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4年生対抗戦開始

 抽選、くじ引きの結果、私たちエクストリア学院は、1日目はこれからホームでルーラル魔術学校と、2日目のサイリア特殊能力研究院及びイエザリア学院とは相手校へ出向いての対戦と、割と大変な日程になりましたが、全て相手校へ出向いての試合、という結果にはならなかっただけ良かったとも言えます。


「申し訳ありません」


 くじ引きの会場からエクストリア学院の競技場まで戻ってきて、着替えを済ませるために更衣室へ向かおうとしたところで、シエスタ先輩は頭を下げられました。


「シエスタのせいじゃないし、謝ることなんて何にもないわよ」


「そうそう。むしろ、丁度いいハンデよ。明日は相手校へと乗り込んで、正々堂々とぶっ飛ばしてきましょう」


 先輩方は、所々いささか過激とも言えましたが、シエスタ先輩を励まされていらっしゃったのですが、シエスタ先輩の精巧な人形のような端正な顔立ちは曇った表情を映していました。


「過ぎたことを悔やんでも、しかも、運が悪かった、なんてこと、どうしようもないでしょう。それよりもこれからの対戦に気を向けなさいよ」


 シンシア先輩はそのようにおっしゃられると、シエスタ先輩の腕を引かれながら競技場へと進まれました。


「ところで、ルーナ」


 競技場へと足を踏み入れると、ハーツィースさんが相手校の選手がいる方を見つめながら、静かに告げられました。


「どうかされましたか」


「先程の失礼極まりない輩の事ですが、どの程度ならばやってしまっても構わないのですか。腕の一本でも残しておけば満足するのでしょうか」


 道端に落ちている小石を拾うことに許可を求めているかのような、明日の晩御飯の献立を尋ねるような、そんな何の気ない口調、普段と変わらない口調でそのようにおっしゃられました。


「四肢を引き裂くくらいならば―—」


「大問題です。即刻戦争になりますよ」


 いえ、当然です。そのように心底意外そうな顔をなさらないでください。


「では、捕らえて晒し者ににながら、己の行動を悔い改めるまでご―—」


「まさか、拷問とでもおっしゃるつもりではないですよね。いえ、別に心を読んだわけではありませんよ。少しは人間社会に馴染まれて来たかとも思っていましたが、まだまだみたいですね」


 もっとも、人間も同じような考えをするのでは、との言には反論することは出来ませんけれど。


「どうして学生の競技会でそのような発想に至るのですか。こう言っては失礼にあたるかもしれませんが、学生の口喧嘩程度なのですから何もせずにいても、問題ありませんよ。……おそらく」


 もちろん、こちらの生徒が競技のルール以外のところで、直接にしろ、間接にしろ、被害を受けたというのであれば話は違うのかもしれませんけれど、先程の諍いはまだそこまで色々と発展していたものでもありませんでしたし、おそらくは時が経てば双方ともに冷静になることが出来るでしょう。


「……分かりました。人間のことですから、ここはあなたの顔を立てましょう。ですが、これだけは覚えておいてください」


 ハーツィースさんは依然、厳しい表情のまま、真剣な声音でおっしゃられました。


「もし、我が部族の誹謗を耳にすることがあれば、誰が何と言おうとも、たとえあなたが止めようとも、私は確実にその相手を抹殺します」


「抹殺はしないでください。あなたの種族のことですから、あれこれと口を突っ込むことはしたくありませんけれど、もしそのような事態になったのならば、私が全力でお止めします」


「その件に関して私は引く気はありません」


「私も同じ気持ちです」


 私たちはしばし見つめ合っていましたが、やがて、どちらからともなく目を逸らし、準備運動へと向かいました。

 さすがに、国単位で取引をしているユニコーンに対して何か言うような無謀な者はいないとは思いますけれど、元々のことを考えると、全くないと確証を持って言い切ることはできませんでした。


「どうしたの、ルーナ。思い詰めたような顔してるけど」


「何でもありませんよ。ただ、ルグリオ様とセレン様が見に来てくださっているのかどうか気になっていただけです」


 ルグリオ様とセレン様を言い訳にはしたくなかったのですが、余計なことを言って試合前だというのにアーシャを心配させたくもありませんでしたし、おそらく杞憂で終わるだろうと考えていたので、心配顔を誤魔化しました。


「そんなの見に来てくださってないわけないじゃない。さすがに直前だから遠慮されたのだと思うけど」


 アーシャはほんの一瞬、眉を顰めて訝しんでいるような表情を作りましたが、本当に一瞬のことで、すぐに笑顔を浮かべて私の手を取ると、先に歩いていかれたハーツィースさんとシェリルを追いかけて走り始めました。




 準備運動を終えると、私たちは見事に作成されたフィールド―—―今回は見渡す限り遮蔽物のほとんどない草原のようでした―—―で、開始の合図を待ちました。

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