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4年 vsイエザリア 決着

 白の世界が瞬く間に目の前のフィールドを侵食してゆき、おそらくは私たち以外の、多少でも気を取り戻しつつあっただろう両校の選手も、一向に起き上がる気配が見られません。このエクストリア学院陣地前で立っているのはわずかに4人、私とシエスタ先輩、カロリアンさん、それからデューク様だけです。

 この場にいらっしゃらないということは、ハーツィースさんは前線へと行かれたか、もしくは別の場所でイエザリアの選手と交戦なさっているのでしょう。前者であれば、希望は大きくなります。


「ハーツィースさんの行方はご存知ですか?」


 確かめるのは戦況の把握に少しでも役立つからです。もし、周りへ迎撃に出られているのなら援軍の心配が減りますし、前線へ行かれたのならば言うに及ばずです。

 もちろん、ハーツィースさんのことですから、やられてしまってはいないと思いたいのですけれど。


「申し訳ありません、分かりかねます。途中で、ここを離れると言ってあちらへ駆けていっていたのですが、その後はさっぱり」


 シエスタ先輩が示してくださった方角を、横目でちらりと窺います。

 ユニコーンはたしかに強い力をお持ちのようですけれど、決して絶対的というわけではありません。それはもちろん、ユニコーンに限った話でもないのですけれど。

 そもそも、絶対的であるならば、元々逃げてきたりはしていらっしゃらないでしょうし。


「いえ、つまらないことをお聞きしました。それで、この後―—―」


「おしゃべりたぁ、余裕だねえ」


 デューク様が暴風を身に纏われながら、白い大地を踏みしめてこちらへ向かってこられます。通られた跡は綺麗に氷が融けていて、周りからは白い煙が上がっています。


「まあいい。作戦でも、小細工でも、何でも存分に練ってくれて構わない。それで楽しくなるならな」


 私たちはさっと顔だけ見合わせ頷きあうと、シエスタ先輩を校章の位置に、デューク様を囲って三角形になるように散開しました。

 そんな私たちにデューク様は楽しそうな笑みを浮かべると、手のひらに作り出された魔力塊を、私たちへと目がけて飛ばされました。


「きゃあ」


 防ぎきれなかった衝撃に、小さな悲鳴と共にカロリアンさんが後方へ弾き飛ばされます。

 私の方へと撃ち出されたものは、障壁で受け止めるとそのまま反射してデューク様へと撃ち込み返します。


「ふんっ」


 同じように跳ね返されたシエスタ先輩のものと同様に、手のひらで受け止められたデューク様は、再びこちらへ跳ね返してきます。まるで、ドッジボールでもしているような感覚です。危険度は比べ物にもなりませんけれど。


「ここまでだな」


 何度続いたことでしょうか。他の魔法を使う余裕もないまま打ち返し続け、じりじりと後方へと押し込まれつつあった私の耳に声が届きました。

 デューク様は、硬く拳を握り込まれ、まさに私がはじき返そうとしている魔力塊へ向かって構えをとられます。

 私は意識をこちらへ向けるため、はじき返すと同時に自己加速、デューク様の懐へ飛び込むべく地面を蹴りました。


「玉砕覚悟の相打ち狙いか、甘いな」


「相打ちではありません」


 そのとき、後ろから衝撃を受けられたデューク様がつんのめって膝から崩れ落ちます。


「何が……」


 衝撃に、反射的に振り向かれたデューク様の先には、息を切らして膝をついているカロリアンさんが両腕を突き出していました。

 その隙に私は上空へと跳躍して、デューク様の視線を外します。そして指先で狙いを定めると、大きく声をかけます。


「こちらです。いきますっ!」


 空気の膜に閉じ込めた衝撃波を解放して、上空から空気の刃を降り注ぎます。

 目に映らない無数の刃には、さすがに障壁を展開されましたが、こちらもここで押し負けるわけにはいきません。風圧で空中に留まりつつ、最後には自分の足の裏に作った空気の塊をクッション代わりに、自身を突っ込ませます。反対側からは、カロリアンさんが最後まで力を振り絞らんと、やはり自身で飛び込んできています。


「悲しいかな。やはり女性の体重ではここまでのよう―—―」


 何か失礼なことを言われかけましたが、最後までその言葉を聞くことはありませんでした。


「本当に失礼な方ですね。ですが、ここまでです」


「—―—っ。いつの間に」


 背後に立たれていたシエスタ先輩は、静かにデューク様の背中に右手を押し当てられます。


「いかにあなたが戦闘、もしくは競技に優れていても、この位置からならば私の優位は揺らぎません」


「……試してみれば、」


「言われるまでもありません」


 私たちが離れる、飛びのくのと同時に、シエスタ先輩の身体がまるで雷の直撃でも受けたかのように輝きを発せられました。

 一瞬の後、デューク様は校章から視線を外され、私たちの方、シエスタ先輩の方へと振り向かれましたが、そのまま仰向けに倒れられました。


「どうですか」


「感触はありました。とはいえ、あの状態から全力では問題になるかもしれませんでしたから、多少抑えはしたので、確実とは言い切れませんが」


 恐る恐る近づいて、私たち3人はデューク様のお顔を覗き込みました。


「気絶を確認しました。とりあえず伏兵に、いないとは思いますが、備えましょう」


 校章の無事、それに伴って伏兵がいないことを確認した私たちは、それでも周囲を警戒しつつ、校章の下まで戻りました。

 ほとんど同時に終了の合図が下され、私たちの勝利が宣言されると、シエスタ先輩とカロリアンさんと私は手を合わせて笑顔を浮かべた後、急に力が抜けて冷たい地面にへたり込みました。

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