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4年 vsイエザリア 5

 デューク様は真っ黒な髪を掻き上げながら、こちらのことなどまるで警戒していないかのようにつまらなさそうに立たれています。


「だから言っただろ、お前達じゃ相手にならないって。ああ、心配しなくても致命傷は負わせてねえよ。一発気合を入れてやりゃ目も覚めるだろ」


 デューク様の後方ではイエザリアの校章が無傷で風にはためいています。


「ああ、そういえば、お前たちは代表を決めるのに校内で男女に分れて選抜戦をしてるんだろ。じゃあ、結局男子とやっても、もしかしたらもっとつまらなかっただけかもな」


 それじゃ悪いこと言ったかもしれねえな、とデューク様は一人頷かれました。


「あなたは一緒に倒れているそちらの学園の生徒は心配しないのかしら」


 シンシア先輩が信じられないといった口調でお尋ねになります。


「うちの奴らなら心配いらねえよ。立っていられなかったのは自分たちが弱かったからだと納得しているだろう。それにこれは戦いなんだぜ。相手のことなんて気にするかよ。お前たちもここに来た以上は覚悟決めてんだろ」


 そうおっしゃられた瞬間、デューク様から思わず後ずさってしまうような威圧を感じました。これまで相対したどなたよりも勝る気配。どうにかしてその場に踏ん張ることは出来ましたが、前へと出ることができませんでした。


「この程度でい竦んでいるようじゃ相手にならねえな。あんたは王女サマってことで少しは期待してたんだけどな」


 私は隣のシンシア先輩の手を掴むと、そちらへ顔を向けました。


「シンシア先輩、大丈夫ですか」


「え、ええ。大丈夫よ。ここで私が倒れるわけにはいかないもの」


 強い決意の籠った声でした。ありがとう、とお礼を言われ、私たちは顔を上げました。


「へえ。少しはやるみたいじゃねえか。じゃあ、そろそろ始めようか」


 とにかく、まずは相手の攻撃を防ぐことだけを考えました。周りを見渡しても、アーシャや先輩方が倒されていて目を覚ましてこないところからも、情報もないままこちらから仕掛けるには危険があり過ぎます。だからといって、受け身が正しいとも限らないわけですが。

 甲高い音が響き、私とシンシア先輩が一緒に作った障壁が一気に壊されるのを感じました。思わず漏れそうになった悲鳴はやっとの思いで噛み殺します。

 同時に後ろに吹き飛ばされた私とシンシア先輩は、草の上を転がりました。下が草原であったことには感謝です。もしも、岩場や渓谷、廃屋内の石壁などであったなら、更なる損傷は避けられなかったことでしょう。


「ルーナ、今の障壁はどのくらいだった?」


「かなり全力です」


 私たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべました。


「私もよ。守りに入っていては確実に負けるわ。目的は校章だけど、あれを倒さずには勝利は喜べないわよね」


 自分が強者だと分かっているような態度で、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくるデューク様は、まさに王者のような風格を漂わせていました。


「ひとつ聞いてもいいかしら。なんであなたは今まで対抗戦に出ていなかったの? 私はこれで4回ほど参加しているけど、前回までにあなたのことを見かけたことはなかったわ」


 5年生で、ここまでの実力が御有りなら、確かに今まで対抗戦に出てこなかったことが不思議ではあります。


「それを話す必要があるのか」


 デューク様から発せられる魔力がさらに大きくなりました。もしかしたらルグリオ様にも匹敵するのではないかというほどです。もちろん、ルグリオ様やセレン様が本気で魔力を高められたことはほとんどお目にかかっていないので、私がいたところからの想像ではありますけれど。


「この魔力、ルーナに匹敵しそうね」


 シンシア先輩が私の方へちらりと顔を向けられました。

 私は、こんな場合にも関わらず、えっ、とシンシア先輩のお顔を見上げました。


「私、このように魔力を高めたことがありましたっけ」


「自覚はないのね。まあいいわ。とにかく、今はあれをどうにかしましょう」


 とはいえ、具体的な案があるわけではありません。とにかくできることからやっていかなくては。

 それ以上、話しを続けることは出来ませんでした。私たちが左右に分れて跳躍した瞬間、元いた場所が抉られ、まだ生え残っていた草が削り飛ばされました。深々と地面が割れて、もはや草原ではなくなってきています。

 地面に影が落ち、上空を見上げると、空中に飛び上がられていたデューク様が固められた拳と共にすごい勢いで落下してこられます。すぐに避けては、おそらく追ってこられるでしょう。そう思って、ギリギリまで引き付けます。


「ルーナっ!」


「大丈夫です、シンシア先輩」


 シンシア先輩の悲鳴に返事をしながら合図を送って、無駄かもしれませんが一応障壁を目一杯展開し、一枚目に反応があった瞬間、身体強化し、雷と風を身に纏い、可能な限りの速さでシンシア先輩がいらっしゃるのとは反対の方向へ全力で回避します。

 予想通り、障壁に効果はほとんどなく、簡単に破壊され、再び地面に大穴が開けられました。

 その瞬間、一瞬デューク様が停止されたのを見極められたシンシア先輩が全体を結界で覆いつくし、加圧することで押しつぶそうとなさいました。


「ふんっ」


 デューク様は、確かに一度動きを止められましたが、にやりと笑いを漏らされると、咆哮を上げられながら身体を思い切り広げられて、強引に結界を破壊されました。

 いえ、結界が壊されてから感じることが出来ましたけれど、デューク様の身体を膨大な魔力が覆っています。おそらくは身体能力ではなく、膨大な魔力に物を言わせて結界の限界を越えられたのでしょう。


「なかなか楽しいじゃないか。すぐに潰れてしまってはつまらないからな」


 デューク様の周りに、無数の火球、そして身体全体を覆うようなきらめきが溢れだしました。

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