4年 vsサイリア 決着
目の前の、正確には魔力の塊とでもいうべきでしょうか、使い魔はエニール様の魔力によって形作られるように存在しています。そのため、本当であればシエスタ先輩やシンシア先輩と協力してエニール様へ向かう方が正しいのですけれど、そこはさすがに使い魔と呼ばれるだけのことはあるということでしょうか、そのルグと呼ばれていた使い魔もまたエニール様を守るような位置取りをしているため、思うようにはいきません。
人数的にはこちらが3人、あちらがひとりと1匹、この表現もあっているのかどうかわかりませんが、こちらが上回ってはいるのですが、私たちも練習しているとはいってもさすがに相手の連携はよく取れていて、状勢的には五分ほどにまで持ち込まれています。
とにかく相手を引き離す必要がありそうなのですが、校章を守るという位置取り上、やたらとこの場から遠ざかるわけにもいきません。
「引き離す・・・・・・。つまり、分けてしまえば良いのでしょうか」
私は校章を守っている結界を維持したまま、私と使い魔、シエスタ先輩、シンシア先輩とエニール様を分断させるような壁を思い描きます。
攻撃を躱しながらですと中々その間を捉えるのは難しそうですが、一瞬でも完全に分断することが出来れば、そこから引き離して遠くへ連れて行くことも出来るかもしれません。あるいは別の手段も。
私は、攻撃を躱すために後ろに下がるような格好になっていたエニール様が、シエスタ先輩、シンシア先輩の方へと向かうために地面を蹴るのを見極めてから、身体強化も併用しつつ、全力で、丁度校章を挟んで向かい側に来るように飛びのきます。
案の定、つられたように、あるいは私を捕らえるためにこちらへと向きを変え、飛び込んできた使い魔の丁度背後のわずかな隙間に障壁を作り出し、そこを起点に結界を展開します。
まるで檻の中に魔物と一緒に捕らわれるような形になってしまいましたが、分断させることには成功しました。
「ルーナ様っ」
シエスタ先輩の焦ったようなお声が聞こえます。
「私の方は大丈夫です。それよりも先輩方はエニール様のお相手をお願いします」
効果は薄いと思いましたが、安心してくださるように笑みを浮かべると、飛び掛かってきた使い魔を屈み込んで下から迎撃しつつ、横に転がって距離を取ります。
着地した使い魔はすぐにまたこちらへ飛び込んでくると思いましたが、その歩みを止め、結界の外側のエニール様の方を向いていました。
主人と分断されたのが気になっているのか、こころなしか先程までより一回り程小さくなっているような気もします。仮説はいくつか思い浮かびますが、今するべきことは早めに決着をつけてしまうことです。
そう思っていると、先程のように小さくなっている気配ではない、むしろ、凝縮したような爆発的な魔力を感じました。
「ご主人様が心配で短期決戦ですか。力比べならこちらも望むところです」
正直、正確な消滅のさせ方は分かりません。そして、消滅させることが正しいのかどうかもわかりません。
「すみません。ですが、これも勝負ですので」
情けは無用。この子を連れだした時点でエニール様もそのことは覚悟していらっしゃることでしょう。 勢いをつけて飛び込んできた使い魔を、幾重にも張った障壁で受け止めます。一瞬、障壁と混じり合うような形になった使い魔の勢いを殺しきることは出来ず、そのまましばらく押され続けましたが、ようやく止められたところで、地面と接している一面及び正面以外の4方向から障壁を生成、そのまま範囲を縮めて押しつぶします。
障壁に押しつぶされて使い魔が消え去る間際、つい、といったようにエニール様が、声こそあげられませんでしたが、こちらを向かれました。実体のない使い魔とはいえ、さすがに気になってしまったのでしょう。
その隙を逃されるような先輩方ではなく、シンシア先輩が放たれた攻撃を、それでもエニール様は顔の前で腕を交差することで耐えていらっしゃるようでしたが、やがて後方へと転がるように飛ばされました。
「・・・・・・やはりやるな。だが、まだ負けたわけではない」
エニール様は消えてしまった辺りへと一瞬目を向けられましたが、すぐに顔を上げられました。
「もう一度作り出す暇は・・・・・・与えてくれそうにないな」
イメージが正確である方がその力も増すのでしょうけれど、私たちを前にしてそれだけの時間はないと判断されたのでしょう。
「あなた方との遊び、いや失礼、勝負も楽しかったが、そろそろ決着といこうか」
振り絞ったかのような魔力が溢れだし、エニール様の全身に纏うように魔力が集まります。
シンシア先輩は私とシエスタ先輩の前に立たれると、両手を前に突き出されました。私とシエスタ先輩、シャノンさんもそこに手を重ねます。
「シエスタ、それにルーナ、シャノンまで、ここは」
「シンシア。彼は次の試合のことを考えていて勝てるような相手ではないはずです。私はあなたも信じていますから、あなたも私を、いえ、私たちを信じてください」
シンシア先輩が私の方を振り向かれたので、私もシエスタ先輩に同意するように頷きます。シャノンさんも同様に頷いていました。
「・・・・・・そうね。じゃあ、力を貸して。いえ、力を合わせましょう」
「はい」
私たちは他の皆を信じて、一点のみ、正面のエニール様だけに集中します。
「話しはお済かな。では、参る」
爆発音とともに空気が震え、障壁から腕の先を伝わって全身に衝撃が走ります。
受け止めたはいいものの、じりじりと押される感覚に、シンシア先輩のうめき声が聞こえ、私も歯を食いしばりました。
ついには力を出し切るために、声を上げて障壁に魔力を注ぎ込み続けます。別に声を上げると魔力が増えるなどということはなく、ただ力を籠めるために声を上げた方が良かったという理由です。
私は他の先輩方や後輩、それから同級生を信じて校章につけていた結界の維持を解除します。
ようやくエニール様が進撃を止め、力を出し尽くされたかのようにその場に膝から崩れ落ちられたのは、本当に私たちが校章に接触する寸前でした。
私は精根尽きて、その場にへたり込みそうになるのをどうにか堪えると、なけなしの魔力を振り絞り、校章に弱弱しい守りを施します。
気がつくと、横からシエスタ先輩とシンシア先輩も同じように校章の結界の再構築をなさっていらっしゃいました。シャノンさんは息を荒げながら、仰向けに倒れ込んでいます。
「もう必要ないかもしれないけどね」
「そうですね」
シエスタ先輩がシンシア先輩に同意したところで終了を告げる合図が下されました。
同時に私たちはようやくその場にぺたんと座り込みました。
しばらくそのままぼうっとしていると、フィールドが解除され、誰もがその場にへたり込んでいるのが映りました。
正直なところ、立ち上がる気力もなかったのですが、見ていてくれた人たちの拍手に励まされ、どうにか身体を起こすと、お互いに支え合いながら整列へ向かいました。