま残された食器や、グラスに入った水、そしてあきれ果てた様子のトゥルエル様が残されました。
「そんなわけですから、ちょっと競技場をお借りしますね」
セレン様がそう報告されると、ロールス先生はこめかみを押さえられながら、うめき声をあげられ、深い、深いため息をつかれました。
「……問題はありません。……ありませんが、分かっていらしたのならば、事前に教えておいていただきたかった」
「申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。そう、いつもの試合の規模が少し大きくなっただけです。……はあ」
ルグリオ様は、心中お察ししますと言いたげなお顔を作っていらっしゃいましたけれど、セレン様はほとんど気に留めていらっしゃる様子ではありませんでした。たしかに、規則に違反はしていないのですけれど。
「分かりました。では、審判も私が務めさせていただきます」
「感謝いたします」
あれよあれよと決まってしまう展開に、セレン様とルグリオ様以外、その場にいたほとんどの人が目を白黒とさせているうちに、色々と事が決められてしまい、気付いたときには、私は観客席で、ルグリオ様、セレン様と、イエザリア学院の生徒が向き合っているところを眺めていました。