アーシャと共闘へ
ゴーレムや人形などを創り出して使役する魔法、どうやらルーラル魔術学校では傀儡術式と呼ばれている様子です。
分身を創り出す魔法とは違い、完全に自分の支配下にあるため、自分の思う通りに、人体の構造上不可能と思われる動きも取らせることが可能です。
その上、もちろん自分で考えて動かしているのですから、その分負担も大きくなるとはいえ、連携も完璧。今も片方の攻撃と、微妙にずらされたもう一方の攻撃を防御するのが精一杯で反撃する隙がなかなかありません。
おそらく男子生徒相手では、女子生徒でも変わらないかもしれませんが、体力勝負では不利がつくため、距離をとっての魔法による迎撃に努めたかったのですけれど、相手もそう思っているのか、なかなか距離をとらせてはもらえません。
反撃のためにもどうにかして距離をとりたいところでしたが、上手くタイミングが合いません。
おそらく普通に距離をとることは無理だろうと考えて、校章の位置と角度を確認して、丁度一人目の攻撃を一回転して交わした後、その反動でもう片方の拳を反射障壁を合わせて受け止めると、私自身をその場から反射させて一呼吸置くだけの間を作り出します。
「その程度で」
すかさず突撃されますが、一投促を必要とする間さえ作り出すことが出来れば、反撃の準備も整います。
「二人を倒す必要はありません。使役者であるあなたを倒せば、もう片方は自動的に止まるでしょうから」
そして、ご自身で考えて動かしているというところにも攻略のための弱点は存在しています。
「あなたからの指示が途絶えれば、あちらの動きにも遅滞が見込めます」
相手の足元の草を使って、さすがに拘束まではすることは出来ませんけれど、足をもつれさせることは出来ます。
足元を注視して、丁度足が上がるところで絡みつかせて転倒させます。先程の発言で、仕掛けられるなら自分の方だと思っていてくださったエイフィスさんに、ほんの一瞬ではありますが、おそらく意識しての事ではないのでしょうが、そちらへと顔を向けられるだけの隙が生まれます。
気にする必要がないと、本心では分かっていても、つい気にしてしまう。
創造物への衝撃が、物と表現するのが適切なのかはわかりませんが人型ではないことも多いため間違ってはいないでしょう、全てではないにしろ本人へと返ってくる。
たしかに、手が増えるのはかなりの脅威ではありますが、同時に弱点もそれだけ増加します。
「しまっ」
慌てて私の方へと体の向きを変えられたエイフィスさんではありましたが、その致命的な隙を逃したりはしません。
片腕に部分的な身体強化、さらに吹き飛ばして意識を刈り取ることが出来るだけの威力を込めた魔法を同じ腕に込めて、ちらりと確認した、乱戦に突入している方へと、力の限りでその身体ごと吹き飛ばします。
「すみません。そちらに飛ばしてしまいました」
丁度良く、ルーラル魔術学校の生徒と、エクストリアの学生を分断できたようで、一筋の道ができていました。
人形の方が形を無くしたことから、どうやら意識を奪うことは出来たようです。
あまりやり過ぎると危険行為と見なされるため加減が難しいのですけれど、どうやら今回は引っかからなかったみたいで安心しました。
それから素早く校章の下にいらっしゃるシエスタ先輩のところへと駆け寄ります。
「エイフィスのやつ、飛ばされたのか」
「みたいだな。知ってはいたけど、やっぱりルーナ様はやるらしい」
小さな声でしたが、アーシャにはしっかりと聞こえていたようで、その場に立ち止まると、怒っているような口調で腰に手を当てていました。
「ちょっと、それじゃあ、私たちは大したことないっていうの」
「え、いや、そんなつもりは」
アーシャが可愛く起こっているように見せかけているので、演技だろうとは思っているのでしょうが、相手校の選手は、意識的にか、それとも無意識でなのか、一歩後ずさりました。
「言っておくけど、うちの学院はルーナだけじゃないんだからね」
言うが早いか、一歩踏み込んだ先には、すでにアーシャは相手選手と肉薄していました。元々立っていたところの地面はめり込んで亀裂が走っています。
「アーシャ、こちらは任せてください」
相手の間に割り込むように入り込んだアーシャに合わせて、私もアーシャの背後に障壁を展開しつつ、身体を滑りこませて、背中合わせになって、私は正面に長身で緑の髪を後ろで固めた男子生徒と、アーシャは短い茶髪が逆立っている男子生徒と、それぞれ向き合います。
「任せるよ」
「シエスタ先輩はそちらにシャノンさんといらしてください」
シャノンさんは衝撃から回復しているようでしたが、おそらく相手取るだけの力は出すことが出来ないでしょう。
「・・・・・・分かりました。こちらのことはお気になさらず、ご存分に」
おそらく本音ではご自身で相手取りたいようなご様子のシエスタ先輩でしたが、私としてもせっかくのアーシャとの共闘の機会を逃したくはありません。
「そろそろ終わりも近そうだし、せっかくだからここでも勝って試合にも勝つ」
意気込んだ表情で空中に魔法陣が展開されます。
「私たちだって負けるつもりはないんだから、ルーナ」
「もちろんです。ここは絶対に通しません」
私はもう一度、対魔法及び対物理障壁を眼前に展開しました。