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4年 vsイエザリア その後……特に何もない

 整列を済ませて、私たちが更衣室へと戻ってくると、扉の前でセレン様が寄りかかられながら腕を組んでいらっしゃいました。

 私たちに気がつかれると、廊下の反対側をちらりと見られて、何事もなかったかのように、いつもと変わらない優し気な顔を向けてくださいました。


「あら、もう戻ってきたの。……想定より早かったわね」


 何か小さな声で呟かれた後、その場で固まってしまった、あるいは膝をつこうとした私たちに、そんなのいいからと押しとどめられて、扉を開けてくださったので、私たちは恐縮しつつも背中を押される形で更衣室へと入りました。

 着替えを持つと、私は収納してあったので特に何かすることはありませんでしたけれど、私たちに使用するようにと言われているシャワー室へと向かい、汗を流しました。学院へと戻ればちゃんとお風呂にも入ることは出来るのですけれど、動いて汗をかいたまま、浄化の魔法だけで馬車に乗るのも何となく気が引けますし、さっぱりするのに越したことはありません。


「どうしてセレン様はこちらへいらしたのでしょうか?」


 ふと漏らした独り言に、髪を流していたアーシャが仕切りに腕を乗せてこちらへと顔を向けます。


「ルーナの、私たちの労いに来てくださったとか」


 周りで聞こえていたらしい先輩方も思うところを口にされます。


「義妹の雄姿をすぐに称賛されたかったのではないかしら」


「卒業生として私たちの戦いぶりに何か思われるところがおありだったのでは?」


「でも、前回まではそんなことは……寮に戻った時に、ルグリオ様がルーナを抱きしめられたことはあったけれど」


 勝利の興奮もあってか、お喋りのネタは尽きることはありませんでしたけれど、セレン様の笑顔を思い出すと、きっと尋ねてもお答えくださらないのでしょうと予想出来て、気にはなりましたけれど、それ以上は考えないことにしました。



 着替えを済ませて更衣室を出ると、シャワーから戻った時にはいらっしゃらなかったルグリオ様がいらっしゃいました。


「よかった。……今日はおめでとう」


 ルグリオ様は、一瞬、どこか安堵されたような表情を浮かべられると、すぐに爽やかな笑顔を向けられました。


「ありがとうございます、ルグリオ様」


 シャワーを浴びた後で良かったと思いつつ、この時間差は何だろうと内心では首を傾げました。

 ルグリオ様が今もいらっしゃらなかったのならば女子更衣室ということで遠慮なさったのだろうとも思いましたが、どうやらそうではないようです。


「……どうしたの、ルーナ?」


 私がじっと見つめていたからでしょうか、ルグリオ様は少し、ほんの少しだけ焦ったような声をあげられました。


「いえ、何でもありません」


 気にはなりましたけれど、きっとルグリオ様、それにセレン様は気付いて欲しくはないのでしょうと思えたので、私はそれに関しては何も言わず、ルグリオ様とセレン様には私がそう思ったことはばれてしまったかもしれませんが、別のことを口にしました。


「こちらへいらして大丈夫なのですか? 以前にも特定の学校に肩入れしていると思われるのは良くないとおっしゃられていたではありませんか」


 その際にも、ちゃんと理由は伺っているのですけれど、当たり障りのないことのほうが、照れ隠しにでも思ってくださるのではないかと思って少し頬を膨らませながら斜めを向きました。


「いいんだよ。ここには公人としてじゃなくて、僕個人として来ているからね」


 ルグリオ様は少し屈まれると、私の髪を優しく撫でてくださいました。


「学院の卒業生が、在校生の応援、励ましに来ていても別に問題はないだろう?」


「……ルーナの顔には出ていないけど、バレバレなのよね。雰囲気とか」


「ええ、本当」


 背後から微笑ましいものでも見るような視線を感じて、私は一歩後ろに下がると、多少残念には思いましたけれど、ルグリオ様とセレン様にお礼を告げました。




 その場でルグリオ様とセレン様にお別れを告げ、その際に額にキスをしてくださって、いつものように黄色い声が聞こえてきたのですけれど、努めて無視しつつ馬車へと乗り込み、エクストリア学院への帰路につきました。


「結局、最後は良いところがなかったなあ」


 馬車の中で隣に座ったアーシャが呟いたのをきっかけに、向かいに座るシェリルもそうだよねとため息をつきました。ハーツィースさんはこちらを気にせず、黙って窓からどこか遠くを見つめていらっしゃいます。


「そうだよね。最後はシンシア先輩に出てきていただくことになっちゃったし」


「次回からは、まあ次回で最後だけど、先輩たちはいないんだから、私たちがしっかりしないとね」


 アーシャがぐっと拳を握ります。

 現状、というよりも、普通、在学中に対抗戦に出場できるのは10人ほど。大多数の生徒は対抗戦へ出ることなく学院生活を終えます。

 収穫祭のときには、生徒が個人的にというとおかしいのですけれど、個人戦の他にも、似たような競技を行っているようなので、むしろほとんどの生徒が経験しているともいえるのですが、やはり、本戦は本戦の空気と言いますか、雰囲気には違うものがありますから。


「そうですね。代表として出ている以上、恥ずかしい真似は出来ませんから」


「ルーナの恥ずかしい恰好なら需要があると思うけど」


「ねー」


 アーシャとシェリルがひそひそと内緒話を始めてしまったので、私は疲れもあって、窓の外を眺めながら、うつらうつらと眠りにつきました。

ルグリオとセレンが何をしていたのかについては記述することはありませんが、ご想像にお任せします。

前後とも何かはあったようですが、ルーナたちには何も告げなかったようなので。

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