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4年 vsイエザリア 2

 開始から間を置かず、草原の、或いは競技場のと言った方が正確でしょうか、中心付近から激しい光とともに、大きな衝突音らしきものが聞こえてきました。

 早い。

 いくら何でも早すぎます。

 これほど早くに相対できるだろう人、正確に言えば学生は、今までお会いした中ではキャシー先輩くらいだろうと思っていましたけれど、どうやら甘い考えだったようです。

 私たちは障壁によって衝撃波を緩和することは出来ましたが、草花が巻き上げられ、細い樹木がなぎ倒されたり、ところによっては地面が露出するまでに至ってしまっている周囲の様子を見るに、通常の状態で、対策が間に合わなかった選手は大変な目に合っただろうことが予想されました。

 衝撃で叩きつけられる障害物がほとんどないフィールドだということは良かったのかもしれません。廃屋内で壁に叩きつけられようものならば怪我は免れなかったでしょうし、もしかしたら建物が崩れてきていたかもしれません。


「校章は無事です」


 振り返って確認していたカロリアンさんが、ほっと安心したようなため息を漏らしていました。

 最も強固な障壁を常時展開しているおかげで、魔力は消費され続けますが、少し揺れた程度で済ませることが出来たようです。

 私は周囲の確認の意味も込めて、半球状に結界を広げます。


「来ます」


 方向を答える暇も惜しく、結界上方の部分に障壁を重ね、押し込まれはしましたが、眼前で弾き飛ばすことに成功しました。

 飛ばされたイエザリアの校章をつけた男性は、空中で一回転されると、音もなく、見事地面に着地されました。


「奇襲は失敗か」


 気づかれないようにでしょうか、上方からの侵入者はお一人だけのようです。


「あちらの方のお相手は私がします。ハーツィースさんとカロリアンさんは、前方から迫ってきている方のお相手をお願いします」


「まあいいでしょう」


「はい」


 眼前のイエザリアの学生が回り込むように歩くのにつれて、私も校章と彼の丁度間になるように身を置きます。


「イエザリア学園5年、セット・ヘックス」


 ボサボサの赤茶けた髪に、鋭い眼光を宿した男性は、やる気のなさそうに大きな欠伸を一つすると、腰に手を当てて、視線を下げ、面倒くさげに地面を二、三度踵で蹴り上げられて、軽く頭を掻かれていました。


「・・・・・・王女様、お一人で俺の相手をするんですかね」


 イライラとしているような雰囲気を醸し出す彼に、私としては個人的に思うところはないので、素直に返事を返しました。


「ええ。エクストリア学院4年、ルーナ・リヴァーニャ。一手お相手をよろしくお願いします」


「・・・・・・舐められたもんですね、俺達も」


「先日も先輩方に同じようなことを仰られていましたが、なぜそのように思われるのですか」


「そりゃ、当然でしょう。不敬かもしれませんが、まともにやって男子に勝てる女子がそんなに大勢いるはずもない」


 そうでしょうか。筋力や体力、総合的な運動能力ならば、統計的にはそうかもしれませんが、魔力や魔法技術、その他の要素を組み合わせれば、男性に匹敵する、もしくは勝る女性も少なくはないはずです。


「では、あなたはセレン様にも勝てるおつもりですか」


 たしかに年齢は違いますが、セレン様は言うに及ばず、お姉様も、専門ではありませんが人並み以上には訓練を積んでいらっしゃいました。

 それに、お父様よりもお母様の方がおそらく技術は上ですし、少なくとも私が今までお会いした方では、そこまで差はないと思います。

 セレン様のお名前を出したのは極端で分かりやすいだろうと思ったからですけれど、いくら例外がいると示されたところで、こちらに対する偏見を持たれていることに変わりはありません。


「こちらの実力を確かめないうちから一方的に決めてかかるのは感心しませんし、はっきり言ってしまうと、先輩方や私たちに対して失礼だとはお思いにならないのですか」


 セット様はやはり大きくため息をつかれると、やれやれと言ったように私へ視線を向けられました。


「仕方ない。女性は家にこもって料理や裁縫でもしてればいいと思っているが、どうやら倒されなければあなたは納得してくれないらしい。強者、男同士で本気の勝負をしたかったのだが・・・・・・」


「では、その偏見だけでも今回捨てていってくださいね」


 戦闘に関する魔法が至上、とでいうような言い方でしたが、普段は全く気にしてはいませんし、想像も出来ませんけれど、魔法は普段の日常の中でも様々な役割を果たしています。それらは決して戦闘に直結するものではありませんが、なくてはならない重要なものです。

 

「だから、そういう考え方なら、家で大人しくしていてくれってんですよ」


「奇襲してきた方の言い分ではありませんね」


 疾風のような速度で目の前に振り下ろされた、炎で形作られた長剣を、手のひらに重ね張りした障壁で受け止めます。そのまま地面へと受け流すと、一回転されて勢いのついたもう一本の、こちらは雷を流しているらしい細い剣を、障壁で受け止めながら勢いを利用して横へと飛びのきます。

 そこへ上空から氷の礫がこちらの障壁を貫通するかのような勢いで降ってきて、さらにその場から横へ避けます。


「予定通りだ」


 そこへ待っていたかの如くに繰り出された拳を、障壁で相殺しきることは出来ず、吹き飛ばされて、私は草の上を跳ねるように転がりました。

 おかげで距離は空けることが出来ましたが、今だ私は防戦一方で、攻勢に出ることが出来ていません。


「実力差も分かっていただけたでしょうか」


「いえ、まだまだこれからです」


 余裕からか、実際余裕なのでしょうけれど、追撃してこないセット様に私は強がりではない笑顔を向けました。

 

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