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4年 vsイエザリア

「これが最終戦になります」


 私以外の方にとってはおそらくそこまで気にすることのない多少の騒動はあったものの、準備を滞りなく済ませて、後は開始を待つばかりとなった私たちの前にシエスタ先輩が立たれていらっしゃいます。

 競技場へ向かう手前の入り口で、一段高い階段の上から私たち全員の顔を見回されたシエスタ先輩は、凛とした佇まいで、吹き付けてくる風になびかないよう結い上げられた白金の髪の毛に、長袖の上着を羽織られたまま、小さく深呼吸をされました。


「カロリアンさん。初めての対抗戦だったでしょうが、いかがでしたか」


 みんなの視線が、お姉さんと同じ燃えるような赤い髪と、綺麗に輝く金色の瞳をした、この場にいるただ一人の1年生、カロリアン・アインシュタットさんへと向けられます。


「はい。他の1年生には悪いですけれど、このように貴重な体験をさせていただいて、最初は1年生が一人だけだということもあって少しだけ不安もありましたが、お姉ちゃ、姉に聞いていたよりもずっと楽しい思いをさせていただきました」


 話を振られた、緊張した面持ちのカロリアンさんは、それでも澄んだ瞳ではっきりとシエスタ先輩を、それから私たちを見つめられながら、頬を紅潮させたまま、はにかんだ笑顔を浮かべられました。


「身体の方は疲れていないと言えば嘘になりますが、もう少しの間だけは出られなかった皆の分もしっかり動かすので、先輩方、何卒よろしくお願いいたします」


 体力面と、今までの試合からも考えて、カロリアンさんは今回は私たちと一緒に最奥で校章を守ることになっています。最初は、1年生にそこまで重責を負わせるのはいかがなものかという意見もありましたが、私も1年生のときの学内選抜戦では同じ役目を担っていましたし、様々な経験を積むという面からも、結局その案に落ち着きました。


「緊張しないで。そっちまで役目を回さないくらい早くに決着つけるからね」


 それはさすがに普通に考えれば無理でしょうけれど、3戦目とはいえ、緊張していたカロリアンさんの緊張を多少なりともほぐす効果はあったようです。


「お気遣い、ありがとうございます。大丈夫とは思いますけれど心強いです」


 レベッタ先輩に、カロリアンさんが頭を下げられます。


「エクストリア学院の選手の皆様、そろそろ開始ですので、競技場の方へいらしてください」


「では、皆さん。参りましょう」

 

 審判を務めてくださるアストロ様が呼びに来られて、私たちは手を合わせて円陣を組んだ後、競技場へと足を踏み入れました。




 多くのイエザリア学園の学生と、物好きなといっては悪いのでしょうが、応援にわざわざ来てくださった少数のエクストリアの学生が観客席を埋め尽くす中、競技場の中央で整列して互いに向き合います。

 すでに、光を利用した魔法により、試合の様子はエクストリアにも届けられていることでしょう。


「熱中するのは結構ですが、互いに熱くなり過ぎないように。いいですね」


 昨日の騒動のためか、重ねて注意を受けた後、礼と握手を交わして、自陣になる方へと進んでゆきます。

 競技場いっぱいまで広がった時点で、先生方によって今回使用されるフィールドが形成されます。

 今回選ばれたのは青々とした背の高い草木が茂る草原でした。1戦目のルーラル魔術学校と同じではありましたけれど、選定はランダムなのでそういうことも往々にして起こり得ます。


「じゃあ、ルーナ。行ってくるからね」


「気を付けてくださいね、アーシャ」


 開始の合図を聞いて、アーシャたちを送り出すと、ハーツィースさんが近付いてきました。


「ハーツィースさんはまだ向かわれないのですか」


「ええ。何やら向こうからは不穏な空気を感じますから」


 私はシエスタ先輩と顔を見合わせましたが、シエスタ先輩は首を横に振られました。


「それは、勘、というものでしょうか」


「・・・・・・そうかもしれません」


 防衛戦線が少し下がることにはなりますが、結局、校章さえ守り切ることが出来れば負けはないはずです。よっぽどの事態が起こらなければ。

 一抹の不安が胸を過ぎりましたが、代表として、弱気なところはなるべく見せるわけにはいかないので、代わりに気合を入れなおすと、やはり同じように不安を抱いているようなカロリアンさんの手をぎゅっと握りました。


「ルーナ様」


「そんなに緊張しないでください。ここにはシエスタ先輩も、ハーツィースさんも、それから私もいますから」


 きっと、ルグリオ様もセレン様も見てくださっているはずです。情けないところをお見せするわけにはいきません。


「あなたが思う通りに好きにやってください。フォローはいくらでも私たちがしますから。それを迷惑だなんて思わないでください。そういう経験こそ、大切なものですから」


「はい、ありがとうございます、ルーナさ、ルーナ先輩。おかげで少し気持ちが軽くなりました」


 本当かどうかはさておいて、あどけなさの残る、それでいて格好良くも見える笑顔でカロリアンさんが微笑んでくれたので、私も微笑み返しました。

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