4年 vsサイリア 2
いまだにサイリアの選手と接触したような音は聞こえてきておらず、光も見えてはいません。
「岩の組まれ方が迷路のようになっていて、ここまで辿り着くのが難しいのでしょうか」
そうシャノンさんが発言した直後、硬い物と硬い物がぶつかるような大きな音と、それが地面に落ちて転がるような音が聞こえてきました。
その音はだんだんと私たちの方へ近づいてきているようで、一層警戒を強めた私たちは、一応はったりの可能性も考えて、私とシャノンさんで前方と側面を、シエスタ先輩には後方をお願いしました。
「そろそろでしょうか」
音の大きさ、若干ではありますが立ち上る煙を頼りに防壁の方向と造り上げる瞬間を見極めます。
「今ですっ」
私はキサさんに合図を飛ばして、二人で同時に対物及び対魔法障壁を重ね張りします。もちろん出力は最大です。
その直後、目の前にあった岩が砕け散り、飛んできた破片が障壁に弾かれて地面に落ちます。
「ようやく目の前が開けたぞ。おっとこれは好都合。目の前にあるのはエクストリアの陣地じゃないか」
そう言いながら腰に手を当てて豪快に笑われたのは、短い金髪をまとめてピンと立てた大柄な男性でした。
その方の後ろには、ぽかりと穴が開いていたり、えぐり取られたように欠けている大きな岩が見受けられました。
「そして見目麗しいお嬢さん方。さっさと戦いにケリをつけて、デートに誘おう」
「先輩、この後もルーラル魔術学校との対戦が控えていますから、それは不可能です」
「そういえばそうだったな」
いやあ、失敬失敬と頭を掻かれた大柄な男性は、大きくため息をついたもう一人の方へと向けていたお顔を私たちの方へと向けられました。
「まずは自己紹介をば。私は今回の対抗戦におけるサイリア特殊能力研究院の代表を務めているうちの一人、エニール・リフレンス。どうぞお見知りおきを。そして出来れば後日私とデートを」
「先輩、少し静かにしてください。彼女たち、全く聞いていませんよ」
小柄ということはないのですが、エニール様と並ばれると随分と小さく見える男性が、深いため息をつかれた後、咳払いを一つされると、少し緊張した硬い表情でお辞儀をされました。
「私はレングス・ネモルと申します。同院の4年生になります」
てっきりすぐに戦闘に入るものと思っていた私たちは少々拍子抜けして、顔を見合わせました。
「ああ、ご安心ください。我々には名前を知っただけで相手をどうこうできる能力はありませんから」
それを聞いて私たちの警戒は緩むどころか一層引き締まり、完全に警戒態勢に入りました。
「馬鹿ですか、先輩。それよりも早くしないと音を聞きつけて相手校の選手が戻ってきちゃいますよ」
「そうだったな。前回は途中でやられてしまってたどり着けなかったからな。ああ、惜しいことをした」
よし、と意気込まれたエニール様は、一瞬姿が掻き消えたかと思うと、私たちの側面に回り込まれて、まさに校章を破壊せんと手を伸ばされていました。
「私たちを無視して目標だけ掠め取ろうなんて、あんまりじゃありませんか」
「うそっ、今のを止めるんですか」
展開していた障壁に弾かれたエニール様に、レングス様は驚いたような声を上げられました。
認識の外からだろうと、常時展開している障壁ならば、強度を上回られない以上は問題ありません。もちろん、種明かしをするつもりはありませんけれど。
「では次はもっと早く、もっと強力に行こうか」
「二度もさせるとお思いですか」
こちらへ走り出そうとされていたらしいエニール様は、凍り付いた岩に足をとられてその場でびたんと滑られました。
「ぷっ。先輩、何やってるんですか、って、こっちもそれどころじゃありませんね」
シャノンさんの飛ばした不可視の風の刃は、甲高い耳鳴りの後、途中で衝撃波をまき散らしながら消滅しました。
「逆位相の衝撃波で相殺ですか」
「なんと、今の一回だけで見破る、いや、看破されるなんて。さすがですね」
レングス様は本気で驚かれていらっしゃるようでしたが、素直に受け止めることは出来ません。
「ルーナ様」
「はい、シエスタ先輩」
私とシエスタ先輩は頷きあうと、シャノンさんに振り向きました。
「シャノンさん、彼らのお相手は私たちが致しますから、その間、校章をお願いします」
「きっともうすぐレベッタかシンシアが戻ってくると思いますから」
「お、お任せください。お気をつけて」
それだけ言い残すと、緊張した様子で頷かれたシャノンさんに背中を向けて、律儀に待っていてくださったお二人、私はレングス様と、シエスタ先輩はエニール様とそれぞれ向き合いました。
「一対一で相手をしてくれるということか。レングス、これはもうデートと」
「言いませんから」
「他の方に来られても困るのですぐに始めましょうか。エクストリア学院4年、ルーナ・リヴァーニャです」
私が頭を下げると、少し赤らんだ顔を誤魔化すように振られたレングス様は、少し緊張した面持ちで、レングス・ネモルですともう一度名乗られて、距離を保ったままタイミングを見計らい合いました。