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4年 vsサイリア 5

 シエスタ先輩はお身体が強くないとはいえ、女子寮寮長をどなたからの不満もなく受け継がれるほどの、魔法などの実力に関しては、5年生の中でも最高のものを修めていらっしゃいます。そのシエスタ先輩を正面から倒されたということは、目の前の大柄な男性、サイリア特殊能力研究院代表であるエニール様の実力は、正確なところは分かりませんが、ヴィクトール寮長以上と同等以上であるということなのでしょう。


「今度はお二人が相手をしてくださるのですか。感激ですね」


 爽やかな笑顔を浮かべられたエニール様でしたが、シンシア先輩は、二人でないと相手が出来ないと言われたと思われたらしく、私の一歩前に進み出られました。


「シンシア先輩」


「さすがに後輩を矢面に立たせるわけにはいかないわ。ルーナは後ろから支援をお願いできるかしら」


 気遣われているのではなく、シエスタ先輩の敵討ち、もしくは最上級生としての矜持からなのか、シンシア先輩の声音からは確たる意志が伝わってきます。

 私はシャノンさんと目配せを交わしてシエスタ先輩のことをお願いすると、一歩二歩と進み出て、シンシア先輩とシャノンさんの間に入り込みました。


「分かりました。ご存分に」


「ありがとう」


 実質的には一対一となった格好ですが、先程までのむやみやたらなものとは違います。シンシア先輩は落ち着かれているようでしたし、自棄になられていらっしゃるわけでもなさそうです。


「行くわよ」


 言うが早いか、シンシア先輩は、いつの間にやら手を覆うように出現させていた赤い炎を揺らめかせながらエニール様の下へと一歩踏み出されました。

 衝撃と、地面が抉れるような音がしたのち、一瞬で彼我の距離をつめられたシンシア先輩が手を払われるように動かされました。


「おっと」


 それを幽鬼のような動きで躱されたエニール様は、体勢を崩されかけましたが、まるで何かに引っ張られるように元の姿勢に戻られました。

 躱されることは予期されていたのか、シンシア先輩は力強く地面を踏み抜かれると、反転して、再び腕を振られました。

 しかし、今度は余裕をもって対処されていまい、障壁によって二つに裂かれた衝撃が吹き抜けます。

 そこへすかさず、私も後ろから攻撃を仕掛けたのですが、こちらは見えていないはずにも拘らず、やはり見えない何かによって近づくことが出来ませんでした。それどころか逆に吹き飛ばされ、危うくシエスタ先輩のところまで押し戻されてしまいかけました。


「まるで二人ほどを相手にしている気分です」


 私が呟くと、エニール様はなぜか動揺したようにぴくりと肩を震わせて、ぎこちない仕草で私の方を振り向かれました。


「まさかレグのことが見えているのか・・・・・・」


「なるほど、そういうことですか」


 言われなければ気付かなかったかもしれませんけれど、良く目を凝らせばエニール様のすぐ横の空間がわずかに揺らめいています。

 試しに障壁を地面以外の面を囲うように押し出すと、やはりエニール様の横からわずかな空間のぶれとともに魔力が吐き出されるのを感知できました。


「どういうことなの、ルーナ」

 

「そうですね、おそらくは使い魔か何かの類でしょうか。ご自身ではなく、使い魔の方を不可視にする。なるほど、気がつきませんでした。その方法ならば、一人分に対して使用される魔法を実質二人で捌いているようなものですから、見た目は簡単そうに見えることでしょう」


 当たらずとも遠からずといったところでしょうか。そう思っていると、エニール様はおもむろに手を叩かれました。


「いや、まさか見破られるとは思わなかったな」


「見えてはいません。感じているだけです」


 集中すれば、空間の中に存在する、獅子のような形の魔力の流れを感知できます。


「使役者ではないにもかかわらず、純粋な魔力の流れだけで感じ取られるとは・・・・・・いやはや、お見事としか」


「シンシア先輩。他のことはお気になさらず、エニール様の事だけに集中していてくださいますか。この使い魔らしき方は私が相手をします」


「一対一に持ち込むのは悪くないと思うが、先程の攻防からも彼我の実力差は理解されているはずですが」


 たしかに、一対一になったところでシンシア先輩よりもエニール様の方が若干実力は高いように思われます。無論、私よりもです。私がこの不可視の使い魔を相手にしている間、シンシア先輩が持ちこたえてくださらなければ、私が援護に入ることは出来ないでしょう。

 このままでは、時間切れによる引き分けか、ハーツィースさんたちが相手の校章を破壊するまで耐えることは難しそうですが。


「一対一ではありません」


 背後から静かな、それでもしっかりと響く声が掛けられました。


「シエスタっ、大丈夫なの」


「ご心配をおかけしました、シンシア」


 シエスタ先輩は同じように起き上がりかけていらしたレングス様を倒されたようで、校章を守ることのできる、かつ、エニール様をシンシア先輩と挟み込むような位置取りで凛と佇まれました。


「先程は不覚をとりましたが、あのような無様をいつまでも晒すわけには参りません」


「面白い。やはり、勝負はこうでなくてはな。勝敗の分かり切った勝負ほどつまらないものはありません」


「随分と不遜な物言いですね」


「お気に障ったのなら失礼致しました。お詫びはこれからの勝負で致しましょう」


 エニール様のお相手をシエスタ先輩とシンシア先輩に任せて、私はこの実体のない、獅子の使い魔を相手取りました。

文章力が拙く、分かりにくい表現だったかもしれませんが、正確には使い魔ではありません。

レグという名称は、個体の名前ではなく、彼がイメージとしてとらえやすくするためにつけているものです。

そのように形作られた魔力の塊だとでも思っていただければ幸いです。

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