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4年 vsサイリア 3

 先に行動を開始されたのはレングス様の方からでした。

 私が知る、どこの国のものでもない言葉で、何事か文言をつぶやかれると、地面に光る魔法陣らしき紋様が浮かび上がりました。

 魔法を行使する際に必要なものは、魔力とその行使に伴う想像力だということは常識以前の問題で、それを補完する手段の一つとして詠唱がありますが、時間が掛かる上に相手に情報を与えてしまうなどの理由から、ほとんど、特にこのような対人戦では、使用されることはありません。

 私としても、何もしてこないのであればただ待っているだけの方が魔力や体力を温存することが出来て良かったのですが、さすがに自陣のすぐそばで魔法が行使されるための準備をみすみす見逃す手はありません。


「来られないのであれば、こちらから仕掛けさせていただきます」


 とりあえず、初見の事に対していきなり近づくようなことはせず、遠距離からの攻撃を試みます。

 攻撃、とはいいますが、ようはこちらへ危害が加えられないよう、相手を行動不能に陥らせることが出来れば良いのです。傷つけたくはない、などときれいごとを言うつもりはありませんが、最近は、加減をした方が良いのではと思うほど、自分で言うのもあれですが、身体の方の成長とは裏腹に、魔法の技術、特に魔力の方は成長が著しいのです。

 イメージするのは囲い。こちらと相手とを分け隔てる壁です。

 そう思いながら手をかざすと、地面が隆起し、レングス様の周りを囲います。

 これでどれ程耐えられたものかと考えていましたが、案の定、壁を越えていまだに形成されている魔法陣から、幾本もの歯が生えた黒くて丸い塊が出現すると、そのまま口の中に、おそらくはレングス様ごと取り込んでしまいました。

 そして黒い塊が消えると、中からレングス様が現れて、地面に軽やかに着地されました。


「お待たせしました」


 そうおっしゃられたレングス様の周囲には、お顔くらいの大きさの、生物ではないと思いますが、ふよふよとした球状のものが3つほど浮かんでいました。


「可愛いとは思いませんか」


「何がでしょうか」


 突然問われて、ここまでの流れからしても、おそらくは今浮かんでいる3つの黒いもののことなのだろうとは思いましたが、特にこちらに何かを期待しての問いではなく、おそらくはご自身で語りたいのだろうということが声音から伝わってきたので、時間をかけてくださるのはこちらとしても助かりましたから、私は先を促しました。


「この子達ですよ。ご覧ください、この愛らしい形状、癒される動き、最初に召喚されてしまったときにはどうしようかと思っていましたが、慣れると愛着も沸くものですね」


 レングス様はつんつんと指でつついては楽しそうな笑顔を浮かべていらっしゃいます。


「っと、お待たせしてしまい申し訳ありません。では、始めましょうか」


「別に待っていたつもりはなかったのですが」


 黒い塊を伴って、レングス様がこちらへ向かって走って来られます。

 私は、少し不安ではありましたが、校章からずれるように移動すると、レングス様も私を無視することはなく、私の方へ向かって来てくださいました。

 もちろん表情には出しませんでしたが、取り敢えず安堵した私は障壁を展開しながら、炎と氷の槍を作り出し、迎撃のために飛ばしましたが、2本の槍は黒い塊にぶつかると、飲み込まれるように消えてなくなりました。

 続けて飛ばした、足止めのための障壁も、同じように掻き消えました。


「先程の壁もそのように吸収したのですか。・・・・・・なるほど、おそらくは魔力、もしくは魔力、魔法で形成されたものを吸収する、正式な名称は分かりませけれど、一番近いところでは使い魔といったところでしょうか」


 聞こえるように告げることで反応を伺いたかったのですが、どうやら正解のようで、レングス様の顔には驚きと称賛が浮かんでいるようでした。


「まさかこれだけの短い間にそこまで看破されるとは、もはや誤魔化す気にもなりませんね」


「だからといって、攻略されるとは少しも思っていらっしゃいませんね」


 レングス様は自信ありげに頷かれました。


「いかにルーナ様と言えど、魔法が吸収されるのでは勝ち目はほとんどないと思いますが、どうされますか。まあ、僕も魔法が使えないのですけれどね。僕としても、あまりいじめているように見られたくはないので」


「私が魔法による攻撃しかできないとお思いですね」


 私が止まって、構えをとると、レングス様は少し面白そうに笑われました。


「いや、これは失礼しました。そうですか、武術も使われるのですね」


「最近まで許していただけなかったので、素人も同然ですけれどね」


 もちろんはったりです。使えないことはありませんが、まだまだ対抗戦に出ていらっしゃるような方に通じるほどのものではありません。


「それで、本当によろしいのですか」


「どうぞご自由に。私の許可が必要なものでもないでしょう」


 私は両手に魔力を込めると、その場に止まってレングス様を待ち構ます。


「では、失礼致します」


 起きてしまった風は純粋な現象ですから、魔法で作り出された炎や、魔法で形作られている氷と違って、魔力を吸収されても消えることはありません。

 私は風を併用しながら、レングス様をなんとか躱し続けます。時折挟む魔法による攻撃は、全てレングス様の使い魔に吸収されています。


「正直驚きました。ここまで躱される、と、は・・・・・・」


 しばらく攻防を続け、とは言っても私が守勢に回っていた方がかなり多かったのですけれど、息をつくためにでしょうか、顔を上げられたレングス様は、はっとされたように真っ赤になられて、お顔を逸らされました。


「どうかなさいましたか」


「ルーナ様、そ、その、お召し物が」


 言われて自分の服装、運動着を見てみれば、激しく動き回ったせいかめくり上がったり、汗で張り付いたりしています。そこまで気にすることもないとは思いましたが、確かにあまり人に見られたいような格好ではありません。

 私は失礼して浄化の魔法を使うと、運動着の乱れを整えました。


「ありがとうございます、レングス様」


「い、い、いえ。ぼ、僕、いや、私は何も」


「そろそろよろしいでしょうか」


「は、はい。いつでも」


 そしてぎこちなくではありますが戦闘を再開しました。





 やはり、いまだにこちらの攻撃は向こうに届きません。しかし。


「そろそろでしょうか」


「何かおっしゃいましたか」


「はい。そろそろ反撃に出ようかと」


 私は地面を強く踏みしめると、身体強化と障壁を張り、手に込めた魔力を固めて飛ばしながら前に出ました。


「何度やっても結果は」


「本当にそうでしょうか」


「えっ」


 私は地面から出現した口を躱して後ろに飛びます。


「その黒い球体ですが、どれ程まで魔力を吸収できるのか試したことは御有りですか」


「もちろんありますよ。まあ、普通の学生なら数人程度ならばほとんど問題ありません」


「では、力比べと参りましょう」


 私は思い出しながら、純粋な魔力を込めた球体を生み出しました。ルグリオ様のものとは違って、色は白に近かったのですけれど。


「これも見事に受けきって見せてくださいね」


 笑顔を浮かべると、投げつけるようにレングス様に向かって発射します。


「いいでしょう。何が狙いかは分かりませんが、挑まれた以上、受けて立ちましょう」


 私の作った白い球体と、レングス様の使い魔らしい黒い球体がぶつかり、混ざり合った後、弾けて、後には随分と小さくなった私の白い球体だけが残りました。


「・・・・・・何が」


「説明することはほとんど何のですけれど、一つだけ。何にでも容量はあるのだということです」


 私は後に残った白い方の球体を消すと、呆然としているレングス様へとその球を放ち、意識を奪って、シエスタ先輩たちの、校章の下へと戻りました。

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